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愛され竜人若夫婦のちょい足し魔道生活  作者: さまのすけ


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16 名は体を表す

「今日も銀さん、名調子ぃ~と。」


「お奉行、好きですねぇ、その小説。町奉行が町奉行の小説を読んで、心穏やかでいられるもんなんですねぇ。」


「だって、私と銀さん全然似てないからね。同じ仕事してるってすら思ってない。」


 そんなもんですかね、と呟いて筆頭与力、旗野は手を振って見送ってくれる。瑛都の町奉行、檜原大也(だいや)は今日も恙無く仕事を終えて、愛しの我が家へ向かう。

 町奉行はここ瑛都と大湊にひとりずついて、司法と行政を担う。似た職である他の町や村の町長、村長と違い、町奉行だけは捕物や警邏を行う実力部隊を有しており、他の町や村に派遣している。そのため、実力部隊の長として、武術の達人と思われがちで、そういった小説の主人公になりやすい。

 しかし大也は武術はさっぱりである。念のための護身術がなんとか……ならない。大也は細身の多い竜人には珍しく、ふくふくほっぺで恰幅のいい身体、ちょっと出気味の腹部、そしておまけに色白の、「鏡餅ちゃん」なのである。艶々の赤髪とほんのり紅の鱗が更に身体を膨らんで見せ、妻からは名にちなんで「大福ちゃん」と呼ばれている。妻野江は大也のふくふく、のんびりしたところが好きなので、仲良きことは美しき哉、である。

 そんな大也の得意は算術である。奉行所の肝、「人、物、金」の「物、金」をがっちり押さえる大也は紛うことなき町奉行なのである。武術はできなくても問題無い、奉行所を回すのが大也の仕事。捕物は捕方の仕事、大也の仕事ではない。



 さて家に帰る前に、城の直ぐ近くにある薬舗「楠瀬」に寄る。ここの薬草茶はいい匂いがして肌艶が良くなるとのことで妻のお気に入りである。そしてなによりも、ふたりの愛息子、伊織の心の傷でもあった首の黒点(キズ)を消してくれた塗薬が素晴らしい。伊織は城勤めをしていないので、髪は後ろに結わえたままだが、顔はずっと晴れやかになった。楠瀬様々である。



 店の前まで来ると、くいと羽織の裾を引かれる。


(はぁ…、またか。どこかに私の人相書でも貼ってるのか……。)


 この数年、「町奉行銀さん」という小説が流行ってからは、少し町を歩くと、こうして度々裾を引かれるのだ。

 別に、人相書なんて紙が勿体ないほど自分の風体が目立っていることは棚に上げておく大也である。


「助けてください、お奉行さま!」


(ほら、おいでなすった。今日はなんだ?うわ~、凄く深刻そう。終わった、終わったわ、俺。はぁ~)


 大也は話を聞く前から天を仰いで嘆息しそうである。

 度々持ち掛けられる相談事は、今までなんとか運良く解決してきた。犬を追い払って欲しいだの、どこかの子が迷子だのは、大きな図体を引き摺ってなんとかしたし、恐い兄ちゃん相手のときは、幸いにも、奉行檜原の顔を見てすぐ逃げ去ってくれた。


(あー、もう限界。もー駄目だ。こんな悲痛な表情、駄目だ。もー皆、小説のお奉行さんはいませんよー。私、檜原大也は事務方一本!武術は糞!母認定屁一級の腕前でーす。なんで皆こんなに奉行に気安く声掛けんのかね。気軽にお出掛けし過ぎですか、私が。そうですかー。私はちゃんと仕事終わったんですよ。偉いんですよぉ。非番です。町の異状、見回ってまっせーん!!)


 大概情けないことを心のなかで並べ立てる。大也の心はいつも饒舌である。



 大也が取り敢えず奉行所に案内しようとしたとき、薬舗から、幾分のっそりしていたが、すすすーっと赤い人影がやって来た。人影は、つやつや赤髪の溢れそうな若緑の眼をした女の子、もとい、大也の愛息子その弐、伊織である。

 先程の「助けて」の女の子はふと見れば、濃紺の髪に大きな切れ長の金眼、清涼な灰青の鱗をした、銀さんも霞む美青年に声を掛けられ、深刻さはどこへやら、頬を赤らめ返事している。


(おぅ、世の無情よ。私には素敵な妻がいるから許してやるが!)


「お困りのようですねぇ、お奉行さま。ちょっといいものあるんですけど、試してみませんかぁ?」


 愛息子その弐が胡散臭く話掛けてくる。その弐は大也に試して欲しいものがあるが、正面切ってお願いしたくないのだろう。ちょっと乗ってみることにする。大也は芝居好きだ。


「よいだろう。ここではなんだから、そこで話を聞こうではないか、ははははは…」



 伊織の後をついていく。薬舗の裏手へ回るようである。


「お客さん、今後あっしらに用がありやす際は、こっちの裏手へ回ってくだせぇ。」


(次もあんの?)


