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元SE聖女、論理眼と現代知識で辺境のガラクタ遺跡を最適化! 〜魔王軍の残党を雇用してホワイトなダンジョン運営を始めました〜  作者: さくらもち


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異常検知

王都・中央神殿。


白い石造りの高塔の最上階で、一人の神官が眉をひそめていた。

彼の前に浮かぶのは、水晶板に投影された魔力観測ログ。


「……おかしい」


神官長補佐、ルディアは指先で数値をなぞった。


死の谷方面。

本来なら、常に不安定で濁った反応を示すはずの区域。


そこが今、妙に静かだった。


「マナ流量、安定。環境ノイズ、減少。循環効率……向上?」


思わず声に出る。


「そんな馬鹿な」


死の谷は、魔王軍の残党が潜む忌避地。

魔力は滞り、瘴気が淀み、何をしても改善しない土地のはずだった。


「観測機の故障か?」


隣に控えていた若い神官が首を振る。


「三系統すべて正常です。数日前から、徐々にこの数値に」


ルディアは沈黙した。


徐々に、というのが気にかかる。

爆発的な異変ではない。

まるで、誰かが時間をかけて調整しているかのような。


「……聖女リリア様の浄化は?」


「ええと……死の谷には、まだ手を出していないはずです」


「でしょうね」


ルディアは水晶板から視線を離した。


「あそこは、奇跡でどうにかなる場所じゃない」


その時、別の神官が慌てて駆け込んできた。


「報告です! 王宮の環境制御ログに、微細な異常が!」


「異常?」


「いえ、悪い意味ではなく……むしろ、効率が落ちています」


ルディアは目を細めた。


「落ちている?」


「はい。原因不明ですが、以前より魔力消費が増加しています」


一瞬の沈黙。


そして、ルディアは小さく息を吸った。


「……なるほど」


頭の中で、二つの事象が線でつながる。


王宮の効率低下。

死の谷の異常な安定。


「誰かが、最適化を知っている」


それも、奇跡ではなく、仕組みとして。


「まさか……」


脳裏に浮かんだのは、一人の銀髪の少女だった。


追放された聖女。

知識ばかりで奇跡を起こせなかったと嘲られた存在。


「エルサ・ラングレン……」


その名を口にした瞬間、別の報告が重なった。


「神官長補佐! 辺境からの商人が、奇妙な噂を!」


「噂?」


「死の谷の近くで、夜でも灯りが消えない遺跡があると。空気が澄み、水が温かく、魔物が……秩序立って動いていると」


ルディアは、はっきりと確信した。


「始まったわね」


何かが。

世界の前提を揺るがす何かが。


その頃。


死の谷・古代遺跡。


「では、本日の業務確認を始めます」


エルサは簡易ホールで、魔物たちを見渡していた。


「昨日の改善点、反映済み。問題があれば、遠慮なく言って」


「……本当に、言っていいんだな?」


ゴーレムがまだ半信半疑で聞く。


「ええ」


エルサは頷いた。


「黙ってる方が評価下がるから」


魔物たちの間に、ざわめきと小さな笑いが広がる。


グロウルが腕を組み、低く言った。


「外が、少し騒がしくなってきている」


「でしょうね」


エルサはあっさり返した。


「数値が良くなれば、誰かが気づく」


「来るか」


「ええ。そのうち」


彼女は帳簿を閉じる。


「だからこそ、今のうちに足場を固める」


「恐れはないのか」


「ないわ」


エルサは淡々と言った。


「仕様が分かってれば、対処できるもの」


魔物たちは、その言葉を完全には理解できなかった。

だが、不思議と不安はなかった。


遺跡は今日も安定稼働している。

光は温かく、水は清潔で、空気は循環している。


そして世界の外側で、異常値が検知され始めていた。


それが、どれほどの波紋を呼ぶのか。

まだ、誰も知らない。

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