第2章 part3
ただ、それでも今の現状には脳も身体も心もついていかなかった。
パァァァァァァァァァァンと言う何とも言えない効果音の後、視界には紅一色。そして人も車も、鳥も雲も、全てが《動》と言う事を忘れたかのように停止した。
そんな中、恋雪の正面にまで近づいて立っている謎の影。
背丈は一八〇センチくらいだろうか、長身の体躯。頭から深くかぶったパーカーせいで顔はよく見えないが、右目は前髪によって隠れている。前身は黒く染まったコートを羽織り、暗闇の中ではかなり存在感が薄く感じる。
「あ、あなたっ、は、なんですかっ!? これは一体……」
のどが震えながらもなんとか絞り出した声は恐怖しか感じられない。
「そんな怖がる必要はない。今のこの世界は私たちしか《存在》していないことになっている」
「わ、わたし……たち……?」
ビクッと身体を震え上がらせながらそう言った。
「そうだ」
「ちょ、ちょっと待ってください。理解が……どういう事なのか全く――」
「分からなくてもいい。いずれわかるときが来るから」
恋雪が言葉を言い終えるよりも早く影は告げた。
「……じゃぁ今、この世界に《存在》するのは私とあなた……だけなんですね……?」
いや、そうじゃない、そう言いたげに影は顔をしかめ、首を横に振った。
「そこで倒れている彼もだ」
「――っ!?」
蒼麻を指差しながらそう発した。だが、言った後すぐに「いや、今はそれより」と話題を振りなおして、
「まず、君は彼を助けたいか?」
「っ!? はい、そりゃ。でも……」
恋雪は蒼麻を一瞥してから再び影を見つめた。
握りしめた手は汗でぬれていた。
――不安、その一言が恋雪の心を支配していた。急に現れた謎の影。空中には大きな蒼い壁を発生させている。滑稽などと言った単体の言葉では言い表せない。まるで底の見えない谷底に手を入れるかのような感覚。躊躇や逡巡と言った行動に移せるようなことでもなかった。




