表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛され竜人若夫婦のちょい足し魔道生活  作者: さまのすけ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/42

26 魔道の剣作る?

 暫く待っても全く大也が人間に戻らなかったので、伊織と隼矢は、倫子に頼んで元気のでる魔道薬草茶を淹れて貰い、無理に戻した。


「武術闘技会ですね?檜原殿を指南するよう、陛下から直々に頼まれています。陛下が闘技会を全員参加とされたのは、奉行所の綱紀が緩み、それが貴殿が武術の才の無いのを下に見ていることに端を発しているのを憂慮されているからです。陛下は貴殿が為された奉行としての業績を高く評価され、このような状況にあることを惜しまれている。そこで、貴殿が闘技会でそれ相応の結果を残し、この状況を覆せるよう、私に指南をお命じになりました。まだ闘技会までは日数がある。まずは構えから始め、以降は様子をみて改めて策を練るように、とのことです。」


 大也は首をこくこく縦に振る。陛下は評価しているとの言葉に感極まって、いつもの饒舌な心も真っ白である。畳の上に正座して、次を待つ。


「楽にどうぞ。伊織、手本を。」


 真剣な顔で伊織が立ち上がり、木剣を持って土間に立つ。


「やあっ!」


 振りかぶって、裂帛の気合いを放ち、剣を振り下ろす。


(ふぉー、見事だ!わが息子。格好いい!上手くなったなぁ。私より良くなった。)


「伊織、忘れていなかったな。良くやった。たたらを踏んだのは残念だったぞ。」


(え?たたら?いつ?)


「檜原殿、ご子息の成長に目を細めていただいてなにより。貴殿も直ぐにあれぐらいできるようになるでしょう。先ずはこちらの茶を一杯。『変形薬』と同じく楠瀬が作りました。他言無用でお願いします。身体が強くなり、重い剣も振りやすくなります。これで鍛練を楽にこなせますよ。」


(え?え?夢?楽に剣が振れる?ちょっとやってみようかな)


 気合い十分で奉行所を駆けだしたものの、ろくに薬舗まで辿り着けなかった大也はとうにやる気を失っていた。陛下に評価されているのは嬉しいが、でもなぁという気分だったところに劇薬である。



 隼矢に『身体強化』され、上手く稽古をつけて貰った大也は、希望に満ち溢れた目で帰っていった。帰りに塗薬をたっぷり渡され、首を傾げながら。



「どうです、父様、なんとかなりそうでしょうか?」


「うーん。おまえぐらいまでは出来るようになるだろうけど、それで闘技会当日になるかも…。まあ、もう少し欲しいところなんだが…。明日は身体中が痛いだろうから、見に行ってやってくれるか。首を傾げていたから、どうして渡されたか分かっていないようだ。一日でも詰めて来てもらわないと。」


 もともと一慶は奉行を闘技会に参加させるふりをして、誰かを大也の姿に変えて参加させるつもりだった。大也が愛用していて、王妃捕縛にも役立った『変形薬』は、かつてハンスが、倫子が上手く作れば特定の人そっくりに姿を変えることもできるはずだと言っていたことを憶えていたからである。

 しかし、大也の所作はあまりにも独特で鈍く、試合の間だけまさに人が変わったようになり、奉行所の猛者たちに流石に不審に思われるに違いないと隼矢が異を唱えた。そこで隼矢が大也をある程度鍛練することになったのだ。

