表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋って素敵  作者: マオ
3/17

恋って素敵(努力あるのみ!)

 昔々、とある国でのお話です。


 悪いドラゴンにお姫様がさらわれました。

 しかし、王もお妃も姉姫も臣下も民も、首を傾げました。

 ドラゴンがさらったのは、とても美しい第一王女ではなく、平々凡々な容姿の、第二王女だったからです。

 それでも、王女を見捨てるわけにはいきません。

 王は、姫を救い出すために、『歴戦の戦士』達を送り込みました。軍を動かすわけにはいきません。

 ドラゴンはを空を飛べる。軍を動かしている間に、次は第一王女の姉がさらわれるかもしれないと、恐れたのです。

 そして、三ヶ月。ドラゴンを倒しに行ったものたちは誰も帰ってきません。

 王は国中に御触れを出し、姫を救い出したものに望みの褒美を出すと言いました。


 それから、さらに三ヶ月……。



「手紙、来てたな」

「あー、そーだな」

 チュレットの言葉に、ソートはどうでもよさそうに答える。

「伝書鳩……よくおびえずに飛んでくるよな。ドラゴンの巣に」

「鳥とは仲いいじゃないか。空飛ぶ同士でなのか知らんが、なんか言葉も通じるらしいし」

 遠い目で呟くチュレットに、やはりどうでもよさそうに答えるソート。

「ドーリンドールとかいう女とも文通してるんだな、ハントルールイ」

「女のほうも文通好きらしいな。筆まめ同士で結構なことだ」

 どこを見ているのか分からないチュレットに、やる気の無いソート。


「……」

「……」

 やや、無言の時間が経過して――チュレットは勢いよく机をぶっ叩いて叫んだ。

「どこでどうやって何があって文通なんだっ!? そもそも、あのでっかい鉤爪のある前足で、どうやって人間用の便箋に文字書くんだっ!?」

 叫びに、ソートもついに叫んだ。

「俺が知るかよっ!?」

 彼らのフラストレーションが溜まるのも、(おもにドラゴンの好き嫌いで)研究の芳しくない今の状況から考えると、無理もないことだった。

 

 大体、ここに来たときから疑問に思っていたことだった。

 王女、ユーラシアスと文通していたというブラックドラゴン、ハントルールイ。

 市井しせいの文通掲示板に「文通相手希望」と手紙を載せたドラゴンに、真に受けた王女。

 王女は良い。掲示板を見るくらいは趣味だったようだから、そのくらいはありえることである。

 が、しかし、極悪・非道・最強最悪とまで言われるブラックドラゴンが、どうやって市井の掲示板に手紙を載せることができたのか。そもそも普通の人間用の便箋に文字を書くことが可能なのか?

 疑問で仕方ない。その手紙を載せた掲示板の管理人も正気を疑うところだが、何よりも一般人の使う場所にあの巨大な体が現れて、話題にならないのもおかしい。

 一体どのような裏技で手紙を載せたのか。

 ……管理人が王女のような変わり者だった、とは思いたくない。あんな思考回路の持ち主はユーラシアス一人だけで十分だ。


「で、どうやったんだ?」

 考えていても気になって仕方なく、研究に手がつかなくなったので、チュレットは真っ向からハントルールイに問いただしてみた。バカ正直にまっすぐに。

「え? 手紙書くのは魔術でですよ? 僕の手で人間の羽ペンを持てるわけないでしょ?」

 そして、素直なドラゴンはあっさりと答えた。

「ま、じゅつ……?」

「はい。竜言語でゴーレム作って、代筆してもらってるんです」

 照れくさそうな声音でそんなことを言う。

「あと、手紙は掲示板の近くに鳥に頼んで落としてもらいました。たくさん落としたら、そのうち掲載してもらえるかなって。五通くらいで掲載してくれたみたいです。その後、ユーラシアスが鳩を飛ばして返事をくれたので」

 えへへ、と、またしても照れくさそうなドラゴンに、チュレットは軽いめまいを感じた。

 竜言語の魔術。魔術で手紙。


 ……人間ではとても届かないであろう、強力な魔術。

 ……高度な知性を持つ竜族でしか行使できない、極大魔術。

 ……とにかく難しい。人間の知性では理解も不可能。無理。

 

 研究院で学んだ単語が、むなしく脳裏を流れていく。

 いいのか。こんなことに使って。手紙を書くなんていうこと「だけ!!」に偉大な竜言語魔術を行使するなんて、魔術に対する冒涜とかそういうものになるんじゃないのか?

 魔術師としてのプライドとかなんとかが、チュレットの中でぐーらぐら揺れている。

 けれど。

「僕、人間になったら、自分の手でドーリンドールに手紙を書くんです。一回会ってみたいって」

 真っ黒な瞳を虚空に向けて、夢を話すドラゴンには、なんにも言えなかった。

「……そうか。そうだな。がんばろうな……」

 魔術師というブライドが粉砕された気分で、それでもチュレットは苦笑した。


 ハントルールイと別れてから、チュレットは研究室に戻る通路を歩きながら呟いた。

「……しっかし、管理人も変なヤツだな。ドラゴンです、なんて名乗る手紙を掲載するなんて」 

「まぁ、独り言を聞いてしまいましたわ。ごめんなさいね、チュレット」

「おぅわ!?」

 見ると、向こうからユーラシアス王女が歩いてくるところだった。これからハントルールイと話をしてくるのか。相変わらずドラゴンと仲の良いことである。ちょっとむっと来るくらいに。

「聞いてもよろしい? 管理人とは、文通掲示板の管理人さんのこと?」

「あ、ああ。そうだよ。変わってるなぁと思って」

 ユーラシアスは軽く首をかしげた。

「変わっている方ではないようでしたけれど……ドラゴンを名乗る変人からのお手紙です。相手にしないように、と掲示板には注意書きがありましたもの。どちらかといえば、奇人変人扱いのさらし者だったようですわよ?」


 チュレットは再びめまいを感じた。

「……おい」

「はい?」

「そこまで書いてあったのに、返事を出したのか、あんた」

「ええ」

「なんでっ!?」

「本当ならばけなげですもの。変な方ならばそれきり返事など出さないつもりでしたから」

 王女はいつものように微笑む。気品溢れる……しかしタンポポの綿毛のようにふわふわとした可愛らしい笑顔で。

「あたくし、そのくらいの分別はつけるつもりでしたのよ?」

 よく分かった。チュレットは今までも何度も思ったことを確認する。再再再再再再(中略)確認。

 文通掲示板の管理人はまともだ。おかしいのは、掲示板の利用者のほうだった

 

 特に、王女とブラックドラゴン。

 そして、彼女らに付き合っている自分も、多分。

皆変な人なのです(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