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元SE聖女、論理眼と現代知識で辺境のガラクタ遺跡を最適化! 〜魔王軍の残党を雇用してホワイトなダンジョン運営を始めました〜  作者: さくらもち


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接触

谷の外縁、かつて「死の谷」と呼ばれた地点。

そこに、王国制圧部隊は整然と布陣していた。


重装歩兵を前列に、後方に聖騎士、さらにその奥に神官団。陣形は教本通りで、隙はない。足元の地面は硬く、瘴気に侵されていないことが触感だけでも分かる。それが、彼らにとって最初の違和感だった。


「……本当に、ここが死の谷か?」


誰かが小声で漏らす。


返事はなかった。

谷の谷の内部から漂ってくる空気は、重くもなく、腐臭もない。風は一定で、視界も澄んでいる。魔境に立っているという実感が、どうしても湧かなかった。


先頭に立つ制圧隊長が、片手を上げる。


「進軍を開始する。警戒を緩めるな」


号令とともに、部隊は境界線を越えた。

足を踏み入れた瞬間、誰もが身構えた。罠、奇襲、魔物の咆哮。だが、何も起きない。地面は安定し、魔力反応も制御されている。


進むほどに、異様さは増していった。

整備された通路。等間隔に配置された照明。壁面には点検記録が刻まれた板が掛けられ、更新日時まで記されている。


「……本当に管理されている?」


聖騎士の一人が、信じられないものを見るように呟く。


その時、前方の通路から影が現れた。

大型魔獣。体高は人の倍以上。爪も牙も健在だ。


即座に、槍が構えられる。


「来るぞ!」


しかし、魔獣は止まった。

距離を保ったまま、ゆっくりと頭を下げる。


「……作業区域に入ります。制圧部隊の方々ですね」


低く、だが明瞭な声だった。


一瞬、全員が硬直する。

魔獣が、言葉を使った。それも、敵意のない口調で。


「管理者から伝達を預かっています。無断侵入は規定違反ですが、現在は緊急事態と判断されました」


制圧隊長は、剣を抜いたまま一歩前に出る。


「ふざけるな。貴様らは討伐対象だ」


魔獣は首を振る。


「その認識は、最新ではありません。現在、死の谷は管理区域です」


その言葉が終わるより早く、神官が魔力を展開した。

聖句が空気を震わせ、浄化の光が走る。


だが、魔獣は崩れない。

結界が、淡く光って衝撃を受け流していた。


「……防御結界?」


「我々作業員を守るための設計です」


理解が、追いつかなかった。

敵であるはずの存在が、戦闘を避け、説明をし、被害を抑えようとしている。


制圧隊長の背後で、誰かが小さく言った。


「……俺たち、何を壊しに来たんだ?」


その問いに、答えは出なかった。

命令は明確だ。制圧し、解体し、元に戻す。それだけだ。


谷の奥、管理棟の上階。

エルサは、監視板に映る制圧部隊の動きを静かに見ていた。数、陣形、魔力反応。すべて想定通りだ。


「接触、始まったわね」


隣に立つ魔族が、低く頷く。


「戦いますか」


エルサは、首を横に振った。


「違う。説明する」


それでも止まらないなら、その時は――

言葉にはしなかった。


死の谷は、管理された現実だ。

そして今、その現実が、王国の前提と正面から衝突しようとしていた。

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