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恋って素敵  作者: マオ
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恋って素敵(さぁ行ってみよう)

 昔々、とある国でのお話です。


 悪いドラゴンにお姫様がさらわれました。

 しかし、王もお妃も姉姫も臣下も民も、首を傾げました。

 ドラゴンがさらったのは、とても美しい第一王女ではなく、平々凡々な容姿の、第二王女だったからです。

 それでも、王女を見捨てるわけにはいきません。

 王は、姫を救い出すために、『歴戦の戦士』達を送り込みました。軍を動かすわけにはいきません。

 ドラゴンは空を飛べる。軍を動かしている間に、次は第一王女の姉がさらわれるかもしれないと、恐れたのです。

 そして、三ヶ月。ドラゴンを倒しに行ったものたちは誰も帰ってきません。

 王は国中に御触れを出し、姫を救い出したものに望みの褒美を出すと言いました。


 それから、さらに三ヶ月……。


 巨大なブラックドラゴン・ハントルールイの前で、魔術師・チュレットとソート、姫君・ユーラシアスは立っていた。山が開けた場所であり、人が通る箇所からは離れている。ハントルールイは最凶といわれているブラックドラゴン。たとえ性格がおとなしくとも、人間はまず、見た目で判断する。人気のない場所を選ぶのは、気弱な彼を護るためでもあった。

 最強のドラゴンであるくせに、文通相手に『会う勇気がない』と告げられて、地の底まで落ちこんだハントルールイをなだめすかしてなんとか飛ばし、ここまできたのである。

 ハントルールイの初恋の相手、ドーリンドールが住む場所の近くまで。

「本当にいくの? ドーリンドールのおうちに? ねぇユーラシアス」

 ここまで来たというのに、ハントルールイはまだぐずぐず言っている。

「ドーリンドールに嫌われちゃわないかな? 迷惑だよね? 僕に会いたくないって……言ってたよ」

「参ります。あなたはここにいてくださいね、ハントルールイ。大丈夫、あたくし、ドーリンドール様がどのようなお人か、少々お話してみたいだけですから」

 にこやかに微笑むドラゴンの友人である姫君は、いつもの微笑とは違う、頑固なものを感じさせる笑顔だった。たんぽぽの綿毛のような印象の、深窓の姫君だと思っていたのだが、違う一面も持っていたのだと、ぼんやりとチュレットは思う。


 その頑固なところに押されてついてきてしまった。が、どうすればいいのか。

 世間知らずのお姫様が、一体何をする気なのか。

「行って来ますわね。ソート、ハントルールイをお願いしますわ。チュレット、一緒に来てもらえます?」

「へ、俺?」

「ええ」

「え、姫様、私は?」

「ソートはハントルールイを護っていてくださいまし。人気がないとは言え、人が来ないわけでもありませんでしょ?」

 ユーラシアスはチュレットの手をとった。姫君の、柔らかい苦労を知らない手の感触。

 え、なんだこれ。握り返していいもんか? うわ、柔らかい。これで手を繋ぐの何回目だった? 小さい頃を入れて、えーっと。いや違う。

「って、何をしに行くのか考えてるのか? まさか文通相手に会いなさいと言いに行く気か?」

 我に返ってユーラシアスに問う。姫はあっさりと言い返した。

「いいえ。あたくしがハントルールイの恋の味方であること、ドーリンドール様はご存知ありませんもの。会って下さいましなんて、お願いできませんわ」

 姫がチュレットを見上げる。

「あたくしの知りたいのは、ドーリンドール様のお人柄です。今までハントルールイと上手に文通なさっていらっしゃったのに……あちらから会いたいとおっしゃたのに、どうして断られたのか……気になりますもの。チュレットも気になりますでしょ?」

