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愛され竜人若夫婦のちょい足し魔道生活  作者: さまのすけ


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39 泣かせ過ぎた

 一慶が鍛練場について入り口から覗くと、銀髪に緑の眼、白い鱗の木剣を持った男が外を指差し鍛練場から出てくる。鍛練場のなかはやけに静かだ。黒く小さな笛を吹く三人を残りの十人くらいが取り囲んでいる。三人は精一杯息を吹き込んでいる様子なのに、笛の音はしない。

 それを横目に見ながら、木剣を持った男の後を追う。悠々としているが、その足捌きは速く、一慶もついていくのがやっとだ。鍛練場の隣の木の下で、小声で男が口を開く。


「こんにちは。一慶さま。秦野です。先程から護衛もついたみたいですね。ふふ、護衛はこの状況を知っているからか、笑っているだけですがね。あれは忍者を喚ぶ笛を聞く修練です。それができなければ忍者は務まらない。いま奉行所に属している忍者はあれで全員です。つまりいまの時点で奉行所に忍者はいません。あの倍はいましたが、全て新田殿の許可を得て解雇しました。見込みがあって残したあの者たちも、笛が聞こえるまでは雇えません。捕方は兎も角、忍者方はこの状況です。その顔になってから護衛が初めてついて、特に私に会いに来た訳ではないということは、ここへ来るように言ったのは左門ですね。」


 一慶は黙って頷く。


「竹丸殿から筆頭与力だけ探せと言われませんでしたか?この状況を見たら、貴方も奉行を代えたくなったかもしれませんが、私と取引しましょう。筆頭与力だけの交代に留めてくださるなら、候補をご紹介しましょう。奉行を補う正しい意味の筆頭与力がいれば十分でしょう?筆頭与力の交代は五分でしたが、奉行もというのは私の寝覚めが悪いのでね。新田殿はともかく、なぜか楠瀬殿も二人とも代えたいとお考えのようですが。」


「私が奉行を庇ったのがお気に召さなかったようだ。」


「? まあそれだけではない気がします。ふふ。あの方らしくないですから。」


「取引に応じよう。兄様が困っているのが理不尽で申し訳ない。」


「有り難うございます。同好の士の嘆きを見なくて済みます。候補はふたりいるので、奉行に合うほうを選んであげてください。それでは白晰の間に文をお届けします。ここはそろそろ耳目が、ね。」


 言うや否や、秦野は鍛練場に戻った。

 暫くすると新田が現れた。スタスタと一慶目掛けてやって来るので、挨拶しようとすると、護衛が袖を引き、左門の名は出すな、剣豪を見に来たと言えと囁く。


「おや、こんなところに侍従がいてよいのですか。早く探してくだされ。」


「剣豪がいると兄様が…。」


「…はぁ、竹丸殿は直ぐ甘やかす…。」


 急いで候補たちを探さなければならないのに剣豪を観に行ってよいと竹丸が言ったと取ったようだ。取り敢えず大慌てで奉行所を後にして、城に戻りそうになって変形が戻っていないことに気づく。

 「抜け道のことは存じております。私は兄弟子です。薬舗へ。」と呟きが聞こえたので、薬舗に向かう。



 裏口から入って薬舗に戻った。伊織と違って鍛えている一慶は、然程、息は乱れていないが、色々あったにも関わらずろくに考えられないまま駆けてきたので、ぼんやりしていると、竹丸が花鳥風月の仕事から帰ってきた。


「どうした、一慶。兄者も。珍しいな。」


 えっ、と一慶が思うや否や、天井から男が降ってきた。


「竹丸の愛の巣だから遠慮してたんだよ。てか俺が死ぬ。俺に嫁を恵んでくれよ。」


「え、えっと…」


「まーた人見知りって言われたか?俺のこと。アンタさぁ、頭領のことも、紫のおっちゃんに人見知りだから会わなくていいって言われたろ?あの人らはさぁ、忍者に会わせたくないときいつもそう言うの。だってそういう仕事だろ。無口で人見知りそうな。もー、竹丸、もっと裏のこと教えろよ!まさかお前が純真無垢じゃねえだろうなっ!」


「…言えねえこともあったんだよ。俺の雇い主は父さんだ。」


 護衛の怒涛の勢いに目を剥く一慶。朝まで無口でしたよね、と呟く。


「かーっ、紫のおっちゃんの虎の尾踏んだの分かってねえし、頭領のも踏みそうだったから止めたわ。いーか、花鳥風月っていうとこがあんのによ、俺の師匠が竹丸を取ったのよ。吠えるだろ?ちょっとばかし、殴り込みたくなるだろ?だからあの頭領に左門って言っちゃ駄目なの、わかった?あと、ここだから言うけど、アンタが左門と繋がりがあるってのも絶対隠せ!師匠はそういうこと直ぐ出すからアンタが隠せ。」


