CANDYPOP4『私』
CANDYPOP4『私』
期末試験が終わり、よいよ高校最後の遊べる夏休みだ。
来年から大学受験をだと思うと気が重い。
そして、それよりも気が重いのは・・・・・。
私たちの高校は午前中は終業式、昼休みが合って午後に高校全体を大掃除することになっている。
何時ものように、窓際で私と麻衣と池澤君とでご飯を食べていた。
しかし、私はご飯が喉を通らず、手元にある成績表だけを見ていた。
相変わらずの、私の中のなかの中の勉強ステータス。
順位がちょうど真ん中って狙ってもなかなか取れないよ。
「ずっと、成績表見たって順位は変わらないわよ」麻衣はあきれれて私に言う。
麻衣は大分やつれていたが、勉強やせではなく同人誌やせらしい。
それでも、成績が上位なのが少し腹立たしい。
「そうそう、勉強なんて適当にやってればいいさ」池澤君は陽気に言うが、池澤君は私の一つ下の順位だ。
いや、私は本気でやってこれなんですけど。と言いたかったがそれはそれで恥ずかしい。
遠くにいる森下君グループ、白土さんグループを覗くことができたが、二人はいつも上位10位内に入る常連だ。
私って本当に普通だなっと嘆きたくなる。
「ねぇ、亜矢。今度の行くでしょ?」麻衣の言葉に私は我に返った。
「どこにだっけ?」私は訊き返えす。
「ちゃんと聞きなさいよ。夏休みのアニコミ、私の同人誌も出店してるんだから」麻衣は私を睨んだ。
「そうだ、亜矢は森下と白土と仲がいいからあの二人を誘ったら?」麻衣は思いついたように言う。
それは名案!っと思ったが、アニコミの会場でスイッチが入ってしまった二人の地獄絵図が目に浮かぶ。
そうなると、結局私が二人の保護者にならないといけない。
「考えてみる」と私は深いため息を漏らした。
午後の掃除の時間。
私のクラスは森下君がてきぱきとクラスメイトに役割を与えていく。
さすが、スイッチの入ってない森下君は頼もしい。
それぞれが役割を命じられるが、何の因果か私は美術室を掃除することになってしまった。
それも一人。
私は箒と塵取りをもって、美術室に向かった。
まぁ、しょうがない。確かに私はここの美術室を使っているんだから。
私は窓を開けると、温かい風が美術室の中を吹き込み日差しが眩し。
美術室の中が暗いせいか、太陽ががまぶしくて外の景色を見てるとクラクラする。
とりあえず、早く終わっちゃったら他を手伝わされるからゆっくりやろう。
美術室の絵を見ながら、ゆっくりと掃除を始めた。
ここに何回も会議で訪れたが、この美術室の倉庫はどうも怪しい気がする。
なんと言っても、美術部が無いはずのなのにちょっとずつ真新しい絵が増えていく。
「おう、ここを掃除てるのは百武さんだったか。これは運命の悪戯って奴だな」池澤君は美術室の中に入ってきた。
「ここは私だけで大丈夫です。他を手伝ってきてください」私は池澤君から顔を背けた。
「相変わらずそっけないね」そう言って池澤君はため息を漏らす。
「でも、俺は先生にここの片付けを頼まれたんだよ」そう言って、池澤君は美術室の油絵を一つ手に取った。
「百武さんたちは知らないだろうけど、君たちが話し合いをしていない日は俺がこの美術室を使ってるんだ。もちろん、先生には承諾を貰っているけどね」私は驚いて、池澤君を見た。
「それじゃ、この絵は池澤君が描いた絵なの?」私の問いに、池澤君は嬉しそうに肯く。
「凄い」私は呟いて、美術室に飾られた油絵の中で最も好きな絵を手に取った。
「さすが百武さん、お目が高い。その絵は優秀賞を獲った絵なんだぜ」池澤君は自慢げな表情を見せた。
そして、また・・・・・私は劣等感にさいなまれてしまった。
他人の光を見れば見るほど、私の黒い影が見えてくる。
「どうかした?」池澤君は心配そうに私を見つめる。
きっと、私は相当深刻そうな顔をしていたのだろう。
「なんでもない」私は再び美術室の掃除をテキパキと始めた。
池澤君はそんな私をただ眺めていた。
今日が一学期最後の会議。
相変わらず、森下君と白土さんの白熱したロリコン、ショタコン合戦が繰り広げられていた。
メモを見ると、「私はもうショタコン一筋に生きる」、白土さんの発言に追従して「俺もロリコン一筋に生きる」と森下君。
こういう発言の時だけは二人の波長がぴったり合う。
あとは「やっぱり、ロリータファッションはありえない。神聖なロリを侵害している」「ショタにロリータファッションが最高だね」「少年に女装させるなんてただの変態だろ?」「少女はやっぱり白水、スク水」「あんたこそ変態でしょ」といつものようにカオスなせめぎ合い。
私はため息を漏らした。
ホント、いろいろな意味で二人は才能の塊だ。
麻衣だって、成績いい上に同人誌でお金稼いでるし。
池澤君も、油絵で優秀賞なんかとっているって言うし。
私って、ホントに個性が無いな。
なんだかだんだん惨めで悲しくなってきた。
この美術室の空間は気持ちいいけど、きっと私はこの二人と一緒居ることで私も光ってるって感じたいだけなのかも。
あ、やばい。
私は肩をひくひくさせて、なんとか泣くのを耐えようとした。
森下君と白土さんも私の異変に気付いて、心配そうに見つめる。
「どうした?亜矢」
「大丈夫?」
二人の優しい声が私を余計苦しくさせてしまう。
私は顔を手で覆って泣き出してしまった。
二人は何も言及することなく私のそばに居続けてくれた。
森下君は私の背中を優しく撫でてくれて、白土さんは私の髪の毛を撫でてくれる。
「私、何に・・・泣いてるんだろ?」私の泣きながらの声を聞いて、森下君と白土さんが顔を見あわせた。
「最初は、皆には才能があるのに私に何もなくて、個性が無くて・・・・・・・悲観して」私は鼻をすすった。
「でも・・・・・それでも。こうやって二人に励ましてもらえることが嬉しく・・・・・本当に嬉しくて・・・・・」
白土さんは私を抱きしめてくれた。
それを拍車に、私はさらに泣き続けてしまう。
どれだけ時間が過ぎたのか?私は少しづつ落ち着くことができた。
「亜矢にも個性はあると思うぞ」森下君は私に言い聞かせた。
「だって、俺や白土みたいな特殊な人間を受け入れる包容力がある」私は首を横に振った。
「それは・・・・・それは麻衣がボーイズラブだったからなんとなく慣れちゃって」私は言いよどんだ。
「でも、その麻衣ちゃんのボーイズラブも受け入れてあげたんでしょ?」
私は白土さんの言葉に大きく肯いた。
「やっぱり、亜矢には才能がある」白土さんは笑顔で言ってくれる。
私は何度もうなずきながら、また泣き始めてしまった。