余計な事を言うと碌なことがない
~時を少し遡り、アオイが王都を発って2日目~
「やっと着いた。ここが旧王都イニエスタ」
王都を出てからひたすら北に進み、森の中の細い道を歩き続けた俺は、目の前に現れた巨大な城壁を見て呟いた。城壁の横の長さは今までいた王都より一回り小さいが、高さは約1.5倍程、そしてその周りを深い空堀が囲っている。
(想像よりはるかに難攻不落の要塞って感じだな)
そう思いながら城門をくぐり、中に入ると人の少ない城下町になった。
(やっぱり、これだけ交通が不便だと物流が悪いな。要塞としては満点に近いのにな)
通りを歩きながら伯爵に教えてもらった人物の家に向かう。その人の名前はブレイダー・ストロング、元イニエスタ王国将軍で今は隠居してこの旧王都に住んでいるらしい。
伯爵に、今回の脱出路封鎖と旧王都への避難について女王に進言できる人はいないかと聞いたところ、この人の名前を上げてくれた。伯爵とは旧知の仲らしいがかなりの変わり者だったらしい。
(お!ここか)
教えてもらった場所には、屋敷があった。この旧王都には、たくさんの屋敷があるが、この屋敷以外ほとんどが荒れ果てている。
「何の用だ」
俺が門に近ずくと門番の男が1人声をかけてきた。
(えーっと、名前がマーク・ストロング。属性は土、才能は剣か)
万象の目で人物を確認しておく。
「私はアオイ・エドガワといいます。王都外務卿マリオ伯爵の紹介でここに来ました。ブレイダ元将軍にお会いしたいのですが」
初対面だし、訪ねてきた身なので丁寧に答えておく。
「分かった」
そうマークは言い、門をくぐり屋敷へと歩いてゆく。そして屋敷の中の客間と思われる場所に案内された。
「ここでお待ちを」
そうマークは言い残し部屋を出ていった。
言われたとおりにしばらく待っていると、廊下に足音が響き、1人の隻腕の老人が部屋に入ってきた。
「よう。お前がアリストの使者のガキか?」
そう俺を見て言ってきた老人は、何と言うか豪快な雰囲気と覇気を纏っている。
「ええ。マリオ伯爵より文がございます」
「嫌、見んでも内容に検討はつく。どうせ戦に参戦してくれとかいう内容だろ」
そう言って俺の前にあった椅子に腰かけ、俺にも座るように言ってきた。
「見てもらわないと困るのですが」
そう椅子に座りながら将軍に答えた。
「もうわしは引退した身だ。いまさら戦いなどしたくはない」
「見るだけでも良いんですが」
そう俺が言っても全く見る気配がない。
(よわった。・・・ここは仕方ないから少し攻めるか。後は伯爵の手紙に賭けるしかないな)
将軍に何としても協力してほしいので、少し方法を変えることにした。
「ブレイダ―・ストロング元将軍。孫のマーク・ストロングに私が伯爵よりの使者と聞いた時点で、あなたは私の要件に見当がついたはず。それなのに何故私にあったのですか?」
この言葉で元将軍の顔が変わった。
「お前、何故に孫のマークが門番だと分かった」
(喰らいついた!!)
俺は心の中でガッツポーズをし、伯爵からの手紙を差し出す。
「全てはこの中に書いてあります」
「・・・わははは!わしは嵌められたわけか」
少しの間があった後に突然笑い出し、手紙を読み始めた。
しかし、手紙を読み終わり俺に視線を向けた時の元将軍の顔には笑みはなくなっていた。
「ここにある様な事態になってると云うのは本当か?」
「ここにある事態とは?」
「四家全てが反乱を企て、協力し、王国騎士団2万が王子派に味方したという事態だ」
「ええ、ほとんど間違いはないですね。ですが、想定していたんじゃないんですか」
そう、さっきこの元将軍は『戦いに参戦しろとか言う内容だろ』と言っていた。だから俺は、戦が起こるのは想定していた事態とばかりに思っていた。
「戦が起こったという事は想定した。だが規模が違う。わしは四家の1つとその取り巻きの貴族が相手だろうと考えていた。四家全てと王国騎士2万を相手に戦うなどとは想像してない」
(やっぱりこの国の人間は、最も最悪の事態まで考えないのかな?)
