スカウトされると生活が変わる
「お怪我はございませんか?この部屋から悲鳴が聞こえたと聞きましたが」
一目で高級品だと分かる服をきた老人が、ものすごい勢いで扉を開け部屋に入ってきて青髪の女に聞いた。老人と言ったのは年は60代半ばから後半位に見えるからだ。
「大丈夫です。それから、此処ではそのような言葉遣いは止めるように言ってるではありませんか。マリオ伯爵」
「そうでした。申し訳ありません」
老人改め、マリオ伯爵はそう言って頭を下げる。
(『伯爵』って事は貴族だよな。その貴族が頭を下げる相手となると王族か?けど昼間に使者が話してると思われる会話が有った時は俺と此処に居たはずだ。普通なら王族としてこの国の偉い奴に会うよな?)
今俺は情報収集を行ってる最中だ。と言っても何もすることが無いので、空間に小さい穴を開けて客間の覗きと盗み聞きをしているだけだなんだけど・・・。
(あーあ。昨日の夜に急にこの部屋を使う事になったなんて知らなかった・・・)
1人になり城のあちこちで詳しく盗み聞きをした結果、侍女の愚痴により判明した衝撃の事実だった。
おかげで俺の脱出計画は狂い、この空間に逃げ込んでいる間に城の警備を固められ、完全につぶれた。
(暇だ。多分時間は夜になってきたんだろうな。腹が減ってきた)
今まで決まった時間に食事をとっていた為、空腹で時間がだいたい分かる。
「マリオ卿。少しよろしいか」
「何かな、ミリア殿」
客間の方で動きがあり、赤髪の女性ことミリアがマリオ伯爵に声をかけた。
「王女は何もなかったと仰られたが、実はあったのだ」
「本当か!?」
マリオ伯爵が少し大きめの声を上げた。
「静かに!寝室に行った王女に聞こえるではないか!」
「すまん。で、何が有ったのだ?」
「ウソのような話だが真実だ。実は部屋の真中に黒い空間が出来たと思ったら、そこからみすぼらしい服を着た男が出てきてな。その男に驚き王女は悲鳴を上げたのだ」
「・・・・・・・・・・・」
マリオ伯爵はミリアの話を聞き沈黙してしまった。
(やっぱり言ったよ。何が約束するだ!早々に破ってんじゃん!!)
俺は1人空しく心の中で騒いでいるが、客間の方は沈黙が支配している。
「本当なのだ、マリオ卿。その男はこの城の兵士が王女の悲鳴を聞き駆け付ける前に、私と王女を自分が作ったとかいう空間に落とし、しばらくして部屋に兵士が居なくなってからまたこの部屋へと私たちを戻したのだ!!」
最後の方は興奮してなのか声が大きくなっていた。
「・・・それが本当だとしたら大変だぞい、ミリア殿」
沈黙していたマリオ伯爵が話はじめた。
「それがもし本当ならその男は『失われし魔法』の使い手」
(!!!!!)
俺はマリオ伯爵の言葉に驚いた。
(伯爵は何か知っているのか?それとも、元々ばれやすい魔法なのか?)
「そんな・・バカな・・どう見ても何も出来そうにない餓鬼だったのに・・・」
驚いていたのは俺だけでなくミリアもだった。
「ウソは言わんよ。それに見た目で相手を判断するのは良くない。それから、覗きとは趣味が良いとは言えんな。どこの誰だが知らんが出てきたらどうかな?」
(!!!バレタ。何故バレタ???)
俺は考えても埒が明かないと思い、正体を現すことにした。
「申し訳ない。何しろ情報が欲しかったものだから」
俺はちょうど2人の後ろである位置に立った。
「な!・・・貴様は昼間の・・・」
ミリアが物凄い形相で睨みつけてくるのに対し、マリオ伯爵はいたって冷静な顔をしている。
「ここでは何なので、場所を移させていただく」
俺は2人にそう伝えると、異空間に落とした。
「これが時空間魔法・・」
俺が異空間に戻ると、マリオ伯爵が聞いてきた。ミリアの方はもうすでに剣を抜いている。
「ええ、それよりなぜ知っているのです?」
「我が家の先祖が今から2000年前に活躍した魔法使いの親友だったらしくてな、その人が使う魔法の偉大さを後世に伝えるようにと言い残したのよ。だから古代魔法に詳しいのじゃ。それからその人の言葉は我が一族の魔法に対する考え方にもなっておる。“魔法は想像力や発想力次第でいくらでも使い方が広がる”」
「俺の本と一緒だ・・・・」
マリオ伯爵の言った言葉は確かにあの魔導書に書いてあったのと変わりがなっかった。
「そうか。では改めて聞こうかの。お主が何者なのか」
マリオ伯爵の声は何処かゆったりしていた。
「とある事情でこの城に居る者で、名前はアオイ・エドガワという」
「ほう、アオイ殿か。わしはイニエスタ王国外務卿アルスト・マリオ。爵位は伯爵じゃ。そしてこちらが、ミリア・イルマニ。イニエスタ王国近衛騎士団副団長じゃよ」
マリオ伯爵が教えてくれたが、俺に向けて殺気をとばしている。
「すまんな。所でアオイ殿はこの国に仕えておるのか?」
「いいえ」
「そうか。・・・・・・なら、我がイニエスタ王国に来ぬか?」
それは突然の申し出だった。
この申し出に俺は驚き、ミリアも聞き違いではないかという顔をしている。
(何か企みか事情が有るのか?でも、このままこの国に居ても何も出来ないだろうし、殺されるだけの運命だ。もし企みが有るのならその時はその時だ)
俺はこの申し出を受けることにした。
そして、この申し出こそが後に歴史の分化点となるがこの時はまだ誰も知らない。