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愛され竜人若夫婦のちょい足し魔道生活  作者: さまのすけ


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38 凄腕忍者泣かせ

(ん?んー?陛下っていつどこを探してるんだ?この子だと思ったが顔違うし…。まさか人に頼む筈無いしな。全く気配をさせずに探す?無理だしな。分からん。)


 秦野は一慶を探すのを諦めて、薬舗に向かう。いわゆるお勝手口に手を掛ける。だが、通じているのは炊事場ではなく薬作りの部屋である。その戸を引くと、隼矢がいた。


「秦野さん、いらっしゃい。額できた?」


「おう。ひとつ出来た。持ってきたぞ。でな、陛下が分からん…。」


「あ、隠形させてる。潜むほうじゃなくて、眼と髪変えてる。」


「眼?! そ、そんなことができるのか!」


「うん。おっちゃんも結構好きでしょ、ランタルニアのもの。」


「へえぇ。ランタルニアのか。また貴重そうなものだな。城には凄いものがあるんだなあ。誰がやっても波々の黒髪に若緑の垂れ眼かぁ。」


「そ、波々の髪に若緑の垂れ眼。黒は元のまま。」


「あの、欲しいとか思わないんですか?」


 三つ子の世話から戻ってきた倫子が杓子を洗いながら聞く。


「ああ、一個じゃ足りないからね。そういうものは危ないから、城で確り預かっといて欲しいね。じゃあ、額は渡したよ。もう一個は次来るよ。」


「あ、鍛練はどう?」


「あー、ない、ない。本当に笛が聞けない。春花秋月も笛が聞けるのは上の奴だけだ。あれじゃ、奉行所を取り込もうと、花鳥風月の相手にもならない。取り敢えず奉行所から追い出してるだろう?その後は内紛だな。花鳥風月が睨むから、瑛都の外でやる。まともな奴らが勝って、戻って、少人数でやる。それしかないな。」


「鍛練頼んだけど、掃除中心なんだね。」


「そう。そろそろ終わりそうだから、早目に出会わせたい。行ってくるよ。」


「よろしく~。」


 秦野は見ていて感心する速さで駆けていった。



「欲しいって言わない人、居るんだね。」


「そりゃ、そうさ。おっちゃんは特にそうだな。俺の色変わりのことも聞かないだろ?余計なことは言わない聞かない。仕事を続けたいから徹底してる人だ。左門のじっちゃんとはまた違う考えだ。」


「刺客って忍者より気を遣うんだね。」


「いやいや、人によるし、おっちゃんは忍者だよ。剣豪だからそう呼ばれるだけ。伝達鳥も使えるし、笛も聞ける。」


「ふーん。刺客の割に怖くないとは思った。隼に似てるなーとか。」


「そうか。俺もおっちゃんも嬉しいぞ。生き物の世話が好きなんだ。水鳥と伝達鳥の他にも居るみたい。馬はいないかな。」


「いい人見つけたね。左門さんより隼に合うお師匠さんだよね?」


 うん、うんと首を縦に振る隼矢は、倫子を抱き寄せた。


「じっちゃんから、『次からわしの代わりに来る奴は水鳥を飼っておっての』って聞いた途端、会いたい!ってなってな。一目見て強いって分かったけど、それ以上に水鳥、水鳥で。同好の士っていうの?それで師匠になって貰ったんだ。」


「それでちゃんと鍛練するところが竹ちゃんらしい。」


「当然だろ。おっちゃんの仕事は俺を鍛練すること。俺の子守りじゃない。失礼じゃないか。ま、なにより俺がおっちゃんに鍛練して貰えて楽しかったんだが。おっちゃんの指南は上手いから。」



 バッサ、バサッ、バサッ


 倫子と隼矢がそんな他愛もない話をしていると、急に大きな羽音がした。

 

「庭だ。井戸の辺りだな。ハンス殿だろうが…。」


 隼矢がそう言いながら外へ出て、鷲を連れてきた。肩に止まらせている。文を読んでいるようだ。


「……。! 倫、ちょっとランタルニア商館に行ってくるわ。訳文が出来たらしいんだけど、頑張りすぎて伊織が伸びちゃったらしい。迎えにいって邸まで届けてくるよ。こんな明るいうちから鷲が飛んじゃって、皆吃驚してないと良いがなあ。」


