竜の世界にとりっぷ! 2
こちらは、「動物の世界にとりっぷ!」作品たちと同じ世界観のもとで、書かれています。詳しくは、まとめサイトさま(http://www22.atwiki.jp/animaltrip/pages/1.html)へどうぞ。
*蛇の描写について嫌悪を抱かれる方は見ないほうがよいかもしれません。
本文に、大熊猫世界へとりっぷ!を示唆するものがあります。ご容赦ください。
以上に了解された方から、スクロールどうぞ!
拝啓 我が愛すべきクソジジイどの
お久しぶりです、お祖父さま。お元気にしていらっしゃいますか?
今日の我が家での夕食当番はどなたでしょうか? 私はそろそろ貴方の第三の彼女が作られた肉じゃがカレ―を無性に食べたいです。残念ながら、こちらにはカレ―がないようなんですよ。
さて、出す当てもない手紙を書いている私ですが、最近は仕事も順調に進んでおります。
我がご主人様である竜族のリアディさまは基本が守銭奴な分だけ、金になりそうなことのためならどんなことだってしてくれます。
貴重な竜形の体内摸写図を用意されたときにはどんな犯罪を犯してきたのかこの人は、とドン引いた視線で仕事仲間とご主人様を見つめてしまったくらいには破天荒です。
まあ、おかげで竜形の骨格や竜形での肢体や尻尾の可動域の予測がつきましたので助かりましたけども。
今度、手先の器用な落人さんがその摸写を元に竜形の緻密なフィギュアを作ってくださると云うお話なので、仕事仲間一同わくわくしているところです。(そのために若い竜族の一人がモデルという犠牲…ごほん、大役についてくださったそうです、ありがたいお話ですね)
私といたしましても、仕事仲間のトールとレイヤの教育に熱が入ると言うものですよ。
え? 私ごときにそのようなことが出来るのかですって?
――― 仮にも、幼い五歳の時分から22年もの長き年月の貴方のしごきに耐え、数多の弟子を追いぬいて師範代行まで務めていた私に何を云うかと思えば笑止千万。80年若返って細胞分裂からやりなおしてから言ってください、そんな寝言。
そういえば、“ちいさきもの”と呼ばれている子供たちのことを私は手紙に書きましたっけ?
とてもかわいらしいですよ、あの子たちは。
最近新たに館に訪れたイアンくんは驚いたことに光沢を見せる緑色の体皮をしておりまして、とても目の保養になります。
彼を上下左右にぐるぐるとまわして観察したところ、彼が貧血を起こしてしまい、可愛いメイドさん達に怒られてしまったのは我ながら反省すべきことだと思っています。
新しく来た子蛇ちゃんが気になるのか、以前からよく私に懐いてくれていたロッドリーくんとユピちゃんがよくイアンくんをいじっている姿がみられます。
友情とは他者への興味関心から始まりますからね、よいことなんじゃないかと思います。
それを仕事休憩の合間に喋っていたところ、何故かトールとレイヤは沈黙しました。そしてなぜか同じテーブルで紅茶を共に摂っていたご主人様は、「現実をみろ…」と仰っていました。
失礼な話です。異世界なぞに落っこちてきたにもかかわらず新しいお仕事を見つけより良い結果を出そうと努力している私は、これ以上ない程の現実を見つめている立派な女性だというのに。
この世界の上位種の一人である自覚があるのなら、もう少し人を見る目を養っていただきたいですよ。
…おや、そろそろ紙面が尽きてきたようです。
今日はここまでにいたしましょう。
明日もまたあてのない手紙という名の私的日記を書くことにいたしましょうか。
いつか、この手紙を貴方の居る世界に届けられる日はくるのでしょうか。
だとしたら、その時にはぜひ元気な姿で貴方がいらっしゃることを期待しています。
敬具
異世界にて 佳永
ぴっぴ。ぴっぴ。
今日も軽快な笛の音が、屋外に響きます。
「掛け声はどうしたの! ほら! いち、にっ! 」
二人しかいない貴重な仕事仲間に私は声をかけつつ、もう一度笛を鳴らしました。
ぴっぴ、ぴっぴ。
「! さ、さん、し……」
「ごー、ろく…。 カナのアニキ、お願いそれやめて… 耳に響くんす………」
情けない声で、トールとレイヤが悲鳴を上げた。
ただの竹笛だというのに、情けないやつらだ。―― ちなみに、この竹笛は大熊猫の国より頂いた。まことにこの世界は広くてなんでもあって面白い。
ただいま絶賛婚活中の双子が嫁を追いかける途中で使い物にならなくした竹から廃材利用で作成したらしい。エコはいいことです。
「ううう、鼓膜が震えるってこういうことか」
「人形って大変…」
悶える相手が面白いと思ったのは秘密だ。
もっとも、私の性格は連中も理解しているので、ばればれであろうが。
獣姿では蛇の彼等は、蛇形のときだと鼓膜は退化しているために音には反応しない。
だが、どういう原理なのか彼らが人形に転化したとき、鼓膜はしっかりと機能する。
おかげで、慣れない“音”というモノに対して、連中は怯え放題というわけだ。
今日の自分たちのお仕事は、体力づくりとミーティング。
ほぼ半日がかりの我らのお仕事は、とても危険なお仕事のため、毎日は行いません。
隔日ないし、三日に一度が営業日。
「もっとしてほしい」と希望してくださるお客様には申し訳ありませんが、万が一の事故があってはなりません。そこは仕事人への当然の保障としてリアディさまとの話し合いのもと、厳密に護らせていただく予定です。
――最大限の集中力を維持するのって、慣れない若者には大変なんですよ。
「悶える間に、早く先に進みなさい。 まだまだ腹筋200回と反復横とび300回と乱捕りと聴勁のための練習各20分が残ってるんですから」
ほら、あと10周してくださいお屋敷の外周!
