5〜enjoy in the sea !〜
青い空。
白い雲。
きらめく水平線の目の前には、そんな夏の海を謳歌する人たちが水着姿で賑わっていた。
そんな中、もちろん私たちも……―――。
「きゃー、冷たいっ」
「でも気持ちいいね〜」
私と咲子は久しぶりの海に触れ、はしゃいでいた。
まだ浅瀬ともいえるそこでは、膝くらいにしか水面はきていない。
そんな私たちにおにいちゃんが近づいてくる。
肩には大きなビニールボードをかついで。
「これいる?」
そう言っておにいちゃんはビニールボードを海に投げる。
「あ、いるいる!おにいちゃんありがと〜」
早速そのビニールボードに乗る私と咲子。
ゆらゆらした不安定なバランス感が面白い。
私はそんな風にはしゃぎながらも、視線を辺りにまわしていた。
……実はさっきから気になっていた。
「ねぇ、稔くんは?」
一緒に海にまで来たはずなのに、水着に着替えたあとから稔くんの姿は私の前から消えていた。
そのうちひょっこり現れるかな、と思っていたけれど、まだ姿が見えないから不安になってきてしまった。
私に尋ねられたおにいちゃんは首をひねった。
「さぁ?何か着替えた後用事あるから先行ってて、て言われたんだけどさ」
……用事?
こんな海に用事って何なんだろう。
稔くんの行動はイマイチわからない。
(……もしかして)
――昨日私が怒らせたから、私に会いたくないとか……?
ツキン、と胸が痛んだ。
そんな風には考えたくないけれど、昨日確かに稔くんは怒っていた。
今日いっぱい遊んで仲直りすればいいか、なんて私は考えていたけれど、もしかして安易に構えすぎていたのかな……?
(稔くん……)
もしかして私……嫌われた……?
胸の痛みが、不安の苦しさに変わろうとした―――その時だった。
「それっ!」
「きゃあ!?」
「うわっ」
バシャーン!!
……と、私たちのまわりに水飛沫が飛びはねまくった。
まだ足しか濡れてなかったのに、私も咲子もおにいちゃんも、その衝撃でびしょ濡れになった。
突然の出来事のあとに、満足そうに笑う聞き慣れた声が聞こえた。
「へっへっへっ、さすが稔くん!命中率百パーセント!」
そこにはまるでバズーカのような大型水鉄砲をかついだ稔くんが、してやったりの顔で笑って立っていた。
悪戯っ子のように笑う稔くんにその姿が、あまりにもよく似合う。
「み、稔!」
咲子は仰天したように叫ぶ。
一方おにいちゃんは、稔くんの持つ水鉄砲を見た途端キラキラ目を輝かせた。
「お!それって今噂のウォーターバズーカシリーズの最新モデルじゃないか!?」
「あ、やっぱ信也さんお目が高いね〜!」
稔くんは得意げにまた水鉄砲(ウォーターバズーカ?ていうのかな)を担ぐと、それを私に向けた。
「ほら美央ちゃん、いっくよ〜」
「え!ちょ、まっ……」
逃げようとした私目掛けて、稔くんは容赦なく水鉄砲を発射した。
「それ!」
「きゃあー!」
水鉄砲は私付近の水面を打ち、思い切り飛び散った飛沫に私はびしょ濡れ。
もちろん近くにいた咲子も。
「やー、メイクがぁ〜!」
「びしょびしょ……」
私と咲子は顔を気にしながら嘆いた。
けれど稔くんは顔をくしゃくしゃにして笑ってこう言った。
「せっかく海にいるんだからメイクとか気にしてちゃ損だって!それよりも遊びまくろーよ!」
そう言って笑う稔くんはまるで太陽みたい。
眩しくて、可愛くて、私は思わず目を細めた。
……大丈夫、稔くんは怒ってない。
それどころかこんな風に、昨日ぎくしゃくした私との距離をなくそうとしてくれている。
そう思ったら、心のわだかまりがスッと消えた。
「も〜よくもやったわねぇ!おにいちゃん、稔くんをビニールボードに乗せて!」
「了解!」
さすがは私のおにいちゃん。
それだけで私が何を企んだかわかったらしく、ニヤリと笑うと稔くんを肩にかついだ。
「へ?」
ちょこんとビニールボードの上に乗せられた稔くん。
ビニールボードの横に手をかけた私とおにいちゃん。
きょとんとそれを見守る咲子。
私はおにいちゃんと目を合わせると合図を口にした。
「……せーの!」
ぐい!とビニールボードはひっくり返され。
「わああぁ!?」
バッシャーーン!!
稔くんはあえなく海に消えたのであった。
さぁ、遊びまくるぞー!