 やる気が底辺の者に教えるのは骨が折れると、隼矢は伊織で身をもって知っていたので先ずは大也をその気にさせたのだが、それでも相当難渋しそうである。


「ねぇ、隼。剣に魔道施す?」


 悩む隼矢と伊織を見て、茶を二人に淹れにきた倫子が言う。


「どんな風に?剣は相手に合わせて動かないといけないから、決まったとおり、上、下、右、右とか動くようにするとかじゃ駄目だぞ。」


「駄目かしら。そりゃ、強い人相手なら避けられて、誰もいないところで剣が勝手に動いているように見えてしまうかもしれないけれど…。」


「なるほど、初戦とかならそのまま押してしまえるか?」


「父様はどれぐらい勝てばいいんでしょう?何本か作って各々違う動きにするとか。」


「半分かなぁ。大湊の奉行がそれぐらい行くはずだ。一慶の初めの思いつきでは優勝だったらしいぞ。普段とかけ離れてて、奉行所の者に一目おいて貰うどころか不審にしか思われないから駄目だがな。もう少し様子を見て、どうしてもなら所作を真似るのが上手い者を呼ぶか…。」


 取り敢えず、試しに剣を作ってみることになった。




 身体強化の茶の効きがまだ残っていた大也は、弾む足取りで帰邸した。


(本当に楽しかった。明日も行こう。昔、伊織が言ってたのは本当だったなー。『竹兄様は本当に強いから意地悪言わない。上手に教えてくれる。』だっけ。今日の伊織を見たら、あの人も黙るだろうな。)


 大也がそう思ってほっこりしていると、あの人、つまり大也の母に会ってしまった。大也の父母は別邸に住んでいる。先日、大也が怒って追い出し、出入りを禁じたからだ。誰かが勝手に入れたのだ。


(野江ならしょうがない。断り辛いだろうからな。でもそれ以外なら…。)


 温厚篤実な大也だが怒るときは怒る。愛息子と同じ若緑色の大きな目がつり上がる。『それが貴殿が武術の才の無いのを下に見ていることに端を発している』という王の言葉が甦る。


(奉行所は武術を仕事として尊ぶから許しているだけだ。だが我が家は違う。あの人を入れた者は容赦しない。)


「あら、帰ってきたのね。困ってると思って教えに来たのよ。」


「ご丁寧にどうも。困ってませんね。陛下が特忍の指南役をつけてくれましたから。いやあ、彼に教えられた伊織も見違えるようでしたよ。お引取ください。」


「陛下が?お前を辞めさせるためにしたのではなくて?」


「違いますよ。ですからわざわざお骨折りくださったのです。お引取ください。私は私や我が子を不要に侮辱する貴方がたを許さない。」


 大也の母、(よう)は足を踏み鳴らして帰っていった。


「野江。野江は居るか?」




 大也は生まれたときからふくふくほっぺだったという。今よりましだったと葉はいうが絵も証もないのでどうだろうか、と大也は思う。幼い頃は可愛い、可愛いと優しくしてくれる者が大半だったが、十を過ぎ、身体も太ってくると次第に蔑まれるようになった。

 葉はそんな大也を鍛えればどうにかなると思ったらしい。葉は先々王陛下柾太郎の妃の護衛であったので、熱心に大也を鍛えた。

 しかし、竜人は卵生で形質も才も受け継ぐものではないから、大也の武術は一向に上達しなかった。身体がどうも思うように動かないのだ。時折大也も自分の身体は棒でできているのではないかと思ったものだ。

 そして呆れた葉が大也の腕前を評した言葉が「屁一級」なのである。プウッという間に勝負が決するという意味らしい。既にその頃、武術を尊ぶ奉行所に勤めていたし、長年熱心に指導をしてくれたことは確かであったので、下品なこと、と聞き捨てた。

 ところが、葉は息子たちが生まれると、形質も才も受け継がぬというなら今度こそ武術ができるはずと、嫌がる息子たちに無理に稽古をさせた挙げ句、伊織を「スカ」、伊絃を「凡三級」と貶した。伊織は剣をふらふら持つのがやっと、伊絃は普通の上という意味らしい。

 さらに、伊織が側用人になると勝手に思い込んでいた大也の父が(なじ)り始めたので、大也は頭に来て二人を追い出したのである。



 結局、邸に入れた者は分からず悶々とする大也だったが、明日も上手い稽古をつけてもらえると気を取り直し、その日は眠りについたのであった。 








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