魔法のお勉強をしましょう
小さな窓から光が入り、部屋から暗闇がなくなりはじめる時間。城の中の住人達は行動を開始する。これは城だけに限らず城下町も同じだ。テレビやゲームなどが存在せず、電球もないこの世界では夜は寝るものというふうに認識されている。
(まったくもって健康的な生活をしてるよ・・。日の出とともに起きるなんて)
少し自虐的笑みを浮かべながらベットからおりて、俺は行動を開始する。
まず顔を洗う。そしてその後、部屋の入り口でもある扉に向かう。そうするとそこには朝食のパンとスープがお盆にのって置かれている。
(流石に飽きてきたな・・・)
毎食変わらない食事を見て思う。
「今日で2週間か・・・」
自分しかいない部屋の中でぽつりとつぶやく。速いものでここに来て2週間が経とうとしていた。
(2週間毎食これじゃぁ、飽きても仕方ないか)
そんな事を考えながらテーブルにお盆をおき朝食を食べ始める。
この2週間の間、俺はずっと部屋の本で魔法や『伝説のブシ』について調べた。その結果かなりの事が分かってきた。
まずこの『伝説のブシ』というのは2000年も昔に存在したと云われる男の事だった。2000年前、突如現れたこの男は『ジパング』という国を興し、大陸を統一したらしい。そして従来の言葉と違う、今使われてる言葉を大陸中に広げて言語も統一し様々な事を行ったのだという。伝説と言われるのは後にも先にも大陸が統一されたのがこの1度きりだからだ。
次に魔法だが実は3種類もある。
1つ目は『属性魔法』。これは俺の予想どうり基本属性と派生属性があり、基本は火・土・水・風、派生が雷・氷になっていた。そしてこの魔法は才能がなければ使えず、複数の属性を持つ者は稀らしい。
2つ目は『無属性魔法』。この魔法は魔力が有ればだれでも使える魔法だ。明かりをともしたり、傷を治したりする魔法があるらしい。
最後に『失われし魔法』と言われる魔法だ。この魔法は『古代魔法』とも言われていて、2000年前までは普通に存在していたと文献に出てくるが今は無くなってしまった謎の魔法だ。『ジパング』が意図的になくしたとされる説が今のところ最有力だとか。
(この『伝説のブシ』は日本人だったんだろうな・・。本の言葉も日本語で書かれていたし・・・。って事は、こいつも俺と同じように神によってこっちに送られたんだろうか?)
パンを全て平らげ、スープも飲み干し、お盆を元の場所に戻した後再び椅子に座る。
「さぁてと、やりますかね」
掛け声をかけた俺は今まで1度も見ていない仕事用と言われていた本を開いた。
(何だこりゃ!???)
本の1ページ目、そこに書かれていたのは文字というより絵に近かった。
(全部同じかよ!!・・・甲骨文字に近い感じだな)
すべてのページを見てみたが、そこには歴史の教科書の写真に映ってそうな文字しかなかった。
(これ訳?というか解読?というか分かんないけど俺に読めるか?)
予想外の文字の出現に俺は戸惑った。そもそも万象の目には翻訳機能はついていない。あの時半ばハッタリで言ったらここに連れてこられたのだ。
(読めなかったらどうしよう・・・。いまさら『ウソです。本当は読めません』とか言っても多分殺されるだけだろうなぁ・・・。俺がいなくてもカカシが居るし、俺に対する言動はとても歓迎的とは言えないし・・・。最悪頭の中にある小説でも書いておくか・・・・)
半分諦めながら万象の目を使い本を見る。するとそこには今まで見えなかった赤で書かれた文字が見えるようになった。
(おおお!!!!!読める!!!!この赤文字が多分読み方なのだろう!!!)
そう思い早速赤で書かれた文字を読んでみた。
≪ああ、なんて愛しき人なんだ。この僕の心を狂わし、離さない君は僕の天使だ。僕はm・・・≫
「なんじゃこりゃー!!!!!!!!!!!!!!!」
この日ここに来て以来初めて大声を出した。
★
(どうすっかな。素直に書くのは何か気に入らないな・・)
2日前に大声を上げたため扉から兵士が入ってきて事情を聞かれ、素直に話し、部屋に来た兵士に殴られた後、再び本を読みだした俺はようやく全5冊全てを読み終えた。
(変な事ばかりなら悩まないのに・・・)
本を閉じ、椅子からベットに移動し寝転がる。
(4冊はそのまま書けばいいけどあの本をどうするかだな)
全5冊の内4冊は変人の書いたエッセイだったり、片思いの男の書いた詩だったり、18才以下は見ちゃいけない小説だったりしたのだが1冊だけ違った。
その本だけは『魔法使いマジュちゃんのサルでも分かる魔法教室』という題名がついており、中も魔法について書かれていた。
(もしかして、俺にこの本を訳させるのが狙いなのか?)
