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愛され竜人若夫婦のちょい足し魔道生活  作者: さまのすけ


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21/42

20 婚姻式のあとで

 神殿で婚姻式を終えたふたりは、新居である薬舗に戻り、再び言祝ぎと贈物を貰って、返礼に婚姻披露の宴を開いて来訪者をもてなす筈であった。しかし、まさかに婚姻式で卵を授かってしまったので、楠瀬当主紫矢の取り成しにより、来訪者には丁重に礼をしたうえ、後日、返礼の品を贈ることにして帰って貰った。

 そしていま、薬舗の主人の部屋には倫子と隼矢、紫矢、一慶、伊織の五人が集っている。艶は紫矢の思い悩む様子を見て察し、「倫ちゃんのお家の人を送り届けてくるわね」と出て行った。

 紫矢は、三人から、神水を飲んだら光とともに倫子と隼矢の額に竜の角が現れたこと、ほぼ同時に泉の後ろの右端の墳墓から無数の光の珠が降り注ぎ、倫子とそのほぼ大半が隼矢に溶け込んだこと、大きな鱗が七色のものであったこと、卵が目の前に突然現れたこと、が伝えられると、天を仰いで嘆息した。


「はぁ、まあ初めての儀式だからね、知らなくて仕方ないとはいえ、隼矢たちの言うようなことは普通の婚姻式とは全く違う。まず竜の角なんて出てこないからね。右端の墳墓か…、それは始祖王のものと伝えられているもので、伝承によれば、そこは空だとされている。そこから無数の光の珠、ね。隼矢、身体に変わりはないかい?」


「さぁ…とても身体が軽く、力が漲るような気がしましたが。」


「おまえ、首の鱗が灰青だったのに青みがかって、丁度羽織のように御空色になっているね。髪もだ。濃紺ではあるが、私よりもかなり青みがかっている。始祖王はかつて青い竜だったと伝えられているが、おまえは始祖王の力か何かを受け継いだのではないかい?」


 倫子はふと思いついて、余っている繋路石をひとつ、隼矢に渡した。繋路石はひとつであれば発動しない。

 隼矢が倫子がしているように手をかざすと、石が割れた。


「………。隼矢もなにがしかの魔道が使えるということだろうか、伊織。」


「おそらくは。ハンス殿に聞いてみますか?」


「そうだねぇ。ただ、ねぇ…。これはどう見てもランタルニアのマギーじゃなくて竜の力だろう?おまえは元々誰よりも青みがかっていて、灰青の鱗なんて珍しかった。加えてうちは王家の近しい傍流だ。竜は竜でも青き竜、始祖王の力か何かだと思うんだよ。果たしてハンス殿に竜舞国のこんな根源の話に関わらせていいものかどうか。そうだ、おまえ、痣はどうなったかな?左脇の痣だよ。あれ、鶯宿側用人と同じだったよ。」


 隼矢は卵を心配そうに見てから、すっと立って廊下へ出て、伊織を呼んだ。

 伊織は足早に戻ってきて、興奮冷めやらぬ調子で紫矢に言う。


「紫矢さま、ご懸念はもっともですが、ハンス殿を呼ぶべきかと。あれはランタルニアの興る前にあった亡国の数字のようです。」


「あぁ、伊織がいまハンス殿と訳している書物の国か。…始祖王のことを伏せてハンス殿の意見を聞けるかな。倫子さんの魔力がどうなったかも心配だし、明日相談してみるか。」


 いつの間にか部屋に戻ってきた隼矢が卵籠を抱えているのを見て、紫矢は晴れやかに笑う。


「まぁね、なにはともあれ、今日はめでたい日だ。卵まで授かって、これ程なくめでたいのに、これ以上の無粋はしたくないね。お暇しようか。隼矢のことだ、卵が風邪をひくほど筆塗りをするのに忙しいだろうからね。」


