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元SE聖女、論理眼と現代知識で辺境のガラクタ遺跡を最適化! 〜魔王軍の残党を雇用してホワイトなダンジョン運営を始めました〜  作者: さくらもち


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ホワイト企業稼働開始

遺跡が完全に再起動してから、三時間が経過していた。


私は制御石柱の前に腰掛け、論理眼を最低出力に落としながら、内部ログを静かに確認していた。過剰な解析は、まだ頭痛を呼ぶ。今は安定稼働の確認だけで十分だ。


空調は正常。

マナ循環率は許容範囲内。

居住区の温度と湿度も、人間と魔物の双方にとって快適な値に落ち着いている。


「……悪くないわね」


独り言が、広くなったホールに溶けていく。


周囲では、魔物たちがそれぞれの居場所を見つけ始めていた。ゴーレムたちは壁際で自己修復に専念し、ハルピュアたちは噴水の周囲で翼を乾かしている。誰も争わない。誰も怯えていない。


それだけで、この場所はすでに奇跡と呼ばれてもおかしくなかった。


「信じられん……」


低く唸るような声が、背後から聞こえた。


振り返ると、グロウルが三つの頭を揃えて遺跡を見渡していた。その金色の瞳には、警戒よりも困惑の色が濃い。


「俺たちは、ここで死を待つだけだった。だが今は……」


「空気があって、水があって、温かい。生きる条件が揃っただけよ」


私は肩をすくめた。


「それ以上でも、それ以下でもないわ」


グロウルはしばらく黙り込み、やがてぽつりと漏らした。


「人間は、皆こうなのか?」


「違うわね。少なくとも、あの王宮の人たちは違う」


その言葉に、三つの頭が同時に唸った。


私は立ち上がり、制御石柱から一枚の簡易マップを投影する。遺跡全体の構造図だ。かつては複雑すぎて誰にも扱えなかったそれも、今ではすっきりと整理されている。


「ここが居住区。ここが作業区画。戦闘は原則、外周のみ。内部では禁止」


「禁止?」


「効率が悪いもの。修繕コストが跳ね上がる」


当然のように言うと、グロウルは一瞬言葉を失った。


「……魔王軍では、力こそが秩序だった」


「ここでは違うわ。ルールが秩序よ」


私はマップを切り替え、次の項目を表示する。


「報酬体系も作る。働いた分だけ、ちゃんと返す。無償労働はさせない」


魔物たちの視線が一斉にこちらに集まった。


期待と疑念が入り混じった、剥き出しの目だ。


「信用できない?」


「……いや」


グロウルがゆっくりと首を振る。


「すでに、信用してしまっているのが怖い」


その正直さに私は思わず笑った。


「じゃあ、まずは簡単な仕事から始めましょう。遺跡周辺のマナ濃度の測定。危険箇所の洗い出し」


「戦わなくていいのか?」


「当分はね。まずは基盤作り」


私は窓の外を見た。紫の霧が以前よりも薄くなっている。


「この谷、まだ使えるわ。正しく管理すればね」


グロウルはしばらく沈黙し、やがて低く、しかしはっきりと答えた。


「了解した。CEO」


その呼び方にも、もう違和感はなかった。


こうして、死の谷の片隅で、小さな組織が静かに動き始めた。

剣でも奇跡でもなく、論理と運用によって。


王宮の誰一人として、この場所で何が始まったのかをまだ知らない。


だが遠からず、彼らは思い知ることになるだろう。


聖女を失った代償がどれほど高くつくのかを。

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