列の最後尾に付きながら、二人を叱咤激励いたしました。
決して、彼らが訓練から逃げ出さないために真後ろにいるわけではありませんよ。単純に、連中の反応が面白いので見ていたいだけです。ぴっぴろぴー。
「ああ、なるほど。だから上から洗えばいいんですね」
「え? なんでそうなるんだ? 」
『ただいま、ミーティング中』と日本語で書いた紙を入口にぺたりと貼った部屋にて、午後の時間が始まりました。
異世界ときたら日本語じゃなくて異世界語なんじゃないの? という当然の突っ込みはもうしました。
ですが、ひらがなもカタカナも漢字も英文さえも通じましたので、粛々とその突っ込みは消滅いたしました。
ああ、これがいわゆる『トリップ特典』か。
そう思った私は、中二病の可愛い弟子っこたちが休憩時間中に話していた異世界トリップとやらの考察をまた聞きしていた過去があります。
若いっていいよね。
「だからさ、基本的には頭、角、首、背中と前脚、後脚と尻尾の付け根。――んで、いちばんぱたぱた動きやすくて汚れやすい尻尾の順番に洗うんだよ」
「だから、なんでそんな順番になるんだ。その意味がわかんねえんだよ」
目の前では、理解度が比較的早いトールが、脳筋族一歩手前のレイヤに説明しています。
トールは、文武両道タイプ。
この仕事を始めようとしたご主人様自ら選出された蛇族のエリートです。
よくありがちなプライドが高いだけの困ったチャンではなくて、自らの立ち位置と求められてる役割をしっかりと理解したうえで行動するその在り様はなかなか出来ないものだと思います。
きっともてるにちがいない。――― 実際にメイドさん達のなかから熱い視線をもらってますからね。
「好きなところから洗えばいいじゃねえか」
ミーティング用にと支給されている鉛筆をがじがじ噛みつつ、レイヤがいいます。
やめれ、4分の一の確率の毒蛇形のお前が噛んだらもうその鉛筆使う気がしなくなるじゃないか。
たとえ、人形のときには毒は持ってないっすよと言われても、心情が納得しないんだ。
あとで、レイヤ噛み噛み専用の印書いておこうっと。
それから…。
「それじゃあまりにも効率が悪いからこの順番で行くよって言ってるんでしょうが!」
ごいんとレイヤの頭を打ちました。
「た、体罰反対…」
「涙目でソレを云うくらいなら、すっきりと理解しなさい」
脳筋族にはこうでもしないと効かないんだよ。
クエスチョンマークが顔から消えないレイヤのために、砂板(でかい枠のなかに乾いた砂が薄く入っている。指で字を書いて、砂で消す道具)にもう一度根拠を書く。
①洗うときは、上から下へ。――汚れは上から下に落ちるので、下から洗うと二度手間になる。
②腹は洗わない。――一番お客様が敏感になる場所であり、自然体のときに隠される場所(急所)であるため。危険。
③尻尾は最後に、最大の注意をもって、皆で洗う。(一人は看視役)―― 尻尾は竜形のときの感情を一番あらわす場所であり、彼等にとっての5つ目の肢である。よって、洗身中にも頻繁に動かされるため最後に洗うことにしないとやはり二度手間になる。そして、最後の難所。危険。
「ちなみに、洗うときは基本として上から下へ、体幹から末梢へ向けて洗うように。神経を逆撫でするような刺激は望ましくないからね」
書き忘れていた注意事項を追加しつつ、二人へと言った。
「はい、アニキ」
「は――、……いっす、カナのアニキ」
しっかりと頷いたのはトールのほう。
溜息のようにしょんぼりと返事したのは、レイヤのほう。
両極端の彼らだが、仲はいいのだこの二人。よいことです。
そして、何度叱っても人をアニキ呼びするおまえたちの無駄な根性にはもうあきらめた。
好きに呼ぶがいいよ。
さて、午後のミーティングは早々に終わった。
今日のミーティング内容で話したことは、明日記憶したかどうかの確認の小テストをすると説明してある。
しっかり復習しておくようにね。(とくにレイヤ)
昨日つかった道具の点検・補充を三人でこなしたあとは休憩時間だ。
私としては、久しぶりにオチビさん達の姿を愛でにいきたい。
今日の担当メイドさんは、たしかウルティカさんだったはず。
――― 行っても邪魔なら言ってくれるよね、きっと。
心の中で頷く自分が歩む方向は既に保育室へと向かっていたりする。
うん、検討するまえに決めてんじゃねえかという突っ込みが入りそうだ。
即断即決の男前だねと言われて育った自分です。―― 脳筋族との一線だけは保持させてくださいと主張いたします。
館の奥に、保育室と私が呼んでいる場所はある。
部屋というよりは、実際は離れの棟に近いのだが。
「お邪魔します」
そろっとドアを開けてみた。
もしかすると、子供たちはお昼寝タイムなんじゃないかなとか思ったのである。
「あら? カナさん」
お久しぶりです、お仕事は終わられたんですか?