「まあね。鷲だって知らないだろうからいいんじゃない? はい、これ。よく眠れる薬草茶。伊織さん一生懸命だったんだから、怒っちゃ駄目だよ?」


「分かった。行ってくる。」


 隼矢が引戸を開けると、先に鷲がそのまま飛んでいった。


「はぁー、賢い。返事、あるかないかも分かるのかー。」


 隼矢が得意の強化をして、鷲に負けない速さで出掛けていった。



     ◇◇◇◇◇



「ヘクシ! 風邪を引いたかのう。腰が治って浮かれ過ぎたかのう。なにやら秦野が坊のところに出入りしておるのが面白くないから、行ってみるか。」


 そう左門が呟いて瑛都の外れの邸を出、城の前まで来て角をひとつ曲がれば薬舗というところまで来た時、その辺を先程からうろうろ歩いていた羽織袴の男に急に抱き付かれた。


「………。……………。」


「なんじゃあ?一慶がお主を出し抜くだぁ?そんなわけあるかい。お主の腕が落ちたんじゃろ。まぁったく、ええから仕事せい。」


 全く驚く素振りも見せず左門は抱き付く男を追い払い、薬舗に向かう。左門は裏口を知らないから、ふつうに店に入っていった。

 男はなおもうろうろ歩いていたが、諦め、城のなかへ入っていった。



「おお、若奥様、御無沙汰しておったのう。お陰様で腰が治って、溜まった用を片付けておってな。あちこち出ずっぱりでのう。風邪を引いたみたいじゃから、薬草茶でも貰おうと思うてのう。」


 店にはちょうど誰も客がいなかったので、左門が倫子を見掛けて明るい大音声で話し掛けた。倫子がにこりと会釈したところで、一慶が奥から出てきた。左門の声は良く響く。


「お祖父様、お久しぶりです。」


「おぅ?その声は一慶か。こりゃまた見事な隠形じゃのう。髪は柾耶、眼は奉行の息子か?ん?眼?眼の色なんて変えられるのか?声だけ一慶の秦野か?」


「本物ですよ。城の秘宝で姿を変えておりまして、変形と呼ぶのです。」


「そうか。そうか。眼の色を変えるなんぞ、隠形を超えて変形じゃのう。納得、納得。じゃがのう、ついそこで、わしの弟子がお前を見失のうたってわしに泣き付いてきおったぞ。ちぃとばかし可哀想なことしたの、すげなく追い払うてしまったわい。あれでもわしの一番弟子よ。教えてやってくれ。」


 竹丸の退任後、左門が先々王に付けていた自分の一番弟子を、可愛い孫、一慶に付け替えたのだ。この一番弟子こそ竹丸の他のもうひとりの特忍であったりする。先々王は孫に快く譲ってくれた。先々王は勿論、本当は左門の孫であることは知らないが、知ったとてやはり喜んで譲ってくれるであろう。因みに特忍が王家の護衛になると、俸給が従来の十倍になる。竹丸を特忍にしたのは左門のせめてもの礼なのである。


「申し訳ありません、お祖父様。秘宝ですから。お見せできないし、私はあの方とお話ししたことがなくて。今度書置きでもすれば良いでしょうか?」


「そうじゃのう、困っておるじゃろうて、これを買い求めたらわしが伝達鳥を飛ばそう。次からは…ないか、そんなことは。あれば書置き頼むぞい。あいつは人見知りじゃが腕は確かじゃ。仲良うやってくれ。」


「はい。よろしくお願いします。」


「そんな変形じゃったかをして、なにをしておるのじゃ?」


「奉行所を立て直そうと、探っているのです。これからも城の人員を把握するように楠瀬殿に言われておりますので、この格好は暫く続けます。」


「急な即位じゃったからのう。楠瀬殿か…。もう怒らせたくないしのう…。うん、頑張れ。筆頭与力のことじゃろう?春花秋月もかのう?あ、ひょっとして奉行もか?そりゃ大事じゃのう…でも頑張れ!坊に任せる!わしはもう楠瀬殿を怒らせてはならんのでな、うん。」


「春花秋月?」


「あ、やはり他のは当たりじゃな。うん頑張れ。春花秋月はのう、そろそろ片付くからいいがのう、あの二人、奉行と筆頭与力が頼りないのが分かるじゃろうから、鍛練場に行ってみぃ。筆頭与力だけでもなんとかなるように秦野と頭領が片付けたから、良かったの。教えられるのはこれぐらいじゃの、くわばら、くわばら。」


 左門は、後は何を聞いても濁すばかりで、薬を買い求めて伝達鳥を飛ばし、家路に就いた。


(? 兄様も筆頭与力だけでよくなったと言ってたな。)


 今日は侍従の仕事は非番なのだが、鍛練場に行ってみるかと左門の言動に首を傾げつつ思う一慶であった。



     ◇◇◇◇◇



 ピィーーー


 左門の赤い伝達鳥が飛んでくる。


(あ。師匠の鳥だ。こんなところで大声ださないでくれよ。師匠そっくりだな、おまえ。)


 腕に止まらせて文を読んだ男は口角を上げ、文を丁寧に折り畳んで懐にしまった。


(波打つ黒髪、若緑の垂れ眼…)


 男は弾む足取りで奉行所へ駆けていった。

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