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「皆さま、本日は母のためにお集まりいただきありがとうございます」


 おばばが死んだ2日後、私たち家族はおばばのソウシキを開くことになった。私たち家族のほかには、4、5人ぐらいお年よりたちがあつまっていた。みんなおばばのシンセキだという。でもシンセキの人たちはみんな来ているのに、ミケはつれてこれなかった。


(ミケ、ひとりぼっちでだいじょうぶかな?)


 黒いふくを着させられた私は、今もマンションにおきざりにされたミケのことをひっそりと思う。食事は朝起きてよういしたけど、ちゃんと食べてるか心配だった。でもそれをお母さんにしょうじきに言うと、「こんな時にフキンシンよ」とさっさと手を引っぱられてしまった。


「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏……」


 おぼうさんがよくわからない言葉をとなえ、その後みんながケムリくさいぼうに手を合わせた。私もお母さんにつれられて、いっしょに手を合わせさせられる。それからよくわからないうちに、おばばとわかれる時間になったと言われた。

 

 木のハコのふたが開けられると、おばばが眠っていた。死んだとは思えない、おだやかな顔だった。声をかけてゆすったら、またおばばが目を覚ましそう。でもそんなことをしたらきっとおこられるだろうから、私はだまっておばばの顔を見下ろしていた。


「ほら、あんたも花を入れてあげて」


 お母さんに白い花を持たせられ、私は木のハコの中にお花を入れた。その後、おばばのほっぺたをさわってみる。するとおばばは、雨に打たれたみたいにつめたくなっていた。


「では、火葬場にご案内します」


 係の人によびかけられ、私たち家族はお父さんの車にのった。だれもおばばのことを一言もしゃべらない。おばばの本当のむすこのお父さんでさえ、泣いた顔も落ちこんだ顔もみせなかった。


「まもなく、故人のご火葬に移らせていただきます」


 2時間して、私たち家族とシンセキの人たちは、黒い台の前まであんないされた。

その台の上に、白くてバラバラの形のものがたくさんならべられている。

――それが人間のほねだとわかるのに、それほど時間はかからなかった。


(これが、ホントにおばばなの?)


 2時間前に見た、ゆすればむっくり起き上がりそうなおばばとはぜんぜんちがっていた。

――こんなすがたになったら、もうおばばは帰ってこれない。

その時私ははじめて、おばばがいないことにさびしさをかんじたのだった。


「こちらが、爪先の骨となります」


 長いおはしを使って、係の人がどんどんツボの中にほねを入れていく。

それから代わり代わりになって、お父さんとお母さん、そしてシンセキの人たちがおばばのほねをひろい上げていった。


「こちらが、喉の骨となります」


 そして私におはしがわたされた。

お母さんにかたをおされ、私はおばばのほねをつまみ上げようとする。


「…………っ」


 だけど、できなかった。

おばばが死んでしまって、こんな小さなツボの中に閉じこめられるなんていやだった。

――私が死んだら、私もおばばみたいにほねになるの?

きゅうにノドのおくがツーンとつまって、私はおはしを台の上においてしまった。


「……真由貴、これはおばあちゃんとの最後のお別れの挨拶なのよ? ちゃんと壺の中に入れてあげないと」


「いや」


 私はブンブンと首をよこにふった。


「こんな姿になって、おばばがかわいそう」


 私が声をはき出すと、あたりの空気はさらにどんよりと重くなった。

シンセキの人の中には、苦い食べものでもかんだような顔で私を見ている人もいた。


「真由貴っ! ちゃんと拾ってあげなさい! これは大切なことなのよ!」


 お母さんが私のかたをゆすってしかりつける。それでも私はどうしてもできない。

だってほねをひろったら、私までおばばがいなくなったことをみとめてしまったような気がしたから。


「お母さんは、おばばがたいせつだった?」


 ふりむいて、私はお母さんに質問した。

お母さんはハッとなり、わなわなと目を見開いた。


「おばばは、老人ホームに行ってしあわせだった?」


「真由貴、やめなさい! 今はそんな話をする時じゃないわ!」


 お母さんが声をはりあげ、しずかだったカソウバがこだまする。

そんなやりとりを見て、シンセキの人たちが私たち家族にせめるような目つきをした。

まるでそれは、おばばが死んだのはお前たちのせいだとでも言っているかのように。

つめたくていごこちのわるい、ムセキニンな空気があたりにながれた。


「……もういいよ、朝菜。真由貴がやりたくないならやらなくていい」


 そんなキュウクツさの中、お父さんがわりこんで口をはさむ。


「礼司さん!? でも……」


 お母さんがまごまごしながら、それでもなにか言葉を出そうとしていた。

でもそんなお母さんをさえぎって、お父さんはなんでもない口ぶりで言ったのだった。


「別にやらなくても問題ないだろ。だって真由貴は、母さんの本当の孫じゃないんだから」


 そのとたん、私のむねにわすれることができないあなが開いた。


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