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愛され竜人若夫婦のちょい足し魔道生活  作者: さまのすけ


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24 優しい新居

 倫子はまな板の大きさの厚紙をうっとりと見ている。そこには今にも動き出しそうに鮮やかに、生まれたばかりの三人の子が卵籠のなかに寝ている様子が描かれている。あの日見たそのままだ。切り取って持ってきたようだ。

 紺桔梗の髪に淡く薄桃と水色に光る乳白の鱗の男の子、銀髪で淡く青紫に光る乳白の鱗の女の子、銀髪で淡く翠に光る乳白の鱗の男の子。



 これは伊織からの子の生誕祝い。帝国でいう「フォト」なるもので、伊織は「写絵」と名づけた。

 生まれそうだとの知らせに喜んで駆けつけてくれた伊織は、倫子に大きめのその紙を渡し、「子が生まれたらその様子を写しとるように念じて紙に魔力を入れて」と言った。何枚かあるから挑戦しようといって渡されたそれは、魔力を知らない者に訝しまれないよう、ご丁寧に裏に伊織が卵籠の絵を描いたものである。描きかけの絵に見えるという寸法だ。

 直ぐ抱きたかった紫矢も隼矢も手をわきわきさせながら、訝しまれない程度に少し待ってくれた。

 上手くできたそれは額に入れて飾るものらしい。今度良いものを持ってきてくれるそうだ。

 三人にまだ名はない。命名式で名づけるそうだ。楠瀬家の子は「矢」を入れることになっている。



「また見てるのか、それ。伊織も一慶もいいものをくれたなぁ。伊織とハンス殿が待ち望んでる『複成』ができるようになれば、それも増やせるそうじゃないか。楽しみだな。」


「うん。紙もまた一杯作ったから、桃食べてるときとかも写絵にできるよ。」


「おー、じゃ、次な。いま食べさせたとこだからな。寝てる。」


 子の世話はほとんど隼矢がしている。子には神殿で貰える、神水に漬けた桃を磨り潰したりして適宜与える。三人いるので、倫子も手伝わせてくれるのだが、隼矢はその度にすこーし寂しそうな顔をするのだ。それこそ物心つく頃から見慣れたその表情を感じると、ふふふ、と微笑して倫子は引いてしまう。

 幼い隼矢は「見せてやる」と言われ、倫子の兄、玲が妹に桃を食べさせているのをずっと羨ましそうに見ていたのだ。玲がいなくなるとその隙に直ぐ取って代わる。隼矢は我が子に今度こそ思う存分世話を焼きたいのである。


「じゃあ、これを薬舗に持っていくの、お願いできる?」


「お安い御用。」


 倫子は洞窟の家に住んで以来、どうしても薬舗の部屋でないと駄目なときを除き、ほとんど洞窟の部屋で薬を作っている。隼矢作のいつでも欲しいだけ水が流れる水路が至便なのだ。

 洞窟の外を流れる小滝の裏に隠されるようにして置かれた水車で水の向きを変え、室内に水を引き込むそれは、手元の棒を上下させることで水車の位置を変え、引き込む水量を調節できる。

 あまりの便利さに虜になった倫子は、水車や水路全体に不壊の魔道を決死で施した。慎重に、丁寧に、少しずつ……。この世にひとつしかないので。ゆっくりやるなら、魔力十分になった時、光らせることもできるかもしれませんよ、というハンスの助言もあって、無事施すことができた。

 伊織が羨ましがったので、隼矢は、おまえの結婚祝いに贈ってもいいと言っている。



「おぅ、嬢ちゃん、坊、生誕祝い持ってきたぞ。こっちがわしの分。これが秦野の分じゃ。あいつめ、金子を贈ろうとしよったから、怒鳴りつけてやったわい。『くれって言うほうがよっぽど喜ぶわ』って言ってやった。坊んとこなんて金子唸るほどあるじゃろに。あいつのせいで随分遅くなったのぅ。済まんのう。」


