ストレスは突然爆発する
2台の馬車が10人ほどの騎士に囲まれながら、イニエスタ王国の首都である『アシーダ』に向かい進んでいた。この内の1台に外務卿であるマリオ伯爵と立派で豪華な馬車に不釣り合いの服装をした俺が乗っている。
イニエスタ王国に仕えないかという問いを承諾した翌日、外務卿とその護衛の騎士は自国への帰路についた。堂々と同行できない俺は外務卿の持っていた袋を異空間につなげ潜み、国境を越えてイニエスタ王国内に入る事に成功したのだった。
「魔法至上主義!?」
「左様。そういう考え方がこの世界には存在する。特に先ほどまでいたアスガラ王国はその傾向が顕著で、王宮や国に仕えるには魔法を使えないとダメという考え方をしておる。それえに、これはどの国でも言える事なのだが家柄や血を大事にする考え方が根強くある。いわゆる選民主義的な考え方じゃな。わしは、正直賛同しかねる考え方なのじゃがな」
『無能』と呼ばれていた理由が知りたくて、俺は向かいに座るマリオ伯爵に聞いてみたのだ。
(やっぱりか。薄々予想はしてたけど。それに選民主義的考えを持ってる奴が何処の国にも居るとか・・・。そんな下らん血や生まれの家を気にしてるから未だに1度しか大陸統一が出来てね―んだよ)
マリオ卿は俺が何を考えているのか分かったのか苦笑いをしている。
(ちなみに俺が異世界から来たという事は教えてないが、多分感づいてるんだろうな。この人・・・)
目の前に座る老人を見る。外見は好々爺だがとてつもなく鋭い。
「ところで、俺は一体どんな仕事をしたらいい?」
俺がマリオ卿に聞く。実はどんな事をするか何も聞かされていない。
「そうじゃな。多分じゃが、わしかミリア付きの家人になると思うがのう」
(ミリアってあの赤髪の女騎士だろ!!それだけは絶対ヤダ!!俺はこのじいちゃんがいい!!)
「そんな顔をするでない」
「ふぉふぉふぉ」と笑いながらマリオ卿は俺に言ってきた。
(俺は顔に出やすいのか?)
俺が1人顔を捻っていると外に居た騎士の1人が近づいて来て、アシーダにもう間もなく着くと告げてきた。
★
ここ、アスガラ王国の王宮はハチの巣を突いたような感じになっていた。
「どこに行ったのだ!!!!」
この国の宰相であるアインテルンは大きな声を上げた。明らかに怒りが有る。
1国の宰相がここまで怒っている理由は、6日前の異世界人脱獄事件によるものだ。自分が計画した策略により殺すまであと一歩の所まで追い詰めたのに、そこから大逆転をくらい逃げられたのだ。しかも、自分が散々能無しとバカにし続けた男に。
「見つかりません。王宮内をくまなく探しましたが何処にも居ません」
居なくなったと報告を受けてより6日、これしか兵士たちは報告してこないのも余計に彼をイラつかせた。
「申し上げます。異世界人を閉じ込めていた部屋のトイレより魔法を使った痕跡が出ました」
そんな彼の元に7日目にしてようやく違う報告が入ってきたが、それは予想外の報告だった。
「バカをいうな!!あいつは能無し、つまりは属性なしだぞ!!」
「ですが、魔法省調査局からの報告ですので間違いないかと」
魔法省とは、魔法が発達しているこの国独自の機関で、魔法の研究や調査を専門とするプロ集団だ。
「この事を王に報告しろ。それから宰相命令で各大臣を緊急に招集。会議を開く」
「殺しとけばよかった」宰相は小さくそう呟き部屋を出た。
★
イニエスタ王国首都アシーダはとてつもなくデカかった。町全体を城の門が囲んでおり門をくぐるとそこは活気あふれる区間が続き、中央にそびえたつアシーダ城は白い城壁で造られた城だった。イメージとしては某夢の国にあるお城を想像してもらえればいい。また、城自体は平城だが近くに川が流れているらしくその川が自然の水掘りになっている。
そんな町の中を中央の城に向かって馬車が通る。すると町の人々はその場に膝を立て頭を下げて馬車が通り過ぎるまで動かなかった。
(おおー。なんか本格的に異世界に来た感じがする)
そんな町や城を見て俺のテンションが上がってゆく。
「ふぉふぉふぉ。そんなに興奮せずとも。それよりアオイ殿も王に謁見するんじゃからな」
「え!?聞いてないんだけど・・・」
「うん?いい忘れておったようじゃな。これだから年はとりたくない」
そう言い1人で「ふぉふぉふぉ」と笑っている。
(いやいや、嫌な予感しかしないんだけど・・・・)
そんな俺はお構いなしで馬車が城に到着した。
★
(やっぱり、俺の勘は当たるな・・・。もうヤダ)
俺と伯爵、そしてミリアは王に謁見するため謁見の間に来て跪いている。この部屋はテンプレ的な感じだ。赤絨毯がひかれ、王が座る場所は2段高くなっていて、赤絨毯の両脇を国のお偉いさんが立っている。
(あー、嫌だ。人の事ジロジロ見ながらコソコソ話すんじゃねーよ)
俺はこの両脇に立ってる奴らの注目の的になっている。1部の人は好奇心からなのかジ―っと俺を見てるが、それ以外の奴の視線は様々だ。気付かれないようにちらっと見てくる奴、嫌悪感丸出しで見てくる奴、中には殺気をとばしてくる奴までいる。
(速く王様来てくれないかな?)
