想定外の遭遇者
「いよいよ夜が明けるな」
俺は閉じ込められてる部屋の中で夜明けを待っていた。いよいよ今日この部屋を脱出する。
(あーあ、楽しみで眠れないなんて小学生か俺は。まぁ、ちょうど100日で区切りもいいしな)
ここの脱出を決めてから俺はひたすら情報収集と魔法の練習に明け暮れた。まず、ここが何処か分からないと脱出の計画が成り立たない。そのため情報を悪魔の耳を使い集めたら、ここはアスガラ王国首都『クザク』の王城であるアスガラ城の東塔という4つある塔の1つである事が分かった。
また本に書いてあった魔法は全て覚えて使えるようになった。と言っても実は3つしかない。
1つ目は『結界魔法』。その名の通り結界を張る魔法だ。基本的に防御に使うようにと書かれていた。
2つ目は『時空間魔法』。これはかなり便利で、自分で空間を作ったり、異空間を移動すればワープも可能だ。ただしワープは移動場所のイメージをはっきりしないといけないので1度行ったところでないといけないらしい。
3つ目は『強化魔法』。この魔法はシンプルでただ強化するのみ。ただシンプル故に1番使い勝手がいい。
本には『これは基本です。あなたの想像力や発想力次第でいくらでも使い方がひろがります。』と書かれていた。要するに「魔法は想像力次第ですよ」と言う事だと解釈した俺は、計画を立ててその準備も昨日の段階で終わらせた。後はタイミング次第だ。
(そういえば昨日初めて俺の仕事の進み具合を聞きに来たな。向こうも我慢が限界なのか?)
≪コト≫という音が扉の方から聞こえた。朝食が来たらしいので俺は朝食を食べることにした。
★
「出来たか?」
朝食を食べ終え、椅子に座り本を書いてるふりをしていると扉が開き、昨日様子を見に来た兵士が入ってきた。
「ええ、ちょうど今出来た所です」
そうウソをいい、すでに出来ていた本5冊を手渡す。
「そうか。これできっと宰相様も喜ばれる」
兵士はそう嬉しそうな声を出し部屋から出ていった。
(宰相!?殿下じゃなく何故宰相なんだ?)
俺は予想していなかった人物の名前に一瞬考えたが、行動を起こさねばと思い脱出作戦を開始する。
(やりますか)
まず、俺は奥にあるトイレなどに通じる扉を開け、中に入る。
俺がいた部屋は見張りのいる部屋から丸見えの為、何かするには不適だ。そのため唯一扉のあるこの場所に来ないといけない。ちなみにこの世界のトイレは水洗式ではないが臭くなく、シャワーが普通にある。
扉をきちんと閉めた俺は、空間魔法を使い空間に黒い穴をあける。ここからこの城に来た初日に居た部屋へとワープする為だ。あの部屋は客間のため、普段は使われていないのだ。
俺は穴に入る。そうすると入口が消え、辺りが真っ暗になった。そのまましばらくいると目の前に穴が開き外に出れるようになった。
(何回も練習で使ったけど、なんか呆気ないよな)
そう思いながら穴から出ると、そこは間違いなく初日に居た客室だった。
(よし、成功した。ここから城の外に「きゃぁぁぁぁ!」・・・うん!?悲鳴??)
恐る恐る声のした方を見るとそこには2人の女の人がいた。
「な、な、な、何ものですか」
1人の女の人が前に出てもう1人を庇うように立つ。
(おい!おい!おい!!見られたよ。どうするよ!?さっき悲鳴を上げたから多分兵士が来る・・いや来たな。足音が聞こえてくるよ、それもかなりの人数の。どうする?時間がない!あのとっておきの空間に逃げよう!この2人も一緒に)
俺はそう決めるとまず2人の足元に穴をあけ、とっておきの空間に落とす。続いて俺も足元に穴をあけ落ちる。落とすためにあけた穴が閉まるのと、兵士が部屋に入ってくるのはほぼ同時だった。
(何とか間に合ったな)
ホッと一息を入れてる俺に前とは違い肝の据わった声がとんできた。
「貴様何ものだ!!ここは何処だ!!」
先ほどと同じように1人の女性がもう1人を庇うように立っている。前に立つ赤髪の女性は背が高くガッチリした体格をしているが、後ろに立つ青髪の女性の方は胸がでて、腰が細く、お尻も出てるという素晴らしい体をしていた。
「俺はアオイというもんだ。そしてここは俺が作った異空間だ」
ここは俺が時空間魔法を使い作った空間だ。広さは20畳くらいと広い作りになっていて、空間の中は薄暗いが明かりがともっている。ちなみに此処に来るのは俺が魔法を使えばどこからでも来れるが、此処から出れる場所は来るときに魔法を使った場所のみだ。
「わけが分からん!!空間を作ったとか言っていたがお前はバカか?」
赤髪の方が怒鳴ってくる。
「本当の事を言ったまでだ。それより名前はなんていう?それから何故あの部屋に居た?」
「貴様なんぞに名乗りはせん。そんなことより貴様自分がした事が分かってるのか?外交問題だぞ」
(外交問題?って事はこいつらはこの国の人間ではないのか。少し外の声を聞いてみるか)
俺は情報を集めるため悪魔の耳を使った。
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「本当にこの部屋から悲鳴が聞こえたのか?誰もいないぞ」
「おい!聞いたか何ものかが脱獄したらしいぞ」
「我が国といたしましては同盟を結びたいと・・」
「昨日は急きょ部屋を決めたけど今日から違う部屋に移動してもらうよ」
「急いで探せ。イニエスタ王国の使者がいらっしゃているのだぞ」
「ほう、こちらが異世界よりの客人殿ですか」
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(なるほど、今日は『イニエスタ王国』って国の使者が来ているのか。って事はこの二人はその使者の関係者か。それから俺の逃走が判明したらしいな。このままいくと失敗になる可能性が高くなってきた)
「あの、アオイさん。あなたは何者なのです?」
今までしゃべらなかった青髪の女性が話しかけてきた。
「失礼ながら、とても王宮で暮らしている方の服装には思えないのですが」
青髪の女性に言われ改めて自分の服装を見る。俺が今着ている服はこの城できるように言われた服で、西洋画の農夫の人がきている様な服装だ。ここに来た時は前の世界で来ていた服だったが、ここに着いて直ぐに着替えるように言われたため前の世界の服は没収されたままで、俺の手元にない。
「まぁ、色々あってね」
流石に「異世界から来て幽閉されてました」なんて言える訳がないので言葉を濁しておく。
(どうしよう・・・。この2人をこの空間に連れてきたのは失敗だったな。俺1人であの場から消えて落ち着くのを待つ方が圧倒的に良かった気がしてきた)
「おい!いい加減に此処から出せ!!」
赤髪の女が我慢の限界に達したらしく、隠していた短剣を出してきた。
「ちょっと待て!!俺は武器持ってないし、危害を加えるつもりもない。ただ君ら2人が外に出てから俺の事を他人に言いと約束するなら此処から出す」
武器の登場にビビった俺は何とも幼稚な条件を提示した。
「分かった。言わないと誓おう」
赤髪の女がそう答えるが顔が笑ってる。
(こいつ絶対に言う!間違いなく言う。けど『いきなり空間に穴が開き、そこから出てきた男に連れられ変な空間に拉致されたんです』なんて言っても普通は信じない気がするから、良いのか?)
「良し。なら出すぞ」
外の部屋に人がいない事を確認した俺は2人を空間から出した。
(さて、どうするか考えるか)
俺は1人になった空間で作戦を立てなおしを始めた。