 ふたりが洞窟から薬舗に戻ると、暫くして、左門がそう言って生誕祝いを持ってきてくれた。

 秦野とは忍者竹丸のもう一人の師匠である。秦野の贈り物は見事に彫られた家族一揃い分の箸だ。勿論、手作りで子の分は小さくしてある。子の分は匙もある。


「あいつは丁度、ほら、南のよ、監視に行っておってな。なんか妙だとか言っておったぞ。仕事の割に金払いが良過ぎるんだとよ。わしも鶯宿親子に確かめたんじゃが、高給取りの秦野が斡旋されるような仕事じゃないそうだ。坊の弟分によ、奉行の息子がおるじゃろ。ちぃと確かめるように言ってくれんかの。」


 倫子がその箸を手にとって、見事な出来映えに感心していると、左門が隼矢に頼んでいた。憎き孫の敵、万が一のことがあってはと、とても気になるらしい。

 隼矢が一も二もなく了承すると、頼んだぞ、と言って帰っていった。


「明日、伊織が来るけど、気になるから、ひとっ走り奉行所まで行ってくるな。」


 そう言って隼矢は矢のように駆けていった。



 あれからハンスに竜の力のことは伏せて、痣などを見せたところ、やはりふたりとも魔力の量が増えていた。隼矢も魔道を使えるが、倫子より使える種類が少ない。彼は身体の動作を速くしたりするのが得意だ。いまも、それを使って駆けていった。

 身体の動作が卓越しているのを見込まれて忍者になっただけあって、彼は直ぐに魔力の制御を身につけた。ときどき倫子に教えている。

 痣は、珍しいものではあるが、竜舞国以外の国々では散見されるものだと聞いて紫矢たちは驚いた。伊織の言うとおり、古代の数字が並んだものだそうだ。詳しいことは分からない、とハンスは言った。

 あまりハンスを関わらせ過ぎたくなかった紫矢たちは、それだけ聞くと礼を述べて戻ったのである。



 隼矢が手を振りながら戻ってくる。有能なので帰宅が早い、伊織の父檜原大也であるが、まだ日も高く、無事に会えて伝えることができたらしい。

 さあ、戻りましょう、三つ子ちゃんに桃をあげなきゃね、写絵も撮るわ、と倫子は言ってふたりは洞窟へ戻った。



     ◇◇◇◇◇



「父上、ここです、見事に隠蔽された形跡があります。玄人の仕業です。」


 町奉行、檜原大也の愛息子その壱、伊絃が大也の机の上の書類のひとつを指差す。

 どれどれ、と指差す部分を触る。大也の丸っこくて大きい指は良く動くのだが、感度は高くないらしい。何も分からない。うーん、と目を凝らす。なんか薄汚れている。


「数字を消して書き直し、また消して元に戻したようです。」


「あー、ここにある書類ってことはぁ…」


「ここからほとんど動かした形跡もありません。忍びこみでもされない限り、誰であるかは絞られるでしょう。」


「はいはい、だね。剣客大好き野郎だしね、はい…。ありがとうさん」


(あー、なんて馬鹿なことしてくれてんだよ、クソ!報告してお叱り受ける案件ですな…。)


 はぁぁ、と嘆息する。

 先程楠瀬の美青年が窓からやってきたのだ。とんでもないことに、王妃の監視人に不正に多額の報酬が支払われている疑いがあるという。

 王妃は南の寒村に送られたが、手駒を失いまた実家の援助も見込めず、本人が再び罪を犯す意思も薄いとのことで監視は通常どおり瑛都の奉行所が管轄することになった。

 奉行所としては前代未聞の罪人の監視に抜かりがあってはならぬと気合いに気合いを入れ、計算違いなど有りようもない数字の神様大也直々に数字という数字を精査し、書類を調え監視の運びとなったのである。無論、監視人に支払われる報酬額も妥当な額であることを確認済みだ。

 どうしてそんなことが起きたか全く心当たりの無かった大也は、将来自分より優秀になること間違いなしの信頼する愛息子その壱を呼んで事態の解明に協力を求めたのである。

 伊絃は来るなりそれらしき書類を集め、紙面をすりすり触り、先程の一枚を見出だした。「父上が計算間違いをするはずないのですから、隠蔽あるのみです」とのことである。


(管理不行届きだろうなぁ…。)


 窓からやって来た愛息子その弐の恩人の凍るような眼を思い出し、震え上がる大也であった。






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