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元SE聖女、論理眼と現代知識で辺境のガラクタ遺跡を最適化! 〜魔王軍の残党を雇用してホワイトなダンジョン運営を始めました〜  作者: さくらもち


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理解できないもの

王城中枢、円卓会議室。

重厚な扉が閉じられた瞬間、この場にいる者たちは無意識に息を詰めていた。


机上には調査団が持ち帰った報告書が整然と並べられている。書式は簡潔で、余計な感情は一切排されていた。事実だけを積み上げた、あまりにも実務的な文書。その無機質さが、かえって内容の異常性を際立たせている。


「……これは、どういう冗談だ?」


王子が報告書を一枚取り上げ、指先で軽く弾いた。

乾いた音が、静まり返った室内に響く。


「魔物が組織的に行動し、業務改善の提案を出し、作業区画では安全管理が徹底されている? 死の谷だぞ。聖騎士ですら足を踏み入れなかった土地だ」


誰も即座に答えられなかった。

反論の材料がないからではない。書かれている内容が、あまりにも整合的すぎたからだ。


複数の調査員による一致した証言。

隊長バルドの署名。

神官による魔力観測の追記。


どこをどう切り取っても、虚偽と断じる余地は見当たらなかった。


「殿下」


年嵩の貴族が、慎重に口を開く。


「事実である可能性は高いかと。少なくとも、調査団が一斉に虚偽報告を行う理由はありません」


「だからこそ問題だ」


王子は即座に言い切った。

声は低く、感情は抑えられている。だが、その視線には明確な苛立ちが宿っていた。


「魔物は脅威でなければならない。理解不能で、制御不能で、討伐されるべき存在だ。それがこの国の、この世界の大前提だ」


王子は報告書の一節を指でなぞる。


『魔獣グロウル、管理責任者の指示に従い、区域警備を実施』


「そこに“管理可能な存在”という例外を作れば、秩序が揺らぐ。魔王軍最強と謳われた存在が、秩序の一部として機能している? そんなものを認めれば、これまで王国が行ってきた討伐、制圧、浄化の正当性はどうなる」


沈黙が、重く落ちた。


誰もが理解していた。

これは軍事の話ではない。政治でも、宗教でもない。

世界がどんな“物語”で成り立っているか、その根幹に触れる話だった。


「もし、彼女たちのやり方が正しいのだとしたら」


王子は、言葉を選ぶことなく続ける。


「我々は、壊さなくてもよかったものを、ずっと壊してきたことになる」


誰かが、小さく息を呑んだ。

それは、受け入れられない結論だった。


「だから、これは許容できない」


王子は書類を閉じ、断定する。


「理解できないものは、排除する。死の谷は、管理される場所ではなく、恐怖の象徴でなければならない。そうでなければ、世界が混乱する」


軍務大臣が一歩前に出る。


「武装派遣、という形で?」


「制圧だ」


王子は迷わない。


「管理体制を解体し、中心人物を拘束、もしくは排除する。魔物は殲滅対象に戻す。死の谷は、元の“危険な場所”に戻せ」


「反発が出る可能性があります」


「出ればいい」


即答だった。


「世界は、分かりやすい方がいい。聖女が祈り、王国が守り、魔物は討たれる。その構図が崩れる方が、よほど危険だ」


最後に、王子は静かに言葉を落とした。


「祈りで守れない世界など、存在してはならない」


会議は、それで終わった。

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