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知らない世界へ来たようだ

 目を覚ますと森にいた。


「ってまたかよ!」


 俺はまた華麗にツッコミを入れて起き上がる。


「気がついたか」


 声のした方を向くとさっき助けてもらった少女が俺の寝ている切り株の端に座っていた。起き上がり、俺も端に座る。

 既に日は沈んで俺と少女の間にあるランプ以外は明かりがなく、真っ暗になっていた。


「…これを食べたんだろう?」


 しばらくの沈黙の後、どこから見つけたのか少女が昼に食べたキノコを見せる。


「あ、それ俺が昼にかじったキノコ」

「何でこんなもの食べたんだ…」

「いや…腹減ってたし」


 俺が答えると少女はため息をついたあと呆れたように話す。


「これは猛毒を含んでいる。1個丸々食ったら死ぬぞ。もしかして…知らなかったのか?」


 そう言って少女はキノコを後ろに投げ捨てる。


「そうだったのか。かじっただけでよかった…」

「かじっただけって…オレがいなかったら全身麻痺して心臓が止まってたぞ」

「えっ、マジか」


 オレが解毒しておいたと言ってランプを持って立ち上がる少女。


「どこ行くんだ?」

「とりあえず家に帰るために森を出る。ここもいつあいつが来るかわからない」

「へぇ、そう」


 何でこんな所に…と何か言いながら歩き出す少女にひらひらと手を振っていると少女が俺を見て何故か顔をむっとさせる。


「何してるんだ」

「何ってバイバイって意味で手を振ってたんだが」


 助けてくれた人だから、笑顔で送ってあげようかなと思ったんだが?

 なんて思っているとまた少女はため息をつき、戻ってきて俺の手をとって歩き出した。


「はぁ……さっきまで死にかけていた人を、治療したのに置いていく馬鹿がどこにいる」

「いや…だってさ、案内までしてもらうのは都合のよすぎる話かと」

「じゃあこの森で野垂れ死にたいのか?」

「そ、それは…」

「決まりだな。早く行くぞ」

「ちょ!?急にスピード上げんなっていづっ!!」


 痛みのした右足首を見るといつの間にか包帯が巻いてあってすこし血が滲んでいた。


「そうだ、怪我してたんだったな。お前に合わせて遅めに歩くか」

「何で包帯が…」

「オレが治療した。まぁ簡易的なものだけどな」

「スマンな。解毒に治療もしてもらって」

「まだ予備はある。また痛みを感じたら言ってくれ。そういえば、まだ名前を聞いていなかったな。オレの名はルキナ。お前は?」

「俺の名は――」


 返事に困った。今は少女だから俺の名前を言うのも…いやでも別に相手が俺を知ってるわけじゃ……ん?そういえば俺の名前は……名前は…?


「どうした?まだ毒が残っているか?」

「な、何でもない!俺はアスルだ」


 とっさに俺は適当に思いついた名前を言った。たぶんこの身体の子は俺の住む国の人ではないだろうし、妥当な名前だろう。

 そういえば、何で俺はルキナと話せるんだ?名前からしてルキナも俺の住む国の人じゃないだろうし。


「いや、言葉に詰まるということはまだ毒が回ってるかもしれない。ちょっと座れ」

「へ?あ、ああ」


 俺が座ると少女もしゃがんで俺の胸あたりに手をかざして何か唱え出す。


「我、癒しを運びし者。今、我が力を捧げる故かの者の命を縛るものから救いたまえ…」


 ルキナが唱え終るとルキナの手から光が現れ、俺の身体に吸い込まれるように消えた。すると不思議なことに疲労が抜けていく感じがする。


「お、おお!なんか体が軽くなった!何だ今の!」

「何言ってる?魔法だ。光魔法」

「は?魔法?」


 え?何言ってるんだこの人は。確かに手から光が出てきたけど、おかしくないか?この世の中に魔法?いやいや、ないないないない。


「どうした?さっさと行くぞ」

「お、おう。そう言えば、さっきから男みたいな喋り方やめたほうがいいと思うんだけど」

「オレはこれで慣れている。別に女だからってオレって言っちゃダメってわけではないだろう?それに、それはアスルもだ。さっきから俺俺ってしかもアスルって男みたいな名前だし」

「なっ!?俺は男だっつーの!!あっ…」

「…男だったのか?てっきり、女だと思ってた」


 しまった。今は少女だった。男だったのは以前の俺であって今は違う。

 俺は訂正しようと声を出そうとした。が、寸前で止めた。変に女として名乗ったら、当然だが少女として見られる。そうなると俺の男として過ごした10数年の癖が出て、変人と思われかねない。

 それに、仮に女だと名乗ると嘘をついている気分になりそうだ。


「そ、そうなんだよ。よく間違われてさー。はははは…」

「そうか。ざっとここから森の外れまで30(とき)ほどだ。男なら我慢できるだろ?」

「いや、男だからって…」


 こうして俺はルキナに連れられて森を抜けることになった。



◇◆◇◆



「着いたぞ。ここがオレの家だ」


 ざっと歩き始めて30分ほどで森を抜け、周囲に家のような建物がちらほらと見えるようになると、ルキナの家に着いた。


「へぇー。何というか…」


 さっきから見えた家もそうだけどすごく昔の家って感じだな。どこを見ても鉄が全く使われてない。でも木と石でしっかりと造られているから頑丈そうだ。


「それじゃ俺はこれで…」

「おい、どこへ行く」


 俺がルキナに背を向けようとすると肩を掴まれた。


「どこへってとりあえず町とかにでも」

「この時間にか?今だとざっと8の(こく)だ。こんな時間に外をうろつくのは危険だぞ。よっぽど大丈夫だと思うが…町にいる奴隷商人が表通りに出て子供を狙っている可能性もある」


 奴隷!?この現代にまだ奴隷制度があったのかよ!どんだけ物騒なんだよここ!


