よん。
ほぅと一息着いたところに、姫様と呼ぶ声が聞こえてすす、と襖が開いておかっぱ頭の女僮が手を突いて頭を垂れる。
「姫様、客人さま。宴のご用意が出来ましたので大広間へお越しくださいませ。」
「宴だなんて聞いていないわ。」
どうせ、あの外見だけはよろしい奴の仕業だろうと思いつつも伺う。
「長様よりの姫様と客人さまへの御祝儀だそうで。」
__あ、の!糞っ!
思わず口が悪くなっても仕方がないと思う。それに伯父だって私が本気で結んだとは思ってないだろうに。
「凛、___!」
風がしめやかに吹いた。
とん、と音をたててクナイが畳に落ちる。
「鬼、姫様を名で呼ぼうなど……死に値…」
「朱、いらん。収めろ。」
目の前にさっきまで手を突いていた我が家の式の一人、朱が雪柳に向けてクナイを放ったのだ。当然、私の眷属である加護があるから当たらなかったのだが。はぁ、溜め息が零れる。
「姫様、」
「私が赦しているわ。貴方たちがとやかく言う必要はない。それに、長の客人であるこいつに無礼よ。」
朱はもう一度恭しく頭を垂れた。
「御無礼お許しくださいませ。それでは姫様、お客人さま、大広間にてお待ちしております故」
朱は襖を音もなく閉めていく。
トンと軽い音がした瞬間、盛大なため息をついたのは私だ。溜め息もつきたくなるだろう、
「すまないわね、我が家に仕える式だから上下関係に厳しいの。」
「いや、……俺もお前を姫と言った方がいいのか?」
__姫、
彼の口から出てくるなんて思わなかったから虚をつかれて少し返答に困る。
「……や、貴方はいいわ。ただ、呼び捨てはキツいものがあるかしらね……。いいわ。皆がいるときでは私のことを蒼と呼びなさい。」
「蒼、か。たくさん呼び名があるのだな。」
彼が少しだけ苦笑して、私もそれにつられた。そう、自分を表す名詞なんてたくさんありすぎて嫌になる。古くからの字が首をいくつもの楔で締め付ける。緩く緩く、次第に重くなって身動きが取れなくなるのはわかっているのに。 んー、と背伸びをして彼を見上げる。私よりも頭ひとつと半分高い彼はどこか遠くを見ていて掴めない。
__まぁ、なんで雪柳がここに来た経緯も理由も伯父が私に結べという理由もまだわからないけど。
「私の加護は、私よりも下位のモノにしか効かないわ。といっても、この一族では私よりも血も能力も上位なモノはいないから安心して。せいぜい、伯父で同位か少し劣るくらいよ。」
腐れ狸どもが時間をかけて破ろうとするなら別だけど。
「さて、とりあえずは宴ね。何言われても笑っときなさい。いや、軽く交わすくらいでいいわ。」
紫金はまだ光を放たない。
何かあると踏んでいるけどわざわざおおっぴろに暴くのは性じゃない。だから、
「地道に行くわよ……」
は?と目で問う彼ににこりと微笑んで。
襖を開ける。
さぁ、いざ出陣っ!
「出陣って………」
「しょうがないじゃないっ!コメディなのよっ!!なんかシリアスっぽいからやれっていうお達しだったの!!」
真っ赤になる凜を雪柳は生暖かい瞳で見ていたのだった。
お粗末様でした。




