恋って素敵(ええええええ)
昔々、とある国でのお話です。
悪いドラゴンにお姫様がさらわれました。
しかし、王もお妃も姉姫も臣下も民も、首を傾げました。
ドラゴンがさらったのは、とても美しい第一王女ではなく、平々凡々な容姿の、第二王女だったからです。
それでも、王女を見捨てるわけにはいきません。
王は、姫を救い出すために、『歴戦の戦士』達を送り込みました。軍を動かすわけにはいきません。
ドラゴンは空を飛べる。軍を動かしている間に、次は第一王女の姉がさらわれるかもしれないと、恐れたのです。
そして、三ヶ月。ドラゴンを倒しに行ったものたちは誰も帰ってきません。
王は国中に御触れを出し、姫を救い出したものに望みの褒美を出すと言いました。
それから、さらに三ヶ月……。
「そういうわけで、あたくしの勝手な行動ですの。ハントルールイは泣きついてなどおりませんのよ」
ブラックドラゴン・ハントルールイの文通相手、ドーリンドールの姉と名乗る女性、リーレンラーラと話をしながら歩き、なんとか誤解を解いた。ハントルールイという男が、友人に泣きついたという事実はない。あまりの落ち込みように、ユーラシアスが勝手に行動しただけなのだと。
当の本人、ハントルールイも近くには来ているが、まさか凶悪の権化のように言われているブラックドラゴンと打ち明けるわけにも行かず、結局リーレンラーラはハントルールイを人間と思い込んだままだ。
「ただ、とてもとても悲しんでいらしたから、見ていられませんでしたの」
「どちらにせよ、情けない男だ」
「違いますわ。優しいのです。とても、とても」
穏やかに言うユーラシアスに、リーレンラーラも少し言い過ぎたと思ったようだ。
「……まぁ、ドーリンドールと文通してくれたのは、その、良いことだと思う。あの子も楽しそうだった、から」
リーレンラーラは妹が可愛いのだろう。大事なのだ。
「あー、その、聞きたいのだが、ハントルールイという男は、どういう感じの男だ?」
「どうって、なんで」
思わず聞き返したチュレットに、リーレンラーラは足を止めずに言い返した。
「妹にちょっかいをかけている男だぞ。気になるだろう。ロクでもない男だったら退治せねば」
物理的に? と、聞き返したくなったけれど、チュレットは我慢した。リーレンラーラの腰の剣が、全てを物語っている気がしたからだ。
「いや、いい奴だぞ? ちょっと、気が弱いが……まぁ、優しいし」
かばってやりたくなった。この姉が、剣を構えて突進する光景を想像する。対するハントルールイは……まず間違いなく脱兎の勢いで逃げるだろうから。
「そうか……気が弱いのか。なら、アテにはできんな……」
リーレンラーラの呟きに、チュレットは気になるものを感じ取る。
アテ。なんのだ?
「なぁ、アテって何のこと――」
口を開いたとき、茂みを割って姿を見せたもの。
……オーガ、人喰いのモンスターだ。
「っ!? 下がれ、ユーラシアス!!」
咄嗟に姫を背後に庇い、チュレットは腕を突き出した。魔法の媒体に使う腕輪や指輪が煌めく。
「待て!」
叫びと共に、リーレンラーラの拳がチュレットの腕を強打した。
「っ痛ぇ! なにすんだ!? オーガに食われたいのか?!」
「止めろ。あれは、ドーリンドールが保護しているモンスターだ」
「……は?」
視線を向けなおすと、凶悪なご面相のオーガは、チュレットを見て涙目で、体を小さくしてぴるぴる震えている。印象が、初対面時のハントルールイと重なった。
「……え?」
問いかけを視線にこめてリーレンラーラを見る。彼女は苦笑いを浮かべ、腕を組んだ。
「ドーリンドールは、モンスターの保護につとめているのだ。ああ、グレッグ、泣くな。彼らはドーリンドールの客人だ。」
「うがうが」
涙目のオーガがドーリンドールの名前を聞いただけで笑った。
怖い。食われそうだ。
反射的に攻撃しそうになり、チュレットはどうにかこらえた。
「まぁ……こちらの方、優しいモンスターなのですね?」
ユーラシアスは抵抗がないようだ。ハントルールイでかなり耐性ができているからか。
「ああ。信じがたいだろうが……親とはぐれたモンスターは、育て方次第では性根が人間に近くなるようでな。ドーリンドールが保護したモンスターはおとなしいのだ」
「まぁ……ドーリンドール様、素敵な方ですわね」
ユーラシアスの言葉に、リーレンラーラは意外そうだった。
少し驚いた様子でユーラシアスを見、それから柔らかく微笑み、茂みの奥に手を伸べる。
「……さぁ、ドーリンドールのところまで行こう。あなたたちなら……私も妹に会わせて良いと思う」
なつっこいけど凶悪なご面相モンスター(笑)