「でも、ルキナの親にも迷惑だし」

「母さんなら大丈夫だ。ほら、入るぞ」

「え、ちょっ!?」


 またルキナは俺の手を掴み強引に家の中に入った。いちおう抵抗したが無意味だった。この少女非力だな!


「ただいま、母さん」

「お帰りルキナ。遅かったわね」


 女性の声が奥の方から聞こえてきた。そのまま靴を脱ぎ廊下を進むルキナ。

 ……今日はルキナの親にお願いして泊めてもらおう。ルキナが言う通り夜に出歩くのは危険だ。奴隷商人とやらも出るらしいし。


「何かあったの?…その子は?」

「ど、どうも…」

「森で狂獣きょうじゅうに襲われていて、助けたんだ。暗くなったから、家に連れてきた」

「まぁ、狂獣に…怪我は無いかしら?」」


 俺が靴を脱ぐその前に奥から現れた女性は、ルキナと同じ黒髪でとても美人だった。例えるならルキナの成長した姿みたいな…ルキナの母だから当たり前か。


「はい。ルキナのおかげで助かりました」

「今日はもう遅いから、泊まっていきなさい。お腹も空いたでしょう」

「いいんですか!?ありがとうございま――」


 俺がお礼をしようとするとルキナと俺が同時に腹が鳴った。


「ふふふ。もうすぐ夕食はできるからね」


 そう言ってルキナの母は奥の部屋へ戻っていった。


「とりあえず夕飯だな」

「…頂くよ。お金も無いし、空腹でぶっ倒れそうだ」


 お腹をさする俺に、オレもだと言ってルキナは笑った。

 ルキナもルキナの母も親切だ。2人には心からありがとうと言おう。



◇◆◇◆



「で、君のお家はどこかな?」

「ほえ?」


 俺がルキナの母お手製のシチューをたらふく平らげると、不意にルキナの母が聞いてきて変な声が出る。


「あーえっと…」

「明日には君を親のもとに届けないといけないからね」

「アスルって森のこと全く知らなかったよな。ってことは結構遠い所なのか?1人で動いていたらしいけど、他に一緒にいた人とかは?」

「そ、それはだな…」


 どうする?俺がこの少女の住所など知るはずがない。うーむ、とりあえず俺の住所でも…


「そうだ、ちょっと待ってね」


 ルキナの母は何かを閃いたのか思うとリビングから廊下に出て、すぐに戻ってきてテーブルに大きな羊皮紙を広げた。


「ここ周辺の地図なんだけどわかる?」


 俺が悩んでいたのを察してくれたのか、親切にも地図を持ってきてくれた。だが俺はそれを覗いてみたが、すぐにわからないと返答した。続いて国全体の地図を出されるがこれも俺は首を横に振る。

 地図は俺の世界地図の記憶を総動員してもわかるような所ではなかった。やっぱり外国だったようだ。ならなぜ会話ができるんだ?聞いても俺がいつも話してる言葉と何ら違いはない。


「どうやらもっと遠くのようね。これは世界地図なんだけどわかるかしら?」


 今度はテーブルにさっきのより大きい地図が広げられる。よかった、世界地図なら俺の住む国を指させばわかる。

 俺はホッとしながら地図を覗いたが、すぐに驚愕した。


「な、なんだよこの地図。全然違う」


 俺の知っている世界地図とは全く違った。俺の暮らしていた国はどこにも見当たらず、俺が知っている国も1つもなかった。


「えっと…世界地図って他には」

「他にも色々あるがどれも似たような物だ。でもこの地図は1番正確だって国から認められたやつだ」


 国から!?じゃあこの地図がデタラメとは言い難い。どういうことだ?そういえばさっきルキナの母がキッチンで何か唱えたら薪に火がついていたし。あれもルキナの言う魔法…?


「ま、まさか…」


 俺はようやく1つの可能性に気がつき唖然とした。

 深くは考えていなかったが、目が覚めたら突然違う身体。得体のしれない食材や動物。全く知らない土地や地図。なぜか通じる言葉。現代にしては遅れ過ぎた家。火をつけたり傷を治せる『魔法』。常識では考えられないことだらけだ。当然痛みを感じるあたり、夢じゃない。

 つまり…


「俺はどこか知らない世界にでもワープしたとでも言うのかよ…?」


 俺はその瞬間頭に衝撃が走り、力が抜けて椅子から崩れ落ちてしまった。

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