第1章 part3
「っと、早く行かねぇと」
ふと我に戻り教室をあとにする。どうせ考えたところで意味ないしな。
下駄箱で靴をはきかえ、門へと急ぐ。
辺りはオレンジ色に染まり、煌々(こうこう)と輝く太陽も闇と言う名の真実に侵略されつつある。
小走りで門まで行くと、恋雪が頬を膨らませ、明らか不機嫌そうに足元の手ごろな石を
蹴っていた。
「悪い、遅れた」
「……遅い!」
と、強く言い放ってから先に道を歩き始めた。
長年一緒にいるから分かることがある。これは少しヤバイ……
こんな小さなことだったのにそこまで怒ってらっしゃるのですか、恋雪さん
「何か怒ってる?」
恐る恐る後ろから着いていい、訊いてみた。
「んー? 別に怒ってないけど?」
にこっと振り向きながらそう言うと、さっきよりも早足で道を歩き出す。そしてそれはスキップに変
わり……ってスキップっ!? ヤバイ、ホントにヤバイ。こいつがスキップする日は宇宙から隕石が落ちてきてもおかしくねぇ。実際雹が降ってきたことはあったし……
わずかに高鳴る心臓、実際には胸のあたりにあるはずなのに耳の近くにあるんじゃねぇかと勘違いしてしまう。
「やっぱ怒ってるよな?」
「怒ってない!」
「怒ってますよね?」
「だから怒ってない! 後なんで敬語っ!?」
「どうか許してください」
「もうそこまでくるとうざいんですけど……」
「帰りにお前の好きなシュークリーム買ってやるから」
「じゃあ許す」
「やっぱ怒ってるんじゃねぇか」
「にゃ!? そ、蒼麻……誘導尋問したわね」
「今認めたよな? あきらか認めてるよなっ!?」
「……もう知らない。ほら、早くいくわよ。あそこのシュークリームおいしいんだから時間によっては
売り切れちゃう」
「はいはい」
ため息交じりに呟き、財布の中身を確認する。お札が何枚か消えてしまうことを覚悟した。
☨