第2話「囁きに溺れ、三点から始まる試練」③
転生したら社畜生活から解放されるはずだったんじゃないの!?
なのに週三で王宮に通勤ってどういうこと!?
私が読んできた転生悪役令嬢モノ、誰もこんなブラック勤務なかったよ!?
みんな王子に溺愛されて、優雅に恋愛して、甘やかされてただけじゃん!
……いや、一応溺愛は……私もされてる……ような気がしなくもないけれど……。
でもこれじゃ『悪役令嬢』じゃなくて『通勤令嬢』だよ!?
そんなジャンルウケんて。需要無いて。
なんで私ばっか、転生してもこんな人生ハードモードなんだよ……。
頭を抱えているうちに、昨日ぶりの王宮が視界に迫る。
もう私の目には、白亜の宮殿は魔王城にしか見えなかった。
長い通路を歩き、侍女に導かれて足を踏み入れたのは『礼法の間』と呼ばれる広間。
白大理石に金の装飾が施され、まぶしいほどに整えられた空間。
壁際には大きな鏡、椅子、長机がずらりと並び、舞踏会や晩餐会のリハーサル会場さながらだ。
そこに立っていたのは、背筋を一本の棒のように伸ばした年配の女性。
銀糸を織り込んだ黒いドレスに身を包み、冷ややかな灰色の瞳で、こちらを値踏みするように見つめていた。
「宮廷儀礼長のマティルダと申します。本日より、妃教育を担当いたします」
厳かな声と共に紹介され、私は慌ててスカートの裾を摘まみ、お辞儀をした。
「よ、よろしくお願いしますっ」
その瞬間……彼女の口から飛び出したのは、予想外の一言。
「三点」
「ひぇっ……!?」
え、なにそれ!?いきなり採点!?三点って、何点満点!?
何を間違えたのかもわからないまま、彼女はにこやかな表情を崩さず淡々と減点理由を告げる。
「背筋、目線、膝の角度。王家の礼法からすれば、いずれも減点対象です」
ああ……容赦ない。
背筋、目線、膝……じゃあ逆に、減点されてない場所どこ!?
「公爵家のご令嬢としてなら合格点。しかし、王太子妃ともなれば優雅さも威厳も不足しています」
……威厳。そんなのどうやって身につければいいの!?
初手で赤点を叩きつけられ、思わず肩がすくむ。
これから二時間、大丈夫な気がしない!
……地獄の特訓は続いた。
王家式のカーテシー。裾を広げ、片膝を落とす。
「深すぎます。立ち上がりに品がありません」
「今度は浅すぎます。軽んじているように見えます」
食事の作法。ナイフとフォークの置き方、グラスの持ち方、パンの裂き方。
「手首が硬い。力を抜きなさい」
「グラスはつまむのではなく、そっと支えるのです」
呼称の使い方。『陛下』『殿下』を一度でも間違えれば即修正。
気づけば背中を汗が伝い、頭は真っ白。
めちゃくちゃスパルタじゃん!?間髪入れず次の問題ぶっ込まれてるんだけど!?
けれど。
二時間が経ち、最後のカーテシーを終えたとき。
鏡越しに見つめていたマティルダが、わずかに顎を引いた。
「……初日としては及第点。素質はあります」
その一言に、全身から力が抜けてしまう。
「はぁぁ……生き延びた……」
波乱の第一時間目はこうして幕を閉じた。……先が思いやられる。
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