将軍の言葉に伯爵が前に言っていた言葉を思い出し、俺はそう思ってしまった。
「異世界から来たと云うアオイ。分かっている事だけで良いから話してくれ。頼む」
そう言って元将軍は頭を下げた。
「まずは、頭を上げて下さい。それから俺に対して変に言葉を改めないでください」
「うん?そうか。なら、アオイ聞かせてもらおうか。それから言葉は気を付ける必要はないぞ」
「正直気持ちが悪い」と小声で付け加えが俺には聞こえていた。
「気持ち悪くてすいませんね。それから俺が知ってると云っても、変わってる事があるかもしれないよ」
「うう・・聞こえていたか。・・まぁ今は情報が少ないから変わっていても良い」
「まず、敵の兵力は15万、構成は王国騎士2万・四家騎士団3万・貴族の兵10万。対するこちらは総勢7万、構成は王国騎士4万・近衛騎士1万・貴族の兵2万。敵の指揮官は分からないけど、こちらの指揮官は2日前の軍議で近衛騎士団団長ルシオで、策は籠城。俺が知ってるのは以上」
俺の知っている限りの情報を聞いた元将軍は天を見つめた。
「よりによって、あの馬鹿団長が指揮官か。最悪だな。いったいどうやって決めたんだ?」
ルシオを馬鹿団長としたこの目の前の元将軍に2日前の軍議について詳細に話した。
「・・・アルストがお前に力を貸すように言ってきた理由が分かった。元部下を過大評価をし過ぎていたな」
そう言って元将軍は頭を抱えた。が、直ぐに切り替え口を開いた。
「とりあえず、ここに書いてある通りに王都に使いを出そう。ただし条件がある」
「条件?」
突然の条件提示に困惑したが、協力の見返りなので出来るだけ応えようと心に決めておく。
「そうだ。この文にある『三国志』というのは何だ?」
「え?」
あまりに予想外の質問にこうとしか声が出なかった。
「だから、『三国志』というのは何なのだと聞いとるんだ」
「『三国志』っていうのは俺の世界にある物語の名前だよ。史実を基に作られたお話」
仕方ないので答えてあげた。
「それをわしにも読ませろ。それが条件だ」
「いや、この世界にはないけど・・・」
「ウソをつけ。何でもお前が暇つぶしで書いた物があってそれが凄く面白いから読んでみろと追伸に書いてある。アルストが読んだと云う事はこの世界にあるではないか」
(伯爵、何余計なこと書いてんだよ!!よりによって、このめんどくさそうなジジイに何伝えてんだよ)
「嫌なら協力せんぞ」
俺の様子を見て、にやつきながらジジイが言ってくる。
「完全に脅迫じゃね!?元将軍ともあろう人間が民間人に何脅迫してんだよ」
「脅迫ではないは、ただの条件だ。交渉事とはそう云うものであろう。それにお前は民間人ではない。どこに元将軍に戦の協力を求めてくる民間人がいる?」
つい口から出た言葉に対し、以外に正論をぶつけてきた。
(ちくしょう。正論だけに反論できないし、協力が無いと困るのは俺の方だから呑むしかないのか)
そんな俺の葛藤を前に完全に「どうする?」とにやつきながらジジイがおちょくってくる。
「・・わかった。その条件を呑もう」
仕方なく条件を呑み、元将軍ことジジイの協力をえる事が出来た。
(畜生!何かムカつくから少し改ざんした三国志を読ませてやる)
そう心に決め元将軍宅での生活が始まった。