「いや、そりゃあ……でも、ほら、向こうにだって都合があるだろ? ……言いづらいけど、好きな人でもできたのかもしれないし」

「それならそれで構いませんわ。でも、ハントルールイに対して、曲がった嘘をついて欲しくないのです。愛する人がいらっしゃるなら、ちゃんとそう伝えていただきたいわ。ハントルールイは、それで怒るようなお人柄ではないでしょう? ドーリンドール様の幸せを願うような優しいドラゴンですもの」

「まぁ……それは俺も同感だけど……」


 あのドラゴンが、騙されたとか裏切られたとかで大暴れするとは考えにくい。

 ハントルールイとはまだ三ヶ月の付き合いだが、それでも、見境なく暴れる彼を想像できない。

 ユーラシアスと歩きながら、チュレットは向かう方角を伺う。

 ドーリンドールという女性が住んでいる場所は、森の一角にあるはずだ。伝書鳩がいつもそこへと届けている。

「おい、そこ、危ない」

 姫が転びそうになり、あわてて手を引っ張る。王宮や整備された道しか歩いたことのない姫である。よくこんな場所を歩く気になったものだ。

「歩きづらいですわ……」

「そりゃあ、森の中だからな。歩いたことなんかないだろ?」

「チュレットは慣れていますの?」

「それなりには。本職の木こりとかじゃないから、専門的なことは分からんが」

 チュレットの育った街の傍には森もあった。キノコを取りに行ったりしたので、そこそこは森の中も歩ける。もっとも、姫に会ってからは死に物狂いで勉強の毎日だったので、最近は森歩きなど全くしていない。それでも、姫はなんだか納得した様子で頷いた。

「チュレットと一緒なら、国を追われてもあたくし困りませんわね」

 ……深い意味あるのか、今の。どう反応していいんだ、これ。

 眉間にシワがよるのを自覚しながらも、チュレットは姫の手を離さない。

「ほら、穴ぼこがあるぞ。気をつけろよ」

「まぁ、小さな穴ですわ。崩れたにしては小さいですわね」

「モグラだろ」

「モグラですの? まぁ……見てみたいですわ。でも、今はそれどころではありませんものね」

 

「お前ら、何者だ?」

 少し残念そうなユーラシアスの呟きが終わりきる前に、チュレットと姫の前に、一人の女性が立っていた。

 目を丸くするチュレットである。気配や物音など何もしなかった。彼女は一体どこから現れたのか。

「ナニモノって……何が? あんた誰だ?」

「密漁には見えない。お前はともかく、後ろの女はかなり身分が良さそうだからな。だから、何者だと訊いている」

 じろりと睨みつけてくる女性は、腰によく使い込まれている剣をさしていた。

「え。あんた、レンジャーか何か?」

「の、ようなものだが?」

 森林や山を護るレンジャーなら、侵入者にキツイ目を向ける理由も分かる。

「えーっと……俺たちは」

「文通相手を探しに来ましたの」

 さくっと放たれた言葉に、チュレットは目が丸くなる。

「ドーリンドールという女性なのですけれど、ご存知でいらっしゃいます?」

 女性の目がすぅっと細くなった。手が、腰の剣に伸びる。

「そうか、貴様か……」

 ちりり、と、しろがねが引き抜かれていく。

「ドーリンドールをたぶらかしたハントルールイという男は貴様かっ!! ドーリンドールだけでは飽き足らず、違う女連れで歩き回るとは命が要らんと見える!!」


「は?」

 目が点になるチュレットの前で、女性は完全に剣を引き抜いた。

「は? ……っ!? 待て! 待てぇっ!! 俺はハントルールイ本人じゃないっ!!」

「嘘をつくな!! ドーリンドールが文通しているのはハントルールイだけ! 文通していることを知っている相手、すなわちハントルールイ!!」

「なんだその無茶理論はぁああぁっ!?」

 どうやら女性はドーリンドールの関係者らしいが、話を聞いてくれるのだろうか。

 血の気が引くという思いを実感しながら、チュレットはユーラシアスを背に庇った

現れたこの方は一体どなたなのでしょ?

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