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愛され竜人若夫婦のちょい足し魔道生活  作者: さまのすけ


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3 王太子殿下ご一行

 施療院前の通りは、火の壁が現れたのがわずかの間であったし、折良く近辺の人通りが絶えていたこともあって、生垣の一部と東屋が消失したのに気づく者は無く、平静そのものだ。

 左手に武家屋敷、右手に店々が立ち並ぶ通りを、殿下と呼ばれた黒髪の青年、商船団団長ハンス、倫子を軽々横抱きにしている竹丸、白衣は脱いで羽織袴姿になった伊織、の順で歩み進む。もちろん、護衛の忍者も同行している。

 瑛都は大凡(おおよそ)賽の目のように通りや大通りが走っている造りで、これは整然としたランタルニアの王都を模したものである。城までは大きな武家屋敷が二邸あり、賽の目ひとつ分と少し歩く。



「竹ちゃん、家を出たとこからずっと見守ってくれてたの?」


「そうだよ。母さんも酷いよな。薬草のことぐらい文の遣り取りでどうにかなるだろ?他の男に会わせるなんて。昨日成人したお祝いのひとり歩きだとよ。」


 倫子は抜け忍の父と元商家の美人看板娘の母を持つ、忍者界垂涎の優良血統種である。倫子を間諜にと狙う忍者も数多く、通称『竹丸の花嫁を守る会』、瑛都(いち)の忍者社中「花鳥風月」、竹丸の実家である大公家「楠瀬」、竹丸本人により『綺麗に掃除』されてきた。そういうわけで、念のため倫子は瑛都をひとり歩きしたことがなかった。


「ふたり歩きでも良かったのに。」


「『これからどうせアンタはひとりにしてあげないんだから、今日くらい我慢しな』だってよ。倫~、いつ俺だって分かった?もしかして顔見るまで分かんなかったりした?なんか泰然としてない?」


「そもそも誰かなんて考えなかったもん。わたしを助けてくれるのは竹ちゃんって決まってるの。そういえば竹ちゃんにこんなにくっつくの初めてだね。」


 竹丸は、蜂蜜色の瞳をさらに甘く溶かし、高々と倫子を掲げて回り出さんばかりである。竹丸も黒髪青年と同じ髪型で、花のような毛先が歩みに合わせて開いたり閉じたり揺れる。彼の鼈甲の簪は倫子の贈物だ。


「玲と親父さんと約束したんだ。倫子が二十歳(はたち)になるまで指一本触れないって。約束してからは一度だって触ってないよ。今日から解禁。成人おめでとう倫子。解禁おめでとう俺。そうそう、ホントはな、昨日渡したかったんだけど、家族水入らずの宴に来るなって玲に意地悪されて行けなくて。林檎の花の蜂蜜作ったんだ。後で持ってく。」


 倫子は蜂蜜が大好物だ。竹丸の眼は山吹色と言われているが、倫子だけがその蜂蜜色だと言う。それが嬉しくて竹丸は倫子に蜂蜜を贈ることを無上の喜びとしている。


「林檎の匂いするの?」


「おうよ。翠竜山(すいりゅうさん)の林檎の木に蜂を寄せて作った世界でひとつの俺特製蜂蜜。」


 翠竜山は竜舞城の背後に聳え立つ霊峰である。水墨画と見紛う断崖絶壁ばかりで、林檎の木など山全体に二、三本しかない。そこで養蜂など、心技体に優れた最上級忍者「特忍」竹丸以外まず無理だろう。


「嬉しい。ありがと、竹ちゃん。それにしても伊織さんはモノクル外したら別人だね。」


「ランタルニアの憧れの先生の真似だと。んで、あいつモノクルより眼が大きくて、モノクルが邪魔で見にくいから目を細めてるんだよ。」


「へぇー。」


 伊織さんは賢そうなのに案外幼いことをするなぁと倫子は思ったが、後ろにいるので口を噤んだ。


 実は竹丸の負傷は、目を細め過ぎて足元がおぼつかなった伊織のせいである。多大なる時間と労力を費やした特製林檎蜂蜜を抱えた竹丸に伊織がぶつかり、蜂蜜を、ついでに弟分伊織も守ろうとした結果、足首捻挫と相成ったのであった。倫子が竹丸からもらったランタルニア産林檎ジャムはそのときの伊織からの心からのお詫びの品である。