 紫矢が言い終わるや否や、隼矢は白磁の壺を取り出し、桃の枝の筆を浸して、鱗水を卵に塗り始めた。紫矢は、ははは、と笑いながら、愛おしそうに卵籠を抱いて筆塗りする息子をこれまた愛おしそうに見る。

 その様子を一慶、伊織が羨ましそうに見ている。


「いつ生まれるかな。十日とか?……まぁ、隼矢が婚姻式の次の日には卵が下されそうだから、事件が落着するまで結婚しないって言うのを笑って聞いていたからねぇ。これも外れるだろうか。」


 隼矢が頑なに婚姻式を事件が落着するまでしようとしなかった一番大きな理由が明かされる。絶対自信がある、無二の卵が失われたら冗談じゃない、と拒んでいたそうだ。

 紫矢、一慶、伊織がそれからもいくつか言祝ぎながら、名残惜しそうに薬舗を去った。卵籠を抱いた隼矢と倫子が頭を下げて見送る。



「じゃあ、倫、俺の作った新居に行こうか。もう日も暮れて、言祝ぎに来てくれる人もないだろう。」


 ふたりは繋路石で洞窟と繋ぎ、そのいちばん奥まった部屋に進む。卵籠をそのために設えた布団の上に置くと、隼矢はふうっ、と大きな溜息を吐いて籠の横に座りこんだ。倫子を抱き寄せる。


「ここなら安心だ。ここにも侵害排除の石を置いてくれたし。はぁー、嬉しいけどびっくりした。俺、明日起きたら卵があると思ってたから。」


「た、隼はずっとそう言ってたんだね。いつ生まれるかな?」


「ふふ、隼って呼んでね。はぁ……俺の家、俺の倫って感じがする。俺は明日って思う。」


「そっか。隼って呼ぶのはそういう意味があるのか。」


「倫は卵、嬉しい?」


「うーん、少し寂しい。ふたりで出掛けたりできなくなったもん。」


「ははは。確かに。卵が心配過ぎるもんな。もう十分ふたりでいたようなものってことかな。」


「天が卵下すのって、どうやって決まるんだろ。あなたたちは隼が五歳のときから一緒ですね、とか?」


「おうよ。倫は生まれた次の日からだな。」


 隼って言えたな、と倫子の頭を撫でて呟く。隼矢はまた筆を取り出して塗りだす。


「無くならない?お義父さまの言ってたとおりになりそう。」


「ん?鱗水なら無くならないぞ。全員生まれてもずっとあるぞ。白磁のこの壺はそういうもんだ。割れねぇし、零れねぇし、減らねぇ。俺は少なくともひとりは明日生まれるかもって思ってるから、しっかり鱗水を塗って、俺たちの色の濃い子が生まれるようにする。」


「じゃ、お願いする。ご飯作るね。」


「おぅ、頼んだ。」



 隼矢は玉子焼も好きだが、茹で玉子はもっと好きだ。今日は披露宴で夕食はいらないはずだったので、特に食材が無い。倫子はご飯を炊いて、夜食にするはずだった煮玉子と煮鶏を盛りつけて丼にした。


「できたよ~」


「ん?倫も色が変わったな。眼がほんの少し青くなった。青紫?まぁ、どっちにしても藤の花を水に溶かしたような感じは変わらねぇな。藤の花は色々あるからな。鱗も……ちょっと透明になったか?乳白?ほんの少し青く光るからそう見えるのかな。」


「たけ、隼もまた青くなってるね。」


「ふふ、どれぐらい青くなるかな?嫌か?」


「嫌とか考えたことないよ。それにしても本当にこんな青い人珍しいね。」


「はは、青い人って言われ方なんか青ざめてる人みたい。やれやれ、まぁ吃驚し過ぎたからかもな。」


 他愛ない話をしながら、夕食を終え、卵たちに鱗水を塗る。時折、倫子と交代して塗る。何度かそれが繰り返され、かなり夜も更けた頃、ふたりは急に眠くなった。


(あれ、おかしい…。隼も?…もう無理……)





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