俺がそんな事を考えてると、奥の扉が開いた。この扉が開いた事で両側に立ってる人間全員が跪く。
そして、開いた扉から騎士が2人先に出てきて、その後を若いイケメンの青年が入ってきた。
(王様、若くね?)
俺がそう思ってると、その後ろからその青年につき添われるように、よぼよぼのおじいちゃんが入ってきて、その後ろに青髪の王女、改めルーナ王女が入ってきた。
先導の騎士2人が王の椅子の真横につき、イケメン君とルーナは王の椅子より1段下、俺たちより1段上の所に立った。椅子にはよぼよぼのおじいちゃんが座った。
「「「「王に拝謁いたします」」」」
王に対し跪いていたお偉いさん方が一斉に声をそろえて言った。
「うむ。一同面を上げよ」
見た目はよぼよぼだがしっかりした声で王が答えた。その言葉に皆が立ち上がったので、俺もそれに倣う。
「アルスト・マリオ。只今アスガラ王国より帰還しましてございます」
そう言ってまた伯爵が跪いた。横に居るミリアも跪いたので慌てて俺も跪く。
少し遅れた俺に対して何人か奴が殺気に近い視線を向けてくる。
(俺は悪くないぞ!!何にも聞いていないんだから・・・・)
馬車が城に到着する直前に謁見の事を聞いたので、どうすればいいか伯爵に聞いたら、わしの真似をすれば問題ないと笑いながら教えてくれた。
「御苦労。してその後ろにおる少年は何者じゃ」
王がいきなり俺の事を聞いてきた。
「は。帰還の途中で見つけた、才ある者にございます。何処にも仕官をしていなかったので、連れてまいりました」
マリオ卿が王に対し説明すると、王の目が一瞬だけ変わったが直ぐに元の目に戻った。
(一瞬。本当に一瞬だったけど王の目が変わった。何か驚きと安堵の感情が有った気がする)
「そうか。その者については伯爵に任せる。以上じゃ」
そう言い王は、イケメン君とルーナと騎士と一緒に部屋から出ていった。
王たちが完全に居なくなり、これで終わったと思ったらそうではないらしく、皆帰る様子がない。
「マリオ卿、その子供で何を企んでいる」
いきなりお偉いさんの列の先頭に近い方から声が上がった。
「宰相殿、企むなど人聞きの悪い。ただ、この子には私の仕事の手伝いをと思いましてな」
宰相と呼ばれた男が移動したため、姿が見えた。そいつは肥えた豚みたいな体格をしていた。
「ふん。おい!お前何処の出身だ」
(何だこいつ!?初対面の奴にはみんなこんな感じなのかこの異世界では!能無しだの、貴様だのみんな見下した言い方しかできないのか?)
俺は今まで我慢していたイライラが爆発寸前までになる。
(あの国はクソだと思って、この国に来たら殺気とばすし、上から傲慢な感じで言ってくるし)
「おい、お前聞いてるのか」
「閣下がお尋ねなのだ、速く答えろ」
俺が答えないでいると宰相の周りに居た連中までもが騒ぎだした。
「うっせ―んだよ!!豚が!!!」
俺のイライラが爆発して、怒鳴った。すると宰相の周りの奴らが怒鳴りかえしてきた。
「無礼だろうが!!」
「無礼だ!?お前らバカか!!先に無礼はたらいてきたのどっちだ?お前らだろうが!!!」
俺はキレたためもう止まらない。俺の変わりように伯爵もミリアも驚いている。
「口を慎め貴様!誰に向かって言っているか分かってるのか」
「礼儀知らずの肥えた豚とその金魚のフン達ですけど?なにか?」
「貴様!!」
宰相が俺に向かって手を向けてきた時だった。突然前の扉が開くと人が入ってきた。
「大変です。陛下がお倒れになられました」
その声により、この部屋に居る俺以外の全員がフリーズし、慌ただしく動き出した。
そんな良く分からない雰囲気の中俺にマリオ伯爵が近づいてきた。
「いったんこの場を離れるぞ」
そう言って俺を連れて謁見の間を出ていった。