そんな考えがあの殿下と呼ばれていた奴の顔と共に頭に浮かぶ。
(たしかあの時、俺の能力を聞き一瞬だが驚いた顔を見せた。そしてすぐに父のもとに駆けていった。護衛と見られる兵が行先を聞いていた事を考えれば予定されていた事ではなく、急きょ決めた事なのだろう。その後、時間にして1時間経っていないくらいで、俺の元に兵士が来て文字を訳させる仕事をやるように言ってきた。普通に考えてあの殿下が命じさせた事なのだろう)
俺はベットの上に起きあがり、問題の本を手に取り更に考える。
(あいつは殿下と言われてたし、名前に国の名前が入ってる事を考えれば父親は国王の可能性が高い。じゃあ何故国王の元に行った?さんざん俺の事を能無しと罵っていたし、兵士の俺に対する態度を考えれば王の許しを得ないと仕事を命じられないほど大切な存在ではない。となると、この本を持ちだすことに王の許しがいると考えるしかない。つまり、この本は国にとって重要な本で中身を知りたい、けど正直文字が読めない。そこに魔法の無い異世界から何も知らない、文字を読める能無し男がやってきた。ならこいつに事情を話さず、いくつかの同じような本と一緒に訳させてしまえばいいと考えったってとこか)
そこまで考えたがまた俺の中に疑問が生じた。
(なぜ俺なんだ?この本を訳す為とわいえ、いきなり現れた見ず知らずの人間に重大な秘密が隠された本を託すか?他に読める人間は本当にいないのか?それに俺がこの本について何も気づかないとおもってるのか?)
「う~ん」っとうねり声をあげていると部屋の中に明かりがついた。
「もうこんな時間か。もうすぐ夕食か」
この部屋は窓がかなり高く小さいため少し日が落ち始めると暗くなってしまう。それなのでこの部屋には現代の電球みたいな魔道具がいくつかあり、それが時間になると光るようになっている。
(うん!?・・・あいつらは俺を殺す気じゃないか?そうじゃないと考えがまとまらない)
俺は久しぶりに気持ちが高まってきた。
(前に居た世界では普通は考えないが、知られたくない秘密を知られてしまった時の1番安全かつ簡単な方法は知られた後、誰にも接触させずに殺す事だ。そうすればその秘密を知った者のみで済むし、他人に漏れる心配もない。正に今の俺の状態がそれだ。秘密を知っても誰とも接触出来ず、窓からの逃亡は不可能、唯一の出口には兵がいるし、倒せるほどの力を俺が持っていない事は知っているのだろう。それに、もし俺以外にこの本を訳せる奴がいないとしたら、俺がきちんと正しく訳したか確認するすべがない。つまりこれは本を訳させるのが本当の目的では無く、俺を殺す事が目的でたてられた計画の可能性がすごく高い。異世界初日の俺の対応での話し合いを盗聴した時に、何が何でも殺したかった連中がいたんだから間違いないだろう。そして、本についてだがこれは本当に訳せる者がおらず、訳が出来ればれば儲け程度に考えてるんだろう)
ここまで考えたとき、部屋に夕食が届いた。相変わらずパンとスープだ。
俺は届けられたパンとスープを食べながら続きを考える。
(殺されると分かっていて何もしないほど俺はお人よしじゃない。もし、この事態を切り抜けられるとしたらあの魔法の本に賭けるしかない。食べ終わったらあの本を万象の目で見て、今後を考えるとするか)
俺は考えるのをやめ、黙々と夕飯を食べ、お盆をかたずけ、例の本を手に取り今度は本自体を万象の目でみる。そうすると表紙と思われるところに説明が書かれているのが見える。
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≪魔法使いマジュちゃんのサルでも分かる魔法教室≫
今から2000年前、魔法使いのマジュちゃんこと『マジュリーヌ・マシル』が書いた魔導書。当時『ジパング』における最高の王宮魔術師である彼女の得意とする魔法が記されており、むやみに使われないように古代文字で記した。この本に書かれている魔法は危険なため王と相談後、封印されると同時に当時使われていた同じような魔法を全面禁止し後の世に残らないようにされた。また、古代文字も禁止とされたため読める者がいなくなった。
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(・・・・・・・・。それって、『失われし魔法』じゃねぇ!?)
しばらく考えたのち俺は決めた。この魔法を覚え、ここから脱出しようと。