 林檎の揚げ物に蜂蜜を絡めて砂糖をふりかけても勝てるかどうか、という甘い寸劇が繰り広げられるのをほのぼの見ながら、檜原伊織は、そういや部屋に竹丸に献上した林檎ジャムの残りがあったな、と歩みを進める。伊織は大の甘党である。菓子のみならず、他人の惚気も大歓迎である。


(いや~、竹兄様の倫子さん本当に可愛らしいなぁ。竹兄様おめでとうございます。はぁ~、羨ましい、欲しい、僕の嫁!)


 伊織は自分だけの女の子を見つけたら、竹丸級に恋着する自信がある。

 恋着型に非ずんば竜人の男で無し、とすら思っている。


(それにしても、これだけ後ろが甘いのに、あの団長さん表情変わらないな~。枯れてる?竜舞国に慣れすぎただけ?本人も恋着型?)



 城が至近になって、大店ばかりになってきた。米屋の大店、高級文具の大店、紙専門の大店等々。ここまで来ると、黒髪に凛々しい金眼の青年が王太子殿下だと気づく者も出てくるのだが、配慮して声を掛けてくる者はいない。



 竜舞国は王制を敷いている。ここ数代男王が続いているが、かつては女王もいた。柾耶はひとりっ子である。かつては竜人も多産だったらしいが、この数百年、ひとり、佳くてふたりの子しか産まれない。この一行で、兄弟姉妹がいるのは倫子と伊織だけだ。ちなみに、子がふたり生まれ、王位を継がなかった子は大公位と苗字を与えられる。竹丸の実家、楠瀬は五代前の王弟が興した家である。


(伊織め……。どうしても理由を言わないつもりか。あいつの兄なら知ってるかな。)


 護衛としてやって来た竹丸以外、歳の近い信用に足る者がいなかった柾耶にとって、ひとつ歳下の伊織は学友にして無二の親友である。医道に造詣が深いのは知っていたが、ゆくゆくは側用人(そばようにん)として支えてくれると信じて疑わなかった。急に去られて納得できようか。

 伊織は竜人には珍しい双子である。双子の兄、伊絃(いづる)は町奉行である父親の祐筆(ゆうひつ)をしている。少産の竜人にあって、双子は忌むべきとの考えはない。ふたりとも分け隔てなく多大な愛を注がれて育てられた。ただ、伊織が医道を志しただけ、そう柾耶は聞いている。


(それにしてもハンス以外の商船団団長を知らないが、いま何歳なんだろう…。)



 ランタルニア商船団団長ハンス・シュトラウスは施療院を出て早々、辛うじて歩みは止めていないが、困惑の極みにあった。いつの間にか身につけた鉄壁の微笑を浮かべ、平静を装いながら歩む。


(殿下に、楠瀬殿と女の子、檜原殿…。……城に向かっているようだが。)


 ハンスはいま五十二歳だ。マギーの腕を買われ、商船団の団長になって久しい。優に三十年を超える。ランタルニアの者は、凡そ六十を超える頃には櫛の歯が欠けるように親しい者がいなくなるので、彼は船長としてはかなりの齢、ということになる。ちなみに竜人のそれは百二十である。

 しかし、ハンスにそれだけの歳月を生きてきた実感はない。ハンスは商船乗組員になって直ぐから時々記憶がないからだ。初航海でも、気づけば竜舞国が目の前で、ただ同僚たちが「お前のお陰だ!助かった!」と握手してきた。生来器用な性質のハンスはそのまま流され、そんな記憶喪失を度々経験し、あれよあれよという間に船長、団長と登り詰めていった。

 記憶喪失の間ハンスの身体を支配している「誰か」は相当有能なようで、およそハンスが不利に陥ったことはない。

 その「誰か」は竜舞国にあってもマギーを自在に発動できるらしく、人知を超えた存在なのだろうと思っている。


(このまま歩いてそれ相応に振る舞っていれば、もうすぐ「誰か」が代わってくださるのだろうが……)


 辺りの景色に構う余裕もないハンスであった。

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