第17話「神殿の静寂がくれたひとつの答え」①
ずっと考えていた。
もし代われるなら、もし戻れるなら……エドに本物のアリエルを返してあげられるかもしれない。
だってエドが本当に愛したのは、私じゃなくて『彼女』だから。
でもそうしたら……私は?
西村涼子は、どこへ行ってしまうんだろう。
きっと二度と、エドには会えなくなる。
当然だ。神官の言葉を借りるなら、本来なら私こそが終えているはずの生なのだから。
でも……それが、正しい形であるべきなんだ。
エドが見つめるのが、私ではなく本物のアリエルに戻るだけなんだ。
本物のアリエルなら、きっと私のような行動はしないだろう。
エドの理想の美しく素直な女の子のはずだ。
それでも、想像しただけで胸が痛み、喉が詰まった。
「ご安心なさい。深い眠りについているもう一つの魂は、やがてその生を終え……新しい魂を宿すでしょう」
「それって……」
もしや、アリエルも別の場所で生まれ変わるということなのだろうか。
私の顔に不安が浮かんでいたのだろう。
神官は優しく微笑み、さらに言葉を重ねた。
「あなたが気に病むことは、なに一つありません」
もし、アリエルに身体を返すことができたら……
私は遠いどこかで、エドとアリエルの幸せを願えばいい……ずっとそう思っていた。
けれど今の私は、こんなにも……この身体を、エドとの時間を、手放したくないと強く願っている。
アリエル……本当にいいのか?
私が、お前の人生を引き継いでしまっても。
「どうぞ、あなた自身が望む幸せへと歩みなさい。エドガー殿下と共に」
「……はい。ありがとうございます」
深々と頭を下げ、エドの待つ外へと歩みを進める。
その瞬間、まるで自分が本当に『生まれ変わった』ような感覚に包まれた。
出口が近づき、眩しい光に目を細めながら外に出ると、そこには私を待つエドの姿があった。
「リエル」
ただ名前を呼ばれただけなのに、胸の奥がじんわりと熱くなる。
神官の言葉がまだ耳に残っているのに、気づけば頬を伝って涙が零れていた。
「リエル?どうした、どこか痛むのか?」
「……っ、え、あれ?」
慌てて覗き込むエドの氷青の瞳に、また新しい涙が溢れ出す。
違う、痛みじゃない。ただ、この顔を見たら、すべてが堰を切ったように溢れてしまう。
「なんで……止まらなくて。なんでも、ないんだよ……」
嗚咽を押し殺しながらそう告げると、エドは何も言わず、ただ強く抱き締めてくれた。
周囲の視線も神殿の威厳も、この瞬間はすべて遠のいてしまったかのようで。
……ごめん、エド。
アリエルを返してあげられなくて。
でも、私なりに……精いっぱいお前を大切にするから。
そう思った瞬間、胸の奥の重さが少しだけほどけた気がした。
「疲れただろう。着替えて休むといい」
「え!?いいの!?」
「今日から一週間、お互い執務も公務もすべて休みだからね」
そんなご褒美が!?
そうだ、同僚も結婚した時に特別休暇をもらって新婚旅行に行ってたっけ……!
縁が無さすぎて完全に忘れてた!
侍女にドレスを脱がせてもらい、ようやく楽なネグリジェに着替えて部屋に戻る。
そこでは、ソファで優雅にコーヒーを飲むエドが待っていたけれど、それを完全にスルーしてベッドにダイブする。
枕元に置かれたストールを抱きしめながら、これからの一週間をどう過ごそうかと考えていると、エドがゆっくりと近づいてきた。
「……みな、下がってくれるかな」
その一言で、侍女たちは静かに退室していく。
たくさんのクッションに埋もれる私を、エドが後ろから抱きすくめた。
髪、耳、首筋、肩……次々に彼の唇が触れていく。
「っ!……コラコラコラ……まだ昼間だぞ……」
首元に落ちる熱に、耳に吹きかけられる吐息に、全身が痺れる。
「んっ……!休むといいって……エドが言ったんじゃないか……」
「ダメかな?」
ダメに決まってる……と言いたいのに、振り向いた瞬間に唇を塞がれ、言葉が溶けていく。
思わずその首に手を回し、抗うどころか身を委ねてしまう。
カーテンの隙間から差し込む優しい陽の光だけが照らす薄暗い部屋。
力が抜けていく感覚に抗えず……エドにすべてを預けてしまった。
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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ
※本作には、この物語の前段階にあたるお話しがあります。
ご興味のある方はそちらもご覧いただけると嬉しいです。
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