第1章 part11
その時、
「あっ!?」
かなり遠くの正面、対向車線からやって来る車が蒼麻の視線の端っこに入った。かなりのスピードをだし、他の車にぶつかりながらもやって来る。少しずつ、でも確実に大きくなるエンジン音が蒼麻の心臓をより締め付けた。
ドクンと大きな音が体の中で鳴り響いた。
足が震えていた、正夢にしたくないから? 手が痺れていた、現実と受け止めたくないから? 違う、怖いからだ、怖いから震えて痺れてるんだ。
蒼麻は痺れる手を握り締める。
自分との葛藤をしている間にも車は確実に近づいている。
その場にいたい、動きたくない。そうすれば危険も何もなく安全にいられる。ただ、恋雪は……夢ではそこで目覚めた。先にどんなことが起こったのか、そんなのはもう絶対に見れないだろう。
「恋雪……」
それでも、恋雪を失うなんて、嫌なんだ!
「恋雪ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ――――っ!」
スーパーの袋をその場に投げ捨て、一心不乱に恋雪へと走った。
蒼麻の急な叫びに周りの人は驚いたが、今の蒼麻には全く関係ない。
今出せる全速力で恋雪へと駆け寄る。すると暴走車は思ったより近くにいて今にも恋雪の身体をはねてしまいそうだった。
「恋雪ぃぃぃっ!」
「……え? 蒼麻?」
蒼麻が大きく叫んだ声は恋雪の耳に伝わり、恋雪は振り返った。
蒼麻が今、なぜこんなにも真剣になって自分の方へ走ってくるのか、恋雪には分からなかった。
だが、
「恋雪、前、前!」
蒼麻が指を前方にさしながら必死に何かを伝えようとしている。その姿を見て恋雪は再び振り返り前を見つめた。
「えっ!?」
と、目の前にはものすごいスピードを出した暴走車がすぐそばまで来ていた。
周りにいた人が「キャー」だの「逃げろー」だの叫びだす。傘が投げ捨てられ、蒼麻の行く先を塞いでいく。
蒼麻は水たまりを踏んで、そしてそのまま踏み切る。宙に投げ出される身体で恋雪の身体を押し出す。
蒼麻の身体が流れに任せたまま流れたすぐあと、暴走車は走り抜け、近くにあった電柱に激突して止まった。
「い、痛っ……」
恋雪が擦りむいた肘を見つめて言った。
「そ、蒼麻?」
恋雪はあたりを見渡し、自分を助けてくれた蒼麻の姿を探す。
「ちょ、そ、蒼麻!? 蒼麻っ!?」
そして自分のすぐ隣で横になった蒼麻の姿を見つけた。声を書けても動かない姿を見て嫌な汗が流れる。
「蒼麻、蒼麻……」
肩を揺らしながら声をかける。
しかし、それでも蒼麻は反応を示さなかった……




