恋って素敵(へーえ、ほーお、ふーん)
昔々、とある国でのお話です。
悪いドラゴンにお姫様がさらわれました。
しかし、王もお妃も姉姫も臣下も民も、首を傾げました。
ドラゴンがさらったのは、とても美しい第一王女ではなく、平々凡々な容姿の、第二王女だったからです。
それでも、王女を見捨てるわけにはいきません。
王は、姫を救い出すために、『歴戦の戦士』達を送り込みました。軍を動かすわけにはいきません。
ドラゴンは空を飛べる。軍を動かしている間に、次は第一王女の姉がさらわれるかもしれないと、恐れたのです。
そして、三ヶ月。ドラゴンを倒しに行ったものたちは誰も帰ってきません。
王は国中に御触れを出し、姫を救い出したものに望みの褒美を出すと言いました。
……それから、さらに四ヶ月……。
「幸せそうだなー」
なまぬるい笑みを浮かべて、チュレットは言う。
視線の先には、でれでれしているブラックドラゴン・ハントルールイ。
その視線の先には、彼の大事な意中の人、ドーリンドールが、笑顔でユーラシアスとお茶をしている。
ほんわかとろりんとしている王女と、それより少し年上の落ち着いた印象の女性が、和やかにお茶をしているのは、安心できる空間だ。
周りにいるのが、大量のモンスターでなければ。
ドーリンドールの傍らに、槍が立てかけられていなければ。
常に帯剣しているレンジャーのリーレンラーラの妹で、ジャイアントイーグルの巣に卵を返すくらいの女性なので、彼女もやっぱりそれなりの腕前の女性だったのである。
「……まぁ、大団円といえば、そうだよなー……」
一月前を思い出す。ヒゲでの解呪はうまくいき、ドーリンドールは目を覚ました。
そのあと、何があったのかの説明でひと悶着。
ドーリンドールはハントルールイに断りの返事を出していなかった。返事を出す前に、呪いに倒れたのだ。
無情なお断りの返事を出したのは、モンスターの一匹だったのである。
手紙を出したのは、上半身女性、下半身鳥のハーピーだった。
『まま』が男に取られるのはイヤで、つい犯行に及んだと自白した。
ちなみに、共犯は字の書けるスケルトン。
ご丁寧にドーリンドールの筆跡を真似し、鳩はハーピーが鳥語で丸め込み、配達させたという。
ドーリンドールに怒られて、しゅんと正座するスケルトンと、べったりうなだれるハーピーはいろんな意味で見ものだった。
「……しっかし……まさかこうなるとは……」
わいわいと談笑しているモンスターたち。
ハントルールイの住処である洞窟は、今やすっかりモンスターとドーリンドールの住居でもあった。
ユーラシアスが提案したからである。
曰く。
ずっと結界を張っているなんて、モンスターさんも疲れますわ。
曰く。
結界の中にこもりきりの毎日で、安心などできませんでしょう?
曰く。
もっとずっと安全な場所に引越しなさいません?
曰く――最強のブラックドラゴンの住処へ。
こうして、思わぬ意中の人との同棲生活(?)が始まった、と、いうわけで。
この一月は突貫工事だった。
洞窟の中は日が当たらないので、植物系統のモンスターが日光浴できる場所を作るために、洞窟を広げたり。
水棲モンスターのために池をつくり、湿気が洞窟内にたまらないように換気をよくしたり。
自給自足生活のために、畑を作るスペースを作ったり。
もちろん、こういう無理難題をこなせるのは、優秀な魔術師で。
完成した当日、洞窟内には燃えカスが二つ転がっていたとかいないとか。
燃えカスその1、チュレットは乾いた笑みのまま、和やか(?)な空間を見つめている。
深窓の姫君は満足そうに笑っていた。
燃えカスその2、ソートは、何故かリーレンラーラに引きずられて外に出ている。気に入られてしまったようだ。
彼の最後の言葉は「人生って不思議だよな……」。多分、いろいろ何か悟ったのかもしれない。
チュレットは思う。
大団円だろう。
まず、お友達にはなれたのだから。
それからどうなるかは、ハントルールイとドーリンドール次第。
そして、自分と、彼女も、きっと、これから。
棚上げになっている人間化の魔術の研究を続けるかどうかも、きっとこれから。
そんなこんなで同棲でひと段落!(え)もうちょっと続きますよ?