恋って素敵(泣いてもいいですか……)
昔々、とある国でのお話です。
悪いドラゴンにお姫様がさらわれました。
しかし、王もお妃も姉姫も臣下も民も、首を傾げました。
ドラゴンがさらったのは、とても美しい第一王女ではなく、平々凡々な容姿の、第二王女だったからです。
それでも、王女を見捨てるわけにはいきません。
王は、姫を救い出すために、『歴戦の戦士』達を送り込みました。軍を動かすわけにはいきません。
ドラゴンはを空を飛べる。軍を動かしている間に、次は第一王女の姉がさらわれるかもしれないと、恐れたのです。
そして、三ヶ月。ドラゴンを倒しに行ったものたちは誰も帰ってきません。
王は国中に御触れを出し、姫を救い出したものに望みの褒美を出すと言いました。
それから、さらに三ヶ月……。
洞窟内が、暗い。
落ち込んでいるブラックドラゴン、ハントルールイが、(言ってはいけないのだが)うざい。
「……ハントルールイ、落ち込むな。女は他にも星の数だけいる、とか言ったらダメだろうな」
研究室で呟く真顔のソートに、チュレットは頷く。
「だめだろ」
僕も会いたいですとかいうお便りに、返ってきた返事はやっぱりお会いする勇気が出ない、だったらしい。
順調に続いていたと思っていた文通は、意思の疎通ができていなかったのだろうか。
それにしても、一度会いたいと向こうから書いてきたのに、ハントルールイが会いたいと言うと、会う勇気が出ないというのは何故なのだ。
ていのいい振り言葉ではないか。ハントルールイの男心をもてあそんでいたとしか思えない。
「女心ってわかんねーなぁ……今までいい感じで続いてたんだろ?」
「らしいけど……俺も直接手紙見せてもらったわけでもないからなー……」
いつも直接ハントルールイから手紙の内容を聞いているわけではない。
ハントルールイが話す相手はまずユーラシアス王女で、口頭でああだったこうだった、ドーリンドールはこう書いてきたんですとノロけ、そのノロけを姫君からまた聞かされるのが今までのパターンだ。
今回もそうだった。さすがに沈痛な表情のユーラシアスが、断られたそうですわと告げたのだ。
だから直接何が書かれているのか知っているわけではないが、温厚なドラゴンのあの落ち込みようからすると、けっこう酷い断られ方だったのかもしれない。
正直、気の毒だ。この三ヶ月でハントルールイの気性は嫌というほど知った。
最強のドラゴンでありながら、臆病で優しくて、憎めないドラゴン。
何とかしてやりたくて言ったことが、結果的にハントルールイを傷つけることになってしまった。
チュレットも正直罪悪感が拭えない。けしかけるようなことを言わなければ、穏当に文通を続けることができていただろう。
人間化の魔法も遠くないうちに成功して、それからなら、ちゃんと会うことができたかもしれない……。
「……俺のせいかな」
「そうだな」
「……一瞬の迷いもなく即断で頷いたなソート」
「自分でそう思っているから言ったんだろ? それとも何か、慰めて欲しいのか? お前のせいじゃなくて、ハントルールイが悪いって? それとも断った女が悪いってか」
「……」
「……」
言い返せずうなだれるチュレットに、ソートも苦笑いになる。別に本気でチュレットが悪いと思っているわけでもないらしい。
「……ハントルールイ、いい奴なのになぁ。なんで断ったんだろうな、女も」
「そうだよな……なんでだろうな……ハントルールイ、いい奴なのに……」
一緒に落ち込む男二人の耳に、控えめなノックの音がした。このノックの仕方、ユーラシアスだとすぐ分かる。
「どうぞ、姫」
ソートの言葉に、勢いよくドアが開いた。姿を見せたのは可憐な姫。
「納得がいきませんわっ!!」
開口一番、彼女はそう叫んだ。
「へ」
瞬くチュレットに、彼女はつかつかと歩み寄る。いつもふわふわと微笑んでいる表情も、珍しくきりっとしている。こんな一面もあるのかと思うくらいに、普段の彼女とは違っていた。
「ハントルールイのような良い方が、お会いする約束すらもできずに断られるなんておかしいでしょう!? お会いして断られるならまだしも、お会いする前に断られるなんて、あたくし納得がいきませんの!」
ぽかんとする男どもに、姫は言い放つ。
「ですから、あたくし直接ドーリンドール様にお会いしに行きますわ!!」
怒ってます、姫様。珍しい。