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元SE聖女、論理眼と現代知識で辺境のガラクタ遺跡を最適化! 〜魔王軍の残党を雇用してホワイトなダンジョン運営を始めました〜  作者: さくらもち


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6/20

初出勤日

遺跡が本格的に稼働を始めてから、三日が経過した。


致命的な事故はない。

魔力供給は安定。

環境維持プログラムも想定範囲内で動作している。


数字だけを見れば、成功と言ってよかった。


「……でも、静かすぎるのよね」


エルサは制御室の片隅で、一人ログを眺めていた。

石柱に投影された稼働記録には、無数の数値と警告未満の注意表示が流れている。


致命的ではない。

だが、無視していいものでもない。


廊下の一部で熱効率が高すぎる。

換気の偏りで湿度が局所的に上昇している。

飛行種の移動ログに、無駄な迂回が多い。


どれも、小さな歪みだ。


「報告……ゼロ、か」


エルサは眉をひそめた。


この三日間、魔物たちから正式な不具合報告は一件も上がっていない。

誰も文句を言わず、誰も質問をしない。


だがログは、嘘をつかない。


「……これは、慣れてないというより」


彼女は椅子の背にもたれ、天井を見上げた。


「“言っていい”と思ってないわね」


その時、控えめな足音がした。


「主……いや、CEO」


グロウルが制御室の入口に立っていた。

三つの頭はそれぞれ別の方向を警戒しているが、声は穏やかだった。


「何か問題でも?」


「問題というより、兆候ね」


エルサはログを示す。


「致命傷になる前の、不具合の芽」


「だが、誰も何も言ってこない」


「でしょうね」


エルサは即答した。


「魔王軍は、問題を報告すると罰せられる組織だったんでしょう?」


グロウルの牙が、わずかに軋んだ。


「……ああ。弱音は粛清の対象だった」


「だから黙る。壊れるまで」


エルサは立ち上がった。


「それじゃ、どんなにいいシステムでも長持ちしないわ」


彼女は少し考え、指を鳴らした。


「仕組みを変える必要があるわね」


「仕組み?」


「不具合を“個人の責任”にしないための仕組み」


エルサは淡々と言った。


「定期的に集まって、問題点を共有する。誰が悪いかじゃなく、どこが悪いかを見る場」


グロウルの中央の頭が、ゆっくりと瞬きをした。


「……会議、か」


「ええ」


エルサは頷く。


「怖くないやつ」


少しの沈黙の後、グロウルが低く笑った。


「奇妙な主だ。だが……理にかなっている」


「でしょう?」


エルサは制御卓に次の指示を書き込む。


「全員参加。強制じゃない。でも、来た方が得をする内容にする」


「それは……魔物たちが戸惑うな」


「最初はね」


エルサは微笑んだ。


「でも、慣れればちゃんと話すわ。生きたいなら」


翌朝。

遺跡全体に、簡潔な通達が流れた。


業務改善ミーティング実施。

目的、不具合共有と環境向上。

処罰、なし。


魔物たちは、その文言を何度も読み返した。


罠かもしれない。

だが、どこにも「命令」や「罰」の文字はない。


ただ一つ、見慣れない言葉があった。


改善。


それが何を意味するのか。

誰も、まだ知らなかった。


---


そして、円卓が再び使われることになる。


今度は、恐怖のためではなく。

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