恋って素敵(はい?)
昔々、とある国でのお話です。
悪いドラゴンにお姫様がさらわれました。
しかし、王もお妃も姉姫も臣下も民も、首を傾げました。
ドラゴンがさらったのは、とても美しい第一王女ではなく、平々凡々な容姿の、第二王女だったからです。
それでも、王女を見捨てるわけにはいきません。
王は、姫を救い出すために、『歴戦の戦士』達を送り込みました。軍を動かすわけにはいきません。
ドラゴンはを空を飛べる。軍を動かしている間に、次は第一王女の姉がさらわれるかもしれないと、恐れたのです。
そして、三ヶ月。ドラゴンを倒しに行ったものたちは誰も帰ってきません。
王は国中に御触れを出し、姫を救い出したものに望みの褒美を出すと言いました。
それから、さらに三ヶ月……。
小さな人間が、大きな黒いドラゴンに向かって怒鳴り散らす声が響く。
「てめえハントルールイ!! あきらめろ!! 人間化の魔術なんかオマエには無理だ!!」
強そうな黒いドラゴンは、身を縮め、それでも反論する。
「酷い……どうしてそんなことを言うんですかチュレット!?」
大きな体に不釣合いな気弱な声である。人間は全くひるまない。
「どうもこうも、こっちが研究を進めたら進めたで材料に文句をつけるのはオマエだろ!?」
「だってだって! 火ネズミとか緑エンネの葉とか、僕の苦手なものばっかり使おうとするからでしょ!?」
人間なら、泣き出しそうなほどの声である。青年は、何度目かの怒声をあげた。
「最強のブラックドラゴンのくせに好き嫌いするなぁあっ!!」
言い合うドラゴンと青年を眺め、優雅にお茶を楽しんでいる姫君はニコニコしています。
「まぁ、ハントルールイもチュレットもすっかり打ち解けて仲良しさん。あたくし、ちょっと嫉妬してしまうわ」
そんなことを言い出す少女に、朗らかに話しかけるのもまた、青年。
「はっはっは、姫様、あなた様が嫉妬なさるなど、そんな必要はございますまい。あなた様にはこのわたくし、ソートがついてございます」
「まぁ、ありがとう、ソート」
うふふ、とはにかむ姫君は、分かっているのかいないのか。すかさずもう一人の青年、チュレットが声を張り上げた。
「こらそこ!! 人がドラゴンのシツケをしている間になにをしている!」
「べーつーにー。ハントルールイの常識外れは今に始まったことじゃないからなー。俺としては彼の好みに合わせて研究を進めるのが一番だと思うし。うん。好き嫌いは誰にだってあるよな? な、ハントルールイ」
わずかに視線を逸らしている青年に、ドラゴンは感動した様子だ。多分、人間だったら感涙にむせび泣いていたかもしれない。
「ああ、ソート! 君は僕の味方なんですね!? ありがとう!!」
「だまされるなハントルールイ! ヤツはな、この間オマエに飲ませた茶の中に、さりげなーくゲブラの実を混ぜていた!」
「ええええ!? うわぁ、本当ですかソート!? あれ僕ものすごく苦手なのに!!」
驚愕したのか声が震えている。不快に身を震わせる巨大な生き物に、青年たちは怖がる様子を全く持っていなかった。そう、たおやかな少女ですら、ドラゴンを怖がっていないのだ。
「はっはっはー。美味しいですねーって喜んでいたじゃないか。いいか、ハントルールイ? 好き嫌いなんてものはな、思い込みだ、先入観だ! それさえなければお前も大嫌いなゲブラの実を口にすることができる! 事実、できた!! そうだろう!?」
「はっ……言われてみれば……!」
「おい! 言いくるめられるなドラゴンの癖に!! ソートはさっきと言っていること違うだろ!? 即座に納得するな!! 疑問を持て!!」
「はっはっは。ハントルールイは素直なだけだよな? そこは美点だ。大事にしたほうがいいぞー」
「そ、そうですか? じゃあ、ドーリンドールも僕のこと好きになってくれるかな……?」
大きな前足で、鋭い鉤爪をもじもじさせるドラゴンに、青年二人は生ぬるく笑う。
ブラックドラゴンの恋物語につき合わされている側としては、正直、生ぬるく笑うしかない。
「あー、そうだなー。かもなー。希望は持って生きていくほうがいいよな」
「そうだなー。じゃ、人間化の術、頑張ろうなー。好き嫌いせずに」
「う」
チュレットの言葉にハントルールイはさらに身を小さくちぢこめた。
「まぁ、ソートもすっかり仲良しさん。あたくし、嬉しいわ。ハントルールイ、お友達がたくさんできて良かったわね」
姫君はニコニコ。ニコニコ。
三ヶ月、こんな日々が続いている。
騒動が起こってから半年。少しずつ、気弱なブラックドラゴンの恋は前進しつつ……あるのかもしれない。もっとも、その周辺の関係は、全く変わっていなかったり。
どたばた恋模様は、まだまだ続く……かもしれない。
かなり前に投稿した短編の続きです。ブログのほうで完結したので載せてみます。
気軽に読めるご都合ファンタジーでございます。突っ込み、感想などございましたらお気軽に。