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愛され竜人若夫婦のちょい足し魔道生活  作者: さまのすけ


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37 運の底上げ

 秦野は竹丸から早速文が来たことに首を傾げ、読んでもう一度傾げた。取り敢えず真っ直ぐに戻ったので気を取り直して返信を認める。「承知した。額は遅れる。明日薬舗に向かう。」と。


(左門じゃなくて私に奉行所の忍者の教導?)


 次の日、先ずはどんなものか確かめたいと奉行所に向かったのだが、自分に頼まれることになったと思しき原因に出迎えられた。


(それは、そうなる…。)



 秦野はどちらかというと剣客とか剣豪と言われるのを好む。しかし、この竜舞国ではそれは特忍と同じく評価であって職の名ではないので自分で名乗ることはない。この国では荒事を主にする者を刺客、それ以外で特に間諜を主とする者を忍者と呼んでいる。秦野は実のところ今も昔も忍者なのだが、国で一、二の剣の腕があるので、世の人々は秦野のことを刺客と言う。

 そんな秦野は凡そ十七年前のある日、十歳ほど年上の親友、左門から「腰が痛いし、身分を探ろうと花鳥風月が激しいから、わしの代わりにお気に入りの坊を鍛えてやってくれ」と依頼された。いつも良い仕事を回してくれる親友の頼みに二つ返事で頷いたのだったが、行ってみて直ぐ帰ろうと思った。そこに居るのはどう見ても名家、しかも多分その珍しい濃紺の髪、山吹色のきつい眼、灰青の鱗から大公家楠瀬のご子息であるのが明らかだったからだ。

 世慣れないところがあるとはいえここまでかよ、と親友に呆れ果てた秦野は、取り敢えず挨拶と詫びをして帰ろうとした。ところが姿形以外はよく似たところの多い秦野に竹丸が懐き、結局引き受けることになった。

 竹丸が内々に花鳥風月の次期頭領であることは有名だったし、勿論「至誠の柳」のことも知っていたので、本来花鳥風月が行う役割を横取りする形になることを十分理解していた秦野は、徹底して花鳥風月系統の技を教え込んだ。

 そういうわけで、花鳥風月は秦野には兎も角、左門を目の敵にして激しく嫌っているのである。



「お久しぶりです秦野殿。竹丸様が代わりを頼んだと仰ったのでお待ちしておりました。どうぞ。ご案内します。短い間ですが、拙が筆頭与力を務めることになりまして。書類関係は檜原奉行が、その他を拙がしますので、腐ったものは誰彼構わず打ち捨てて頂いて結構です。」


(おぉう、流石、こういう大きいところの取り纏めにかけては、坊の父上に次ぐ手腕の持ち主なだけはある。潔癖掃除屋は健在みたいだな。奉行所は半分になるかもな。)


 門から二人スタスタ歩いて鍛練場に向かう。ここ奉行所には間諜の仕事で訪れることも多い。忍者の新人時代には鍛練として潜り込まされることもある。あまりにも慣れた道のりである。忍者たちにとって最早、家である。


「笛も聞けない者がおります。春花秋月が入り込もうとしておりまして、上も下もそれが多いです。うちの者は入れておりません。うちとしましては春花秋月が取り込んでも問題ないので放置していたのですが、一連の件は春花秋月の仕業とか。とても信じられませんが…。」


 言いながら鍛練場の戸を引く。ふつうならこんな気を引く話をしているのだから、戸の前にあってもよさそうな気配がひとつもなかった。動いた気配もない。全員ごろ寝姿で伸びていた。


「そんな厳しくしてるつもりはないんですがね。」


 明日から三日おきに教導に来てくださる、挨拶しなさい、と告げる声を聞きながら、これは骨が折れそうだなと思う秦野であった。



     ◇◇◇◇◇



「お奉行様、お茶になります。」


 ことり、と机に椀を置く。丁寧に置いたつもりだったが、いまいちだったらしい。水面が大きく傾いで茶が溢れそうになった。


(さっき倫子殿に習ったばかりだから、上手くいかなかった…。)


 大也は驚いて書面から顔を上げ、茶を置いた一慶を見る。

 一慶はいま、柾耶のような波打つ黒髪、伊織のような若緑のやや垂れ気味の大きな眼に、城で一番よく見る、結わえた先が馬の尻尾のようになる結い上げをしている。


「初めて見る顔だね。お茶はそちらの空いている席に置いてくれないか。暫くその席は空くことになったからね。たまに来るそうだから、そのときは彼の分も要るか尋ねてやってくれ。」


 大也はなるべく空席を見ないようにして指差した。

 言われたとおり、一慶は置き直す。そして、部屋を退出した。

 

(やっぱり寂しいらしい。可哀想なことをした…。だがあれを置いておくわけにはいかない。)


 一慶は今日の執務を終えて早速、奉行所で奉行付きの侍従として働くことになった。この侍従の仕事は檜原が大抵自分でやってしまうので、とても暇なため、人気がなく欠員が多い。


(奉行と筆頭与力を見出だせか…。また兄様の大切な刻を奪ってしまった。)


