表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛され竜人若夫婦のちょい足し魔道生活  作者: さまのすけ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/41

30 親子げんか 

 倫子が実家「宵」で母小春と談笑している頃、薬舗「楠瀬」では珍しく紫矢と隼矢が言い争っていた。


「俺の馬に母さんを乗せないでって言ってるのに!」


「分かるけど、艶が勝手に花鳥風月から借りて来るんだよ。」


「父さんだって、もっと止めてよ。俺や他の者が止めにくいのは分かってるだろ。それが嫌なら母さんに馬を買って。『夕顔』に乗せておけばいいんだ。」


「金子がすっからかんになりそうだ。夕顔は前の頭領の馬じゃないか。いい歳だろう?」


「だからだよ。速さも出ないし、疲れたらフンッ!って鼻を鳴らして梃子でも動かなくて母さんに潰されないよ。母さんも馬に乗りたいだろうなんて温情掛けるんなら、自分で買うなりして責任取って!」


 夕顔は花鳥風月の前の頭領、即ち艶の父であり、隼矢の祖父の馬である。隼矢が花鳥風月の子馬の世話を始める前からいて、まあまあ高齢だ。息子たちが自分の可愛いくて幼い孫を理不尽に滅多打ちにしたことに憤怒し、また恥じた祖父は、頭領を降り、故郷の西里に引き籠ってしまった。夕顔はいま、暇である。

 西里は、大湊からは瑛都より近い、海辺の小さな村で、竜舞島では珍しく砂浜が広がっている。貝類が名物で、塗薬の入れ物はここの貝殻を使ったものである。


「こわいですねー青矢(じょうや)。」


 髭もなく、つるりと色白、端正で歳若く見える紫矢が、孫馬鹿な祖父そのものとして振る舞うのは、いまだ馴染めない。よくやるよ、と隼矢は思う。


「まだ決まってないよ。この子だけ色味で決めるのはどうかと思うから。」


「確かに青も紫も駄目だから、青紫の女の子は色の名は難しい。だから三人ともを色の名には出来ないけど、ひとりだけ色の名じゃないんではなくて、ひとりだけ色の名だっていうんだから良いじゃないか。」


「…倫と相談しますので。」


(おまえだって青矢ってしか呼んでないじゃないか。)


 紫矢は自分の名が嫌ではないが、色味でつけられたことは安直だと(わだかま)りがないではない。だから、隼矢には「隼」即ち、はやぶさのように速く、狙った獲物を獰猛、確実にといった力強い意味を込めて名づけた。それを知る隼矢は、将来、青矢と名づけられて紫矢のように思わないか心配なのであろう。


(青矢って口にしてしまったのが運の尽きだったね、隼矢。私もおまえに青矢って思いつけば良かったのに。私はおまえの金色の鋭い眼から名づけてしまったけれど。)


 紫矢はまた、隼矢が紫矢に三人を等しく可愛がって欲しいと思って、青矢の名づけを躊躇っていることも解っている。紫矢もまた、三つ子は等しく可愛いいし、そうしようとも思うが、多少の差がついても許してほしいと思う。


(勝手だけれどね。親はおまえたちだもの。私は支援するだけ。鶯宿殿の『預かりもの』って考えなら、おまえも私も等しく子を養うべきになるのかな。私も王の子は養育したかもしれないけれど、まず自分の子を必死で取り戻そうとするね。色味が同じなら自分の卵でも別の卵でも同じ?冗談じゃない。もっと早くに左門殿に助力を乞うし、形振り構わず城の門を叩いてうちの子を返せって言うね。私はあの考え方に馴染まないな。優れた人だけれど、そこを突き詰めれば友誼は結べそうにないんだよな。)



「父さん、おっちゃんからこれ作ったらどこかで売ってくれないかって頼まれてるんだけど。」


 隼矢はおずおずと秦野の祝いの品の箸を渡す。紫矢が二人の師匠のことをよく思っていないのは承知している。ただ、自分の孫のために竹丸を特忍に鍛えた左門と違って、一目見て名家の子息と察し引き返そうとしたが、気に入った竹丸が(すっぽん)のように食らいついて師匠になって貰った秦野とは、大分、当たりが違う。

