恋って素敵(出会いが転がっているのなら拾え)
昔々、とある国でのお話です。
悪いドラゴンにお姫様がさらわれました。
しかし、王もお妃も姉姫も臣下も民も、首を傾げました。
ドラゴンがさらったのは、とても美しい第一王女ではなく、平々凡々な容姿の、第二王女だったからです。
それでも、王女を見捨てるわけにはいきません。
王は、姫を救い出すために、『歴戦の戦士』達を送り込みました。軍を動かすわけにはいきません。
ドラゴンはを空を飛べる。軍を動かしている間に、次は第一王女の姉がさらわれるかもしれないと、恐れたのです。
そして、三ヶ月。ドラゴンを倒しに行ったものたちは誰も帰ってきません。
王は国中に御触れを出し、姫を救い出したものに望みの褒美を出すと言いました。
それから、さらに三ヶ月……。
いつものように、空を飛んでいたときだった。
ワシの縄張りに入りかけて、あいつ怖いから止めとこうと迂回しようとしたとき。
彼女が、いた。
必死で崖を上ろうとしている彼女。
彼女の視線の先には、大きな鳥の巣。
彼女の背負っている大きなバッグの中から、ヒナの鳴き声。
ああ、彼女はきっと、鳥のヒナを巣に戻してあげようとしているんだ。
険しい崖を上って、自分が落ちて怪我をするかもしれないのに、ヒナのために、鳥の親のために。
きっとあのとき、あの瞬間に、僕は誰よりも優しい彼女に恋をしたんだ。
「……違うだろ」
「違うよな……俺もそう思う」
チュレットとソートは頷きあう。
三ヶ月も一緒にすごせば、仲良くもなる。そもそもどうしてブラックドラゴン、ハントルールイに力を貸すことになったのかを考えると、そのきっかけも気になる。人間の女性に恋をしたという、そもそもの馴れ初めを聞きたくなっても無理はない。
聞いてみた。ハントルールイはもじもじしながらも答えてくれた。
しかし、どうしてもあの気弱なドラゴンには言えなかった。
『その女、上がろうとしてたんじゃなくて、降りようとしてたんじゃないのか』
『ヒナを戻そうとしてたんじゃなくて、ヒナと卵を巣から奪って逃げるところだったんじゃないのか』
『崖上りする女って、どんなだ』
『ドラゴンから見て大きな巣って、多分ジャイアントイーグル……モンスターだよな……そんな巣によじ登っている女って……』
多分、どう考えても冒険者。
しかも、ジャイアントなイーグルの巣に一人で行くとは、かなりの実力者だろう。
もしかしたら『ドラゴン? 一度挑戦してみたかったのよね』とか言わんばかりの猛者かもしれない。
チュレットとソートは顔を見合わせる。
一刻も早く、このドラゴンを人間化させてやろう。
恋のお相手が、ドラゴン退治に来る前に。
悲壮な決意をする魔術師たちの眼前で、ドラゴンは姫君と話している。
「早く人間になりたいなぁ。そうしたら、ドーリンドールに会いに行くんだ。あ、でも、一人だとちょっと怖いなぁ……ユーラシアス、近くまで一緒に来てくれない?」
「ええ、もちろんですわ! チュレットとソートも一緒に来てくれますわよ。だから大丈夫、勇気を出してハントルールイ!」
……言えない。魔術師たちは心で涙した。
なんとか、なんとかしてやらなくては……!