第15話「星屑を纏った花嫁のため息」①
「準備はどうかな」
やっと衣装替えが済んだころ、涼しい顔をしてエドが控室に入ってきた。
純白の軍装から一転、濃紺のローブに着替えた彼は、まるで夜の王そのもの。
余計な装飾を抑えた衣装だからこそ、青い瞳が際立って見える。
は?なんでもう準備終わってんの!?私なんてついさっきまで髪引っ張られてたんだぞ!?
「くそっ、不公平なんだよ!!」
思わず噛みつくように文句をぶつけると、エドは気にする素振りもなく、肩を揺らして小さく笑った。
「……さっきの純白のドレスも素晴らしかったが、このドレスを纏うリエルも美しいな」
「……っ」
……そういうこと、涼しい顔で言うなよ……!
侍女たちの視線が『あらあら、まあまあ』って感じで生温かいんだけど!!
大広間の扉が再び開かれる。
純白の花嫁衣装から一転、深いサファイアブルーに身を包んだ私の姿に、無数の視線が一斉に注がれる。
背筋を伸ばして隣に立つエドは、濃紺のローブを纏い、静かな威光を放っていた。
楽師たちが舞踏会用の序曲を奏で始める。
軽やかで華やかな旋律が広間を満たし、司会役の声が高らかに響いた。
拍手と歓声に包まれながら、エドの手を取る。彼がゆっくりと腰に腕を回し、足を導いていくと、裾がふわりと広がり、銀糸が星のようにきらめいた。
……さっきよりも落ち着いて踊れてる?
いや、違う……エドの視線が、さっきよりも近いからだ。
青と青がぶつかるように視線が絡み、会場は華やかな音楽と人々の熱気で満ちているはずなのに、私には彼の瞳しか映らなかった。
彼の声が、音楽に紛れて小さく囁かれる。
「……綺麗だ。まるで、この夜空の色そのものだ」
「お前さぁ、マジでいつもそんなセリフ……恥ずかしくないの?」
「綺麗な物を綺麗と言っているだけだからね」
「……聞いた私が悪かったよ……」
音楽が頂点を迎え、旋回とともにスカートが大きく翻る。観客から再び拍手が巻き起こり、私たちの舞踏は優雅に締めくくられた。
二度目のダンスが終わると、楽師たちは一層華やかな音色を奏で始める。
合図とともに、客人たちが次々と中央の舞踏の輪に加わった。
貴族の令嬢たちは色鮮やかなドレスを揺らし、若い騎士や貴公子がその手を取って舞う。
大広間は瞬く間に色とりどりの花が咲いたように賑やかさを増していった。
「お美しいですな、王太子妃殿下」
「この結びつき、我が家も心より喜ばしく思います」
広間を歩けば、あちこちから祝辞が飛んでくる。
背後では給仕が絶え間なく酒を注ぎ、銀の皿に盛られた菓子や果実が次々と運ばれていく。
客人たちはグラスを掲げ、舞い、笑い、夜が更けるのも忘れたように宴を楽しんでいた。
貴族って普段はまったく動かないのに、なんでダンスだけはあんなに踊り続けられるんだよ……。
ふと横を見ると、エドは涼しい顔で貴族たちに挨拶を返していた。
姿勢も笑みも崩さず、堂々とした態度で。やっぱりこういう場に慣れてるんだなぁ……。
気がつけば、楽師が何度も曲を奏で直し、何組もの舞踏が繰り返されていた。
笑い声、グラスの触れ合う音、菓子の甘い香り。
広間はまだまだ熱気を帯びていたが、私の体力ゲージはとっくにゼロを割っていた。もう今が何時なのかもわからない……。
そんな私を察したのか、エドが肩を軽く抱き、笑みを浮かべながら人々に告げる。
「皆、今宵の祝宴に感謝する。舞踏はこの後も続くが、花嫁はここまでとさせてもらう」
会場からお祝いの言葉と惜しみない拍手が湧き上がる。
私たちは手を取り合い、深々と礼をしてから大広間を後にした。
扉が閉じた瞬間、張り詰めていた空気が緩み、思わず大きなため息が漏れる。
「……やっと……終わった……」
エドが小さく笑い、私の手を強く握った。
「よく頑張ったね……あと少しだ」
……あと少し?何が『あと少し』なんだろう……?
導かれるままに向かったのは、新居が完成するまで滞在する部屋だった。
扉を開けると待ち構えていた侍女たちが一斉に出迎え、笑顔で告げる。
確かここ、年越しの祈りで泊まったエドの私室の隣だよね……でも、あの時よりインテリアが豪華になっているような……。
「花嫁様、お湯の支度が整っております」
奥にある湯殿へと案内されると、湯気に包まれた空間に甘い香りが満ちていた。
湯船には花弁が浮かべられ、灯された無数の蝋燭が水面に揺れる光を映している。
まるで神殿の儀式のように神聖で幻想的な雰囲気だった。
「花嫁様、どうぞこちらへ」
「本日は念入りにお磨きいたしますね」
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