恋って素敵(よーしなんとかしてみよう)
昔々、とある国でのお話です。
悪いドラゴンにお姫様がさらわれました。
しかし、王もお妃も姉姫も臣下も民も、首を傾げました。
ドラゴンがさらったのは、とても美しい第一王女ではなく、平々凡々な容姿の、第二王女だったからです。
それでも、王女を見捨てるわけにはいきません。
王は、姫を救い出すために、『歴戦の戦士』達を送り込みました。軍を動かすわけにはいきません。
ドラゴンは空を飛べる。軍を動かしている間に、次は第一王女の姉がさらわれるかもしれないと、恐れたのです。
そして、三ヶ月。ドラゴンを倒しに行ったものたちは誰も帰ってきません。
王は国中に御触れを出し、姫を救い出したものに望みの褒美を出すと言いました。
それから、さらに三ヶ月……。
眠り続ける女性が、ハントルールイの意中の女性、文通相手のドーリンドールだという。
「え、ちょっと待ってくれ。眠ってるんだよな? どういうことなんだ?」
チュレットの言葉に、彼女の姉、リーレンラーラは説明を始めた。
要約すると、ドーリンドールが眠りの病にかかったのは、ハントルールイにあの返事を書いた後。
保護しようとしたモンスターに魔法をかけられてしまい、そのモンスターは逃走、残されたのは覚めない眠りについてしまったドーリンドール。
リーレンラーラは王都に妹を連れて行こうかと思ったが、モンスターたちも放っておけない。魔法研究院などに頼もうと思っても、資金もコネもない。
結局、妹の眠りとモンスターたちの安全を守るだけしかできずに、日々を送っていたという。
「魔法か……」
チュレットはすぐさま眠る女性に近付いた。
「おい」
妹に何をする気だとリーレンラーラが眉をひそめるが、ユーラシアスが止めた。
「チュレットは優秀な王立研究院生ですわ。お任せくださいまし」
「王立……!?」
「ええ。ナインゴット王立研究院の二十五期生ですの。その中でもトップクラスの実力の持ち主ですわ。宮廷魔術師も目指せるほどの方です。お任せくださいまし」
背中でかわされる会話に、チュレットはあれ、と思う。
王女に、どこに留学して勉強しているとか、成績の話をした覚えがない。
どうして知っているのだろう。
「あたくしがこの世界で、一番信頼し、尊敬している魔術師ですわ」
……頑張ろう。すんごく頑張る気になった、今。
※※※
「魔法っていうより、呪いのたぐいだな、これは」
チュレットの出した結論は、呪いだった。
「これは魔術じゃどうにもならない。俺にはどうしようもない。でも、方法はある」
「方法? 一体どんな?!」
身を乗り出すリーレンラーラ。ユーラシアスも心配そうに問いかける。
「教えてくださいまし、チュレット」
「簡単だ。ブラックドラゴンのヒゲがあればいい。あれは万能の解呪アイテムで――」
リーレンラーラが勢いよく壁を殴りつけた。いきなりの彼女の行動に、チュレットは驚き、ユーラシアスも眼を瞬かせる。
「簡単だと……? ドラゴンのヒゲを手に入れることが、簡単だと!? そんなわけがあるか! 地上最強の生物だぞ! その中でも、最強最悪最凶のブラックドラゴンだと!? 無理な話を簡単だと!? 貴様、バカにしているのか!!」
……あー、そりゃそうだ。チュレットはリーレンラーラの剣幕に納得した。
ここ三ヶ月、ハントルールイと過ごしていたおかげですっかり忘れていた。
そういえば、ドラゴンって最強の生き物で、その中でもブラックドラゴンって、最も恐れられている存在だったのだ、巷では。
忘れていた。本気で真剣に忘れていた。
「……あの、リーレンラーラ様」
ユーラシアスが穏やかに話しかける。
「……なんだ」
「簡単ですのよ」
「っ……貴様まで、私をバカに――」
「お知り合いですの」
「……何が」
「ブラックドラゴンと、あたくしたち」
沈黙。
「…………は?」
聞き返したくなる気持ちが、よく理解できるチュレットである。
最初、自分もそうだった。
聞き返したとも。ユーラシアスの背中に隠れて、ぴるぴる子犬のように震えていたでっかいドラゴンに目を丸くしながらな!
思い返して小さく笑いながら、チュレットは思う。さーて、ハントルールイのところまで戻ろうか。
ヒゲの一本や二本、大好きなドーリンドールのためなら喜んで切るだろう。
それで何もかも、きっとめでたしめでたしだ。
ご都合主義はハッピーエンドへの直行便。(笑)