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愛され竜人若夫婦のちょい足し魔道生活  作者: さまのすけ


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34 思わぬ解決

 次の日、薬舗に秦野がやって来た。小刀ができたらしい。倫子には秦野が来たから、と三つ子の世話を頼んである。とはいえ、いま三つ子は幸せそうに熟睡している。

 小刀は所謂(いわゆる)その筋の人が投げて使う型だ。やはり有り余っているそれになったようだ。柄の部分に余すところなく彫られている。ひとつは花や葉が、もうひとつは鱗か屋根瓦のような格子模様である。


「見事な出来映えだね、おっちゃん。あ、そうだ。おっちゃんって呼ぶの何とかしろって言われちゃって。どうしよう?それと、この紙の大きさに合う額が欲しいんだけど、二個作ってくれない?お代は父さんが払うからさ。」


「待て待て。話が多い。一個ずつにしてくれ。まず小刀だな。自信作だ。見本にして貰うんだからな。それで、船団長の感想とか早く欲しいから、坊に伝達鳥預ける。私のは紫だ。これで私に文をくれ。」


「分かった。次、おっちゃんの呼び名について。」


「私もいつまでも坊って呼んでるのもな。秦野と竹丸でいいぞ。秦野は本名だ。次は額か。いいぞ。えらく大きいな。この絵は描きかけか…。悪くないが図録みたいな正確な絵だな。これは持って帰るぞ。」


「よろしく。秦野さん。」


「無図痒いが仕方ない。誰もいないときはおっちゃんか秦野でいいぞ。では、またな。」


 この間、五分。何処から来ているのか分からないが流石に伝達鳥を渡したくもなるな、と隼矢は思う。

 秦野は流石綿毛鳥を飼っているだけあって、鳥の世話に慣れているらしく完璧である。深みのある紫の羽が艶々した良い伝達鳥だ。速くて賢そうだ。


(牧場がいいけど、遠いし一羽だけだから、直ぐ呼べる青岳にしよう。小さな鳥小屋作って…)


 隼矢は早速どう飼うか考えながら、倫子と子どもたちのところへ向かった。



 倫子は可愛く眠っている子たちを見ながら、少し離れたところで薬罐に、茶を淹れるのにいい湯になる魔道と冷めないようにする魔道を施していた。伊織命名、『不可思議な薬罐』、完成だ。さっき、隼矢が冷めない魔道椀を二客作っていたから、これで一慶の欲しがっていたものができた。


(この薬罐も壺から出たことにするのかしら。ちょっと大きいわよね。どうするのかしら?)


「倫、秦野さんから伝達鳥を預かった。綺麗な紫だ。」


「本当!見たことないよ。尾も長いね。」


「秦野さんがどこかで巣ごと見つけたんだろう。俺たちは、誰かのを貰うから、よくある色なんだ。俺は偶々濃紺の人がいて、髪色と同じだからって譲ってくれたんだ。」


「た、隼のも珍しいよね。」


 竜人も伝達鳥も青い色味は珍しい。隼矢は夢というかお告げを見たから、始めの竜人たちのうち始祖王だけが欠片となってその色を世に広めたことに由来すると考えている。


「ふふ。伝達鳥は忍者のものだから、ここは竹丸でも正解。じゃちょっと洞窟に行ってくるな。小屋を作ってやらなきゃ。」


「あ、隼。薬罐できた。でもこれ、壺から出そうにないわね。どうするのかしら…」


 ははは、木箱から出たことにでもするだろう、と言って隼矢は小屋を作りに出掛けた。



     ◇◇◇◇◇



 その頃、竜舞城白晰の間では参与、紫矢と一慶、柾耶が卓を囲み、奉行所の件について討議していた。


「では楠瀬殿は伊絃殿が出納方に転属にするのは反対だと?」


「そうだね。出納方の長、出納長は確かに腰を悪くされてね、薬舗に来られたが治られた。この陳情書は偽物じゃないかな。罠だろう。伊絃殿を奉行所から出したいのだろう。狙いは檜原奉行。一連の件として考えてそれが落着するまでは見送ったほうがいい。」