 案内されたのは、薬作りの部屋の、会談できるよう椅子と机を設えた一角だった。


(あ、納得。特別に調製したり、商談するのね。)


 ふと横を見て大也はぎょっとする。先程外にいたはずの美青年がいる。


(まあ、息子と親友だしね…。それにしても、ランタルニアの何かじゃないのか。薬ってのはどういうこと?)


「こちらでございやす。ささ、どうぞ。お掛けになってこちらの鏡をご覧くださいやせ。」


 芝居は続いているらしい。渡されたモノクルを受け取る。


(ん? これ、キミが憧れのシュワルツァー先生まねして着けてたあれでしょ。美青年捻挫させたやつ。)


「………」


 大也は言われたとおり掛けてみて絶句する。鏡が嘘でなければ、大也が着ていた羽織袴はそのままに、すらりとした何処にでも居そうな中年竜人が映っている。ふくふくのほっぺもぼよん腹もない。

 実のところちょっと顔にめり込んでいる小さなモノクルを外す。いつもの大也である。


「いかがでやんす。お気に召しましたか?これで、げへへ、お奉行さまと呼び止められることなく城下を歩き放題でやんすよ。なに、お代はこれっぽっちでさあ。」


 取るのかよ、と思ったがそんなことはどうでもいい。夢のような道具だ。


「す、素晴らしい品だな。出回ったら困るが、奉行の私に声を掛けるとはおまえも目が高い。褒めて遣わす。お代はこれで、邪魔したな!」


(成る程、これは正面切って言えないわ。俺、太ましくて目立ってるからこれで隠せってな。いやーうちの息子はやっぱり優しい!)


 大也はモノクルを掛け、ほくほくの体で急いで家に帰った。



 薬舗の薬作りの部屋では、竹丸と伊織が話している。


「お代まで取るのか。いいのか?おまえのお父上はおまえより所作が鈍そうだぞ?怪我しないか?」


「それはここのを売るんすよ。」


「悪徳。」


「多分全然気にしませんって。絶対悪に使わない人を、姿を変える旨みの虜にして、モノクルが壊れて、次に進む。最高の筋書きでしょ。貴方で薬の試験したいんですなんて流石にいきなり言ってもねえ。」


「いつ頃、壊れる?」


「早ければ、今日。直ぐ。竹兄様だって鈍って…。家に辿り着けないんじゃないすか。あれ本当に見にくいですもん。」


「やっぱり悪徳。」


 因みに、急遽作ることになった、魔道モノクルは、挑戦三個目の品である。倫子が大也を細く見せる魔道を施そうとする度、ぱりん、ぱりん、と壊れ、倫子が肩を落とした。それを見た竹丸が殺気を漏らしていたのは言うまでもない。ただ、父以上に「剣の腕前がアレ」な伊織には柾耶と違って殺気も何も感じられなかったのであるが…。



     ◇◇◇◇◇



 伊織の思惑どおり、家に帰り着けなかったようだ。


 どごーん


「伊織ぃ~、モノクル壊れたよぉ。父さんの平穏大也暮らしがぁ!うっ、うっ。」


「やめて、父様、壊れる!迷惑だよっ!」


 薬舗裏手の戸を大也が巨体を揺らして強引に開ける。伊織を見るなり、半泣きで訴える。


「ごめん…。これ、ランタルニアのでしょ?凄い便利だね。もう少し大きいもの無い?」


「ないよ。こんな凄いものほいほい有ったら危ないでしょ。町が。これはねぇ、楠瀬が買い付けた壺の底から偶々出てきた幻の逸品なんだよ。ハンス殿にそれとなく聞いても知らないって言われたんだからね。」


「お奉行さま、って呼ばれるってまたびくびくしなきゃいけない。もう城から帰らない。そうしたら話し掛けられない?」


「だろうね。母様に会えないけどね。ねぇ、ここだけの話なんだけど。楠瀬の財力と若奥様の腕と僕のランタルニア知識で、あのモノクルと同じ薬が出来たんだよ。偶々、ね。試してみる?」


「ふん。どうせ断れないじゃないか。ここまで聞いて引き下がれないし、欲しいし……。」


「どれぐらいで効果が切れるかとか知りたいんだよね。いろいろ協力してくれるなら、無料だよ?」


「流石、我が息子。私の弱点を知っているな。痩せるのも、武術が上達するのも無理だし。無料は至高。協力しよう。」


 権力者楠瀬の名を出して梯子を外されたことに拗ねたふりをして、信頼する愛息子が撒いた「無料」の餌に食いついてあげることにした。大也はさしたる抵抗もなく息子のお試し道具となった。

 なお、伊織は今後も色々と大也で試すつもりである。こちらもまた、仲良きことは美しき哉。

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