 どれどれ、と紫矢が手にすると、表から賑やかな声がする。倫子たちが帰って来たようだ。


「うむ。これは素晴らしい。これは箸じゃなくて、小刀の柄に彫れないか?ランタルニアに送ったら評判になるだろう。彼方(あちら)はこういう細工が好みだ。箸は使わないから、匙でもいいが、小剣の柄がこれなら凄く欲しがられるだろう。飾り刀として名家の子の生誕祝いにしたりする風習がある。小剣は次の荷でランタルニアから持ってきて貰うとして、取り敢えず小刀に彫ってみて貰ってくれ。ハンス殿が帰るのに間に合うように。見本にしよう。」


 秦野なら商売柄、小刀は唸るほどあるだろう。ありがとうございます、と隼矢は呟く。


「あら、素敵な箸ね。お祝いの?」


「秦野殿からだそうだ。」


「ああ、水鳥の。あれは良かったわ~。久しぶりに見たわ。少ししかなかったから、半纏二枚作ったらどうかなって思ってたけど、本当に役に立ったわ。卵籠の御空色の座布団、あのなかに詰めたのよ。暖かくてふわふわ、至高の座布団だったでしょ。お礼言っといてね。」


 剣は愛するが、刺客としての生業は好まない秦野は、人だけでなく生き物全般にそれを向けるのを嫌う。しかし、ふかふかの布団もこよなく愛して止まない秦野は、「綿毛鳥」という鳥をランタルニアから送って貰って飼っている。綿毛鳥は、ふかふかで暖かい綿毛のような羽を少量纏めて口から出す、ランタルニアの隣国にしかいない水鳥だ。羽繕いの余りものらしく、極少量しか採れない。布団ひとつに掛かる刻は如何程であろうか。竜舞国では秦野だけが飼っている。それ相応に数は居るらしい。そういうわけで、秦野の家は山間(やまあい)のどこかの水辺だろうが徹底して隠されており、知っているのは左門ぐらいだろう。


「水鳥の羽、持って来てくれた左門さんは値打ちが分からないみたいで、頻りと『小さくて軽いんですけど。贈物の選び方が駄目な奴で』って言ってたけど、その箸も素敵よね。」


 倫子は艶が「羽、また欲しいわ~」というのをぼんやり聞きながら、左門より秦野のほうが隼矢には気が合ったんだろうなと思っていた。


「それはそうと、隼矢、うーん、これは竹丸と呼ぶべきか、いつまで『おっちゃん』呼びなんだい?そろそろ色々示しがつかないだろう。秦野殿とついでに相談しなさい。」


 本当にそうだ、と倫子は思う。闘技会の件でも、隼矢が伊織に秦野も師匠であることを隠したので、倫子はとても話し辛かった。凛々しい美青年の隼矢が「おっちゃん」と呼ぶのも冴えないし、なんとかして欲しい。



 昼食に丁度良い頃合いなので、倫子は貰ってきた煮玉子と煮鶏でまた丼を作って振る舞おうと思う。楠瀬家は全員茹で玉子好き。皆喜んでくれるだろう。

 ご飯を炊く程度なので、隼矢の愚痴を思い出し、艶の手伝いは断った。

 曰く、倫子が料理修行に来ると、その日の夕食は大変貧弱になるそうだ。なんでも、艶が「もう十分料理したから、作った気になって。夕食はいいでしょ。」と言うそうだ。育ち盛りの隼矢には辛かったらしく、「倫~、他の先生にしないか?」と言ったこともある。倫子が他の人に習おうとすると、可愛い倫子と一緒にいたい艶は、「ちゃんと作る、大丈夫。」と言って止めるのだ。紫矢は育ち盛りでないから手伝って貰っても良かったかしら、と思う倫子である。



 案の定、大変喜んでくれた紫矢と艶は、昼食後、馬を引いて帰っていく。楠瀬本邸もここから近い。本当は隣にしたかったそうだが、紫矢も艶も渡り廊下を作ってしまう気がしたので諦めたそうだ。

 肌艶の良くなる茶を土産に渡し、ふたりで頭を下げて見送った。


 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