遮光のための分厚いカーテンのおかげでちょっとくらっとした自分に対して、優しい声で挨拶してくれたのはウルティカさん。
お屋敷のメイドの一人であり、もちろん人に転化することのできる広義の意味における上位種の一人である。
本体である獣は、もちろん蛇。
優しく可愛らしい人なのにな。うん、不思議不思議。
上位種というのは、本来人に転化できる獣のことをさす。
そう、たとえ額に鱗の文様が小さく浮かんでいようとも、不意の暗闇のなかで瞳孔が開いた蛇の目になろうとも、完全なる人形になれるということで彼等は上位種とされるわけだ。
一方で、上位種と公的に明記されるのは人化することのできるものたちの一部しかいない。リアディさまはそこに入る。
完全なる人形への人化ができること。力ある種族であること。そしてそのうちでの主たる権力を持つもの。―― 支配者側ということかね。まあこれらの条件を満たすのが、いわゆる狭義における上位種というわけだ。
「うん、さっき終わったところなんです。トールとレイヤはすでに腹を満たしにいきましたが」
しっかりと返答する。
ウルティカさんはトールの姉であり、レイヤの彼女だ。なぜそうなったのかは不明だが、二人はいつも仲がいい。
ウルティカさんの恋人を快く働かせる女の技術は、私も欲しかったよ。
「チビちゃんたちは元気かなと思って、見に来てしまったのです」
一度見たことのある蛇形の本体は、赤茶色でした。ぎゃおす、舞えよ斑の紐おおおおお。
あえて言おう、日本においての毒蛇はおもにニホンマムシとヤマカガシ(生息地は北海道)が主。世界的な毒蛇であるハブもいらっしゃいます。皆様お気をつけください。
蛇に噛まれたときの応急処置については、毒素の吸引は適切ではないそうです。理由は有効な量の毒を吸引できないからとのこと。蛇の牙の傷は深いですからね、吸いとりきれません。吸い取った側の人間の口内に傷や虫歯があったりすると二次感染にもつながります。詳しいことは、国際ガイドライン2005(AHA)による応急処置をご参照ください。
群馬県のジャパンスネークセンターさんもお詳しいでよ。むしろ権威です。一度お調べください。―― といいつつ、私がそこに行ったことは残念ながらないのですが。
「うふふ、いま丁度オチビさん達は眠ったところですわよ。イアンくんもです」
笑顔でピンポイントの説明をしてくるあたりがぬかりありません。ばれておりますか私のお気に入り。
と思ったら、ぽとん、ぽとん、となんか落ちてきた!