「出納方のうち、若かりし檜原奉行を門前払いにした者から探りましょう。」


「それがね。調べたところ、容姿の問題で毛嫌いされたらしくてね。特に誰かがという訳ではないんだよ。今のところ私はただ伊絃殿を奉行所から出して、檜原奉行を孤立させたいのだと思う。出納方に敵はいないか、いてもひとりだと思う。」


「数字に強い伊絃殿を出納方にするのは順当。私が陳情書の話をしなければ出納長は疑問にも思わず、伊絃殿を受け入れるだろうから、出納方に手先を忍ばせる必要すらないわけか。」


「そうだよ。貴方がたが書類を溜めることはないだろうから、この陳情書は闘技会の後に出したのかな。つまり奉行の敵は諦めていない。だが、筆頭与力の件は、排除にはなんとか成功したが、時期も狂ったし、痛手も与えられなかった。それどころか闘技会で奉行は地位を固めそうだ。筆頭与力の後任やその他の人事に慎重になれば敵を暫く抑えられるかな。敵は今のところ打つ手なしだろうね。」


「こちらには幸甚でしたね。」


「ある大恩人によるものなのだが、彼は彼で慮外の報酬が手に入って十分満足らしい。出納長に陳情書の件を聞き取って、さて、後任人事だねえ。当てはあるのかい?」


「まだ。もし敵の思惑どおり筆頭が糾弾されたなら、捕方系を置くことになったでしょうから、そこは避けようかと。事務方系で親奉行派となればこの辺りになってしまいます。少し弱過ぎるかと。」


「………。」


 どれどれ、と示された辺りを見ようとして紫矢は固まる。


「どうされましたか?」


「この、捕方系のこの人ね、花鳥風月の頭領だよ。こっちはその競争相手の社中の者かな。敵はもしかしてここかもね。忍者の仕事が欲しいとか?忍者の地位を上げろとか?」


「兄様に聞くのですか?」


「いや、聞いても無駄だよ。別にこの人は竹丸の指示で動いてるんじゃない。この人がいまの頭領なんだ。竹丸の信奉者ではあるがね。竹丸に訊いてもらうか、私が直に訊くか。この事態について教えてくれるだろう。いやはや、思っていたより呆気ない幕切れだね。」


 紫矢はもう話は終わったと言わんばかりに書面を自分の向こうへ押しやり、上を向いて溜息を吐く。


(この辺は陛下の担当だったからな。この子たちにとんだ負債を押しつけたかと不安になったが、大丈夫そうだ。柳丸殿はこれまた堂々と潜り込んで出世までしておられるのか…。)


「それにしても、檜原殿はちょっと。この『丸』は花鳥風月の所属を示す名だよ。『太』は競争相手だね。二人ともなかなかの出世だけど、これは奉行がわざとやってらっしゃるのかな。敵のやり口が巧妙で、筆頭与力と奉行の連絡を分断したとはいえ、一慶がなんの触れも出していないのに処分だと勘違いしたんだろう?少し向いているのか心配になるね。」


「んんっ…先王陛下は篤実さを評価されていましたので。しかし楠瀬殿も評価なさっておいでだったのでは?」


「私かい?貴方の学友に相応しい者の親として評価しているけれどそれだけだよ?仕事のほうはある程度以上なら問わなかったからね。」


(将来の側用人っていう餌じゃなくて、おまえと友宜を結んでくれる子とその親っていう、ね。)


「あの、この柳丸殿への聞き取りはどうしたら…?」


「ああ、済まないね。本当は貴方がたにお願いしたいけど、無口な人見知りでね、私か竹丸でやっておくよ。」


「あの、今更なのですが、この話が聞かれていたりしませんか。凄腕忍者が敵なら。」


「本当に今更だね、一慶。竹丸は返して貰ったけどちゃんと護衛はついてるし、壺じゃなくて木箱でランタルニアの珍しい品を買い付けてるからね、この部屋にもそれなりの道具置かせてるよ!」


 紫矢の機嫌を一慶が損なったことを察しておろおろしている柾耶を尻目に、一慶に古い壺の件の嫌みはきっちり返して、紫矢は城を後にした。

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