「はぁ。しょうがねえじゃねえか。そんなこと、俺には説明できねぇよ。」


「何ヵ月も経っただろ。しないんなら俺がする。文句あっか?」


「ねぇよ。兄者が護衛だ。兄者の方法でやってくれ。」


「じゃあ、城に戻る。」


「おう。お疲れ。」


 護衛が薬作りの部屋の戸を開けて出ていった。

 目を丸くして座っている一慶に、隼矢が頭をぽんぽんと軽く叩く。


「遠ざけてばっかりじゃ、守れねえ。俺は父さんの考え方でそうしてきたが、俺自身が決めて良かったら、兄者みたいにしたかもな。もうおまえは子どもじゃねぇ。父さんの虎の尾の件はなあ…。仕事をほとんどさせて貰えず辞めたかったんだが、おまえのために城に留まってただけなのに、父さんが奉行にしてたとか言ったろう?怒ってる。おまえには新しく良い護衛がついたのに、いつまでも俺のときのまま、俺以外の護衛を無視するのは駄目だぞ。今まであの人が我慢してただけだ。変形薬で不満が弾けたんだな。奉行所で元の姿に戻ってそのまま帰ったのか?」


 こくん、と一慶が頷く。


「それで、気付かれたんだな。抜け道がここに繋がってるのまでは直ぐ分かったろうけど、そこからがな。さっぱりだったに違いねえ。気の毒なことしたな。秦野さんも、ほとんど分かってたけど、確かめに来たからな。城の秘宝って言い訳したのもそのときだ。おまえ、賢いんだからもうちょっと考えろ。おまえは変形、薬より石にしたほうが良さそうだ。そのほうが元に戻ったりし易い。明日までに秘宝っぽく作っとくよ。秦野さんに会ったか?」


 こくん。


 一慶がとぼとぼと抜け道で帰ろうとしたとき、倫子が部屋にやって来た。


「あら、一慶さま。もう隼、それとも竹ちゃん? こんな顔のまま城に帰す気?」


「うん。一慶の護衛の後任になってくれた人にな、一慶が失礼したんでにっこり顔で帰すわけにはいかないんだよ。」


(ああ、私は兄様以外の護衛を兄様がいないから仕方無くとしか考えてこなかったから、新しく護衛になってくれた人に失礼なことしてたんだ…。名、名も知らない…)


 青くなった一慶を見て察した隼矢は、溜息を吐いて、倫子に茶を頼む。

 倫子は隼矢が一慶を引き止める気になったのを見て、嬉しそうに茶を淹れにいった。


「戻って来い。お茶を貰おう。兄者の名も知らないんだな。まぁ、左門のじっちゃんが言い忘れたんだろ。そんなに気にするな。俺だって坊のままだ。父さんは、じっちゃんが俺をおまえのための護衛にしたことずっと怒ってる。おまえから俺を急に離したのは半分は嫌がらせだろう。だからおまえがこんな失礼をしたのもやっぱり半分は父さんのせいだろう。あの人の名は高原。だが本人の呼ばれたい名で呼ぶのが忍者の礼儀だ。ちゃんと話し合え。」


「お茶入ったよ~。あら、仲直りした?にっこり顔は駄目でもお澄まし顔で帰ってくださいね。わあっ、このランタルニアの書物どうしたの?」


「伊織の訳したほうだ。俺がハンス殿の元のものと揃いの見た目になるようにした。面白そうだったから。もう二冊あるぞ。二冊とも伊織のところに置いてきた。伊織、起きたら吃驚(びっくり)するぞ。」


「伊織の訳文出来たのですね。伊織、どうかしたんですか?」


「疲れて寝てる。ハンス殿のところまで迎えにいって、屋敷へ送った。『複成』できるようになったから、あいつが寝てる横で、書物に仕立てて置いて帰った。また文ででも(ねぎら)ってやってくれ。」


 凄い、凄い、ランタルニアの書物だーと倫子が感心するなか、一慶は茶を飲んで、少しだけ元気になって城へ戻っていった。



「なあに、お義父さまと今仲良くないの?」


 一慶が帰った後に、膨れっ面の隼矢に倫子が聞く。倫子も紫矢と歓談していて、紫矢の苛立ちを感じたのだ。


「多分な、名づけのことだよ。青矢にして欲しいんだよ。」


「あー、伊織さんに響きが海の向こうの国っぽくて大湊の子だって言われたんだよね。隼も気に入ったんでしょ?」


「んー、でもなー、父さん自身、色の名気に入ってないくせに…。」


「見た目で決められたのが分かり易いから嫌なのね。わたしは青矢ってあまりいいと思わないけど、それとは別に、子がどう思うか気にし過ぎても仕方ないと思うよ。お兄ちゃん、『あきら』の字って色々あるから、ちゃんと『玲』になってること少なくて。『令、伶、怜、璋…』うふふ、気にしてたし。隼だって、矢の字が書きにくいとか。キリが無いよ。」


「青矢って気に入らないか?」


「そこまでじゃないけど、もっと青い人がここにいるのに?」


「確かにな…。また青い人って言われた、ふん。」


 ふふふ、と笑う倫子であった。






 

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