「……ロッドリーくん、ユピちゃん」
いきなり落ちてくるんじゃありません。私が間に合わなかったら、地面に落ちて痛い目にあうことになるところだったじゃないですか。
小さくため息をつきつつも、しっかりとキャッチした二匹の子蛇たちを撫でまくります。
ちろちろちろちろ。
赤い舌を動かしながらのたうつ子蛇くんたちは、涼やかな鱗を私に見せつけてくれています。
くねるなくねるな、落ちるから。
「―― うーん、さすがにお兄さんお姉さん組なだけはありますねえ。タイミングは外さないわあ」
感心したようなウルティカさんは、何のタイミングだと言いたいのだろうか。
私としては驚かすタイミングだとか奇襲をかけるタイミングだとかいう哀しいお報せは知りたくない。だって、ちびたちに嫌われたくはない。
「………」
じっとロッドリーくんとユピちゃんの様子を眺めていたところ、なあに?とでも言いたげに二匹の蛇は小首をかしげた。
「………」
「カナさん、悶えるのもよろしいんですけど、よろしかったら一緒にお茶いたしませんか?」
声もなく二匹の蛇たちを抱きしめていたら、声をかけられました。―― ずっと見てたんですか、ウルティカさん。
香り豊かな紅茶のポットを抱えてニッコリ笑うウルティカさんは、今日も心丈夫なメイドさまでした。
「カナさんには、屋敷の者一同、本当に感謝してるんです」
少しばかり子蛇たちから離れた場所で、お茶会は始まった。
匂いと熱には敏感な彼らである。
彼ら子蛇たちを見守りつつ、静かな眠りを妨げぬように、佳永とウルティカさん、そして何故か佳永の腕にまとわりついて離れようとしないロッドリーくんとユピちゃんをおまけの癒しアイテムとして移動したのだ。
場所は、吹き抜けの3階である。
「……はあ。…なんのことを言われているのかが解らないのですが」
頂いた紅茶を手にしながら、突然発せられたウルティカさんの言葉の意味についてを考える。
「もちろん、ご主人様と仲良くしていただいていることについてですわ」
答えが見つかる前に、ウルティカさんは解答してくださった。
しかし。
「――――― 仲・良・く・? 」
いつから、私はあの守銭奴なご主人様と『仲良く』などと呼称されるような関係をつくったのだろうか。疑問符を浮かべたい。
脳裏の奥で、『よし、明日のお客様はチェイサさまのお孫さまのルモンドさまだ。確実にリピーターに引き込めよ!』などと嬉々と語る御主人さまが浮かんだ。
『だから、まだ若者は客にしないって言ってんでしょうが!!』と叫んだ自分は、その後4時間かけてご主人様と討論を交わした。
最終手段のボイコットも辞さないつもりだと告げたところ、ご主人様は真っ白になってお客様の元へと行った。もちろん、ご予約をキャンセルさせて頂くためだ。
「――― 『仲良く』の定義がちがうのかな?」
苦悩の顔で呟いたのは自分です。
だって、『仲良く』ってもっと…。もっと……。もっと、こう………。
「さあ? どうなのでしょうか?」
言葉が通じ合うのですから、意味も違わないと思うのですけども。
苦悩し続ける自分に対し述べた後、ウルティカさんはこくりと可愛く一口紅茶を含んだ。
ああ、女性って可愛かったんだなあと今さらながら理解する仕草。
亡くなられたお祖母様も可愛らしい方でした。―― 時折、お顔を直視できない日もありましたが。(自分が喧嘩に勝ったぞーと凱旋した日とか祖父の訓練で顔に傷を作った日とか、…怖かった)
「私などが言うことでないことは重々に承知しております。ですが、―――あの方は本当に今が幸せそうに見えるのですよ」
笑みを浮かべるウルティカさんに不思議な説得力があった。透明な、綺麗な ―― 何か。
はて、このような表情を私はどこかで見た気がする。―― どこだったか。
記憶の底を浚う前に、夕べの鐘が鳴った。
ああ、もうこんな時刻か。―― 日誌でも提出にいくとするか。
今日の運動メニューと座学の概要を書いた仕事日誌をご主人様に提出に行かねばならないのだ。七面倒くさいことこの上ない。
「御馳走様でした」
「お粗末さまでした」
あまりゆっくりはできなかったが手土産にと頂いたクッキーを敷紙にくるみながら、保育室を後にした。
そういえば、あの二匹はなぜか静かだったなあの時間。―― やはり、お昼寝タイムに無理に起きていたのが響いたのだろうか。
くるんと輪を描いていた二匹の子蛇たちを思い出しながら、癒されてみた。
さて、明日こそはお仕事本番を頑張らなくてはいけないか。
彼等の生活のために働くのならそれもいいかと思いながら佳永はご主人様の部屋へと歩いた。
(―― ご主人様、メイドにセクハラしちゃいけませんよ)
(―― って、人の部屋に入ってくるなり何言ってんだ!!)
了
覚書 というか 蛇足的注意事項
作中にて、佳永が「洗うときは…体幹から末梢へ向けて洗うように…」などと申しております。
これはあくまでも竜に対しての洗い方でありまして、人間の場合とはまったく逆に成ります。
皆様が自分の身体を洗う時、もしくは洗ってあげるときは、「末梢から体幹に向けて」洗ってくださいね。
そうすることでより血液の循環が促進され、健康的だと言われているからです。
うざやかに蛇足的注意事項をおわります。失礼いたしました。(ぺこり)
読んでいただき、ありがとうございました。
蛇の描写は、大丈夫でしたでしょうか?