 朝から城に紫矢がやって来て、暇な午後を使っての城の人員の把握を命じた。まずは奉行所から、ゆくゆくは全体を把握せよ、と。そして奉行と筆頭与力を見出だすように、と告げたのである。なるほど急な即位だったからこういうところが準備不足だった、まずは筆頭与力から探せばいいかと一慶は暢気に考えていたのだ。

 しかし今後の探し方を助言して貰おうと薬舗を訪れたところ、竹丸は居らず、倫子が、おずおずと変形薬と竹丸の文を渡してきた。倫子に断って文を読むとそこには、紫矢が筆頭与力に花鳥風月の頭領を仮とは伏せて据えたこと、頭領の代わりに忍者の教導に秦野がやって来ること、変形薬で奉行の侍従になるよう手配したからなるべく早く探して欲しいこと、が認められていた。


(紫矢殿は、私が檜原奉行を辞めさせるのを渋ったのがお気に召さなかったらしい…。兄様に当たるなんて。ご免なさい、兄様。大急ぎで探します。)


 一慶は取り敢えず侍従として与えられた仕事をこなすため、次の場所へ向かったのであった。



     ◇◇◇◇◇ 



 倫子はひたすら申し訳ないと頭を下げ、変形薬を飲んで奉行所へ一目散に駆けていった一慶を見送った。


(隼には気の毒だけれど、わたしはやっとお世話ができて嬉しいんだけどな。また次の子のお世話もあるよって言えないのが困るよね。)


 一慶が顔をしかめたりすることなく飲み干し、変わった姿もまずまずの出来だったので、同じものを作ろうと倫子は薬草を用意する。味や色もない水でも十分だが、折角なので元気のでる薬草茶を基にして一慶用の変形薬を作っているのである。そのまま使うと何かの間違いがあってはいけないので、少し色を変えている。

 鍋を混ぜていた杓子を机に置いて、さあ魔力を入れようと手をかざしたとき隼が帰ってきた。


「おかえりなさい、隼。一慶さまが凄く謝ってたよ。そんなに掛かりそうなの?」


「ただいま、倫。秦野さんも。運次第?。奉行所に居なさそうだから。」


 えっ、と倫子が思うと同時に、秦野が現れた。


「いま来たところだよ、若奥様。鍋をかき混ぜていた杓子を机に置いた時だよ。驚かせてごめんね。当分はこの顔で来るから、今度からはちゃんと入り口から来るよ。つい癖で。怒るなよ竹丸。」


「また倫で遊ぼうとしただろ。倫の素直に驚くとこ楽しいんだよねぇ?」


「ごめんよ。こんな素のままの人、久しぶりに会うからさぁ。私の会う女の子は皆忍者だろう?」


「檜原殿の真似の時もからかっただろ?」


「あれは出来映えを試しただけさ。遊んでないよ。頭領が筆頭与力になるとか、春花秋月がどうのって言ってたけど?」


「うん。春花秋月が奉行所の忍者方になろうとしてた。それは構わない。うちには関係ない。ただ質が悪くて柳が指南してた。筆頭がああなったから、代わりに柳を仮に据えて、陛下が探してる。」


「なるほど、そうなったか。金子は全部あの人持ちだったけど、そうは甘くない、と。いや、至誠の柳は凄いな。流石潔癖掃除屋。腐ってたら切っていいって早速言われた。奉行所、半分になるかもな。陛下が探してくるまで、ね。ふーん。」


「潔癖掃除屋?」


「頭領は至誠の柳になる前は、潔癖掃除屋だったぞ。なに、年嵩連中にそう呼ばれていたってことだ。楠瀬殿は御存じだと思うが…知らないか?兎に角まあ、私が来るのは三日に一回だけど、当てはあるから陛下の運を上げてやろう。その間、世話ができないのは辛いだろう?」


「頼む!」


「んー、筆頭与力だけか?ひょっとして奉行もなのか?頭領の口ぶりでは大層奉行にご不満だったなあ。」


「うん。」


「それはそれは。奉行は出納方に置く方法を考えて欲しいがな。勿体無い。まあ奉行にも当てはある。だが、筆頭与力をなんとかすれば、十分だろう?もし奉行を出納方に置く方法が見つかりでもしたら教えよう。」


「ありがとう。陛下が聞いたら凄く喜ぶ。」


「筆頭与力を辞めさせるかは五分だと思ってたからな。善人そうではあったから。奉行までとなると流石に私の寝覚めが悪い。じゃ、額作るぞ。楽しみにしててくれ。」


 秦野は本当に今度は戸を引いてふつうに出て、帰っていった。



「よかったねぇ。お奉行さまも。でも隼、わたしね、もう少しで魔力を入れるところだったの。手をかざしてるところ見られちゃった。お祈りしてますって言っとけばいいかなぁ?」


「う~ん。その色の水にか?失敗して嘆いてるように見えたかもな。」


「色、変えよう。そうしよう。」


 それ以降、魔力水は綺麗な色ばかりになったという…。




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