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隣に鬼。  作者: 橙音柚子
鬼が婿入り?
1/5

いち。

「__もう一度、言っていただけますか……?」


御年、50歳になる伯父上は奥様方にモテるほどの美形である。滲み出る渋みや紳士的な振る舞いが奥様方にはグッとくるらしい。

そのお方が我等が神桜一族の筆頭長なのだが。

いきなり、爆弾発言を落としたのだ。


「聞いていなかったのかい?しょうがない子だねぇ」


優しげに細められる瞳にいつもならにこやかに微笑みを返していただろうが今日は違うっ!


「__凛、こいつと結びなさい」


伯父は隣に座っているこの世のモノとは思えないほど美麗なひとを指差して笑った。

確かに、私みたいな女に貰い手などいないから有り難いがそれとこれとでは話が違うのだ!!


だって、だって___


「こいつ、鬼じゃんっ!!」


「鬼でも婿入りくらいするぞ?」


淡々と嬉々として話す伯父の隣のひと__鬼を指差して叫んでしまっても誰も咎めやしないはず……。



私、神桜凛は魔を払うものとして代々受け継がれてきた一族の先代長の娘である。

昔から鬼とは狩って狩られるという敵対関係だったのに___!

私が記憶している魔との記憶を引っ張り出しても友好関係が築けたのなんてない。

伯父だってそこらへんは弁えているはずだし……。

何より、このことを一族の人等が許すわけがない。



__なのに何時の間にやら何故こうなった。



伯父を真正面から見据えてアイコンタクトをはかる。けれど!


「凛、見る相手が違うのではないかい?」


にこやかにスルーするな、このくそ親父っ__!

思わず式を飛ばしてしまうところだった……。危ない危ない。


伯父はそんな私を見てまた笑みを深くする。おい、


「さて、邪魔者は退散しようかな。凛、澪に鶯谷の間を教えてあげなさい。」


伯父は私に反論の隙を与えず、さっさと出て行ってしまった。狸めっ!!

そして私はゆっくりと彼、目の前にいる鬼に向き合った。


伯父が出て行った後、無駄に静かな空気が流れる。

気まずいったらありゃしない。



こんなの、ガラじゃないのに__。


「えーと、私は神桜凛。貴方は?」


少し色素の薄い肌

それに加えて紺の髪色がよく目立つ

瞳は紫金でなんとも言い難い光を放つ。

青年は少しばかり私を驚いたように見つめて声を口にする。


「俺は、澪。一応は真名だが……あまり使わないでくれると有り難い。」


「澪?いい名じゃない。まぁ、鬼にも色々ありそうね。」


一応、真名は魂を縛るものだから鬼にとっては弱点にもなる。そんなの私に教えてもよかったのか、なんて問えない。


「じゃあ、なんて呼べばいいの?」


「……凛の好きなように。」


少し目を伏せる姿はなんとなく儚さを思い出させる。あぁ、そう言えば__


「朝顔は、儚い恋だった。白詰草は約束。竜胆は正義感………鈴蘭は繊細………」


思いつくまま、彼から取れるイメージの花詞と花を口にしていく。あぁ、後は……。


「雪柳、静かな思い……。そうっ!雪柳!」


彼と、繋がるモノ。目の前にいる彼が初めからそう呼ばれていたような気がしてくる。


「あなたは、雪柳。どう?いや?」


「……いや、じゃない」


美しい、青年はふっと優しい笑みをもらした。それがあまりにも綺麗で見惚れてしまった。そっと印をくんでいた指をはずして気を抜く。襖の側に待機させてある式も少しばかり緩めて、彼を見る。鬼、という最初の区別を少しだけ緩ませる。まだ知り合ったばかりで正直手放しで歓迎が出来るわけでもない。

けれど__


「私は、貴方を歓迎するわ雪柳。」


にこりと笑って手を差し出す。それくらいは大丈夫。彼、雪柳も戸惑いつつも優しげに重ねられた手に悪意も敵意も感じられなかった。





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