第14話「ウェディングケーキとファーストバイト」②
三大公爵家の祝辞が終わり、再び楽師たちが旋律を奏で始める。今度は舞踏のための軽やかな調べ。
広間の中央に広く空けられた大理石の床へと視線が一斉に注がれた。
「新郎新婦による、最初の舞踏を」
司会役の声が高らかに響く。
すっと立ち上がったエドが、私の前に片手を差し出した。
金の軍装に身を包み、完璧な微笑みを浮かべた彼は……舞台の主役そのもの。
悔しいけど……格好いいって思ってしまった。
「……アリエル」
「……はい……」
仕方なくその手を取る。冷静に見える掌は思いのほか温かくて、それが余計に緊張を煽る。
楽師の合図に合わせ、エドが私の腰をそっと引き寄せる。
軽く導かれるままに、私はスカートを翻しながら舞い始めた。
エドのリードは驚くほど滑らかで、力強さと優雅さを兼ね備えている。
私が一瞬つまずきそうになっても、すぐに腕の中で軌道を修正され、まるで最初から完璧に舞っていたかのように繋げられていく。
やがて音楽が盛り上がり、旋回するたび純白のスカートがふわりと広がる。
周囲から拍手と感嘆の声が上がり、王や貴族たちの表情が次々にほころんでいくのが見えた。
エドが小さく、私の耳元に囁く。
「やはり……リエルと踊るダンスは楽しいな」
「……っ」
思わず視線を上げると、青い瞳が真っすぐに私を射抜かれて、胸の鼓動が一瞬、跳ね上がる。
「何度でも踊りたくなってしまうから困る」
「……何度もとか、勘弁して……」
やがて音楽が静まり、最後の一拍。
私たちの舞踏は優雅に幕を閉じ、広間いっぱいに拍手と喝采が響き渡った。
最初の舞踏が終わると、大広間の奥の扉が開き、給仕たちが一斉に台車を押して入ってきた。
その上に鎮座していたのは……巨大なウェディングケーキ。
高さは人の背丈ほどもあり、段ごとに花の細工や金粉が散りばめられ、白亜の塔のように堂々と輝いている。色とりどりの果実は宝石のように飾られ、会場から驚嘆と歓声が巻き起こった。
……もう……こんなん、昭和の豪華結婚式でしか見たことねーよ……
司会役が誇らしげに声を張り上げる。
「新郎新婦による、ケーキカットの儀を!」
再び視線が私たちに集まる。エドと並んでナイフを手にすると、楽師たちが軽やかな祝奏を奏で始めた。
銀の刃に光が反射して、思わず目がくらむ。
「……大丈夫?」
「大丈夫じゃないけど……ケーキは美味しそうかも」
「ふっ、確かに」
エドがそっと手を添えてくる。二人で息を合わせ、ゆっくりと刃を入れる。
白いクリームがすっと割れ、柔らかな断面が覗いた瞬間、会場から大きな拍手と歓声が弾けた。
兵士の号令とともに歓声がさらに高まり、シャンパンの栓が次々と弾ける。
甘い香りと泡立つ音に包まれながら、私たちは振り返って人々に笑みを返した。
巨大ケーキは切り分けられ、砂糖菓子や果実の盛り合わせと共に各卓へと配られていく。
私とエドのもとにもお皿が運ばれ、真っ白なクリームに彩られたケーキが載せられた。
広間は一層華やぎ、熱気が渦を巻く。
「エド、ほら……あーん」
「……この場で?」
「ファーストバイトって知らない?一生食べ物に困らせないって願いだよ。しっかり養えよ?」
「もちろん」
お互いに食べさせ合うと、周囲から驚きの声や笑い声が上がる。
けれど気にせず顔を見合わせ、自然に笑った。
エドとなら、きっとこんな毎日が送れるんじゃないか……そんな気がした。
この時食べたケーキは、29年間で一番甘くて美味しかった。きっと一生忘れられない。
……花嫁控室に下がると、一瞬で戦場になる。
侍女たちが「急いで!髪を結い直して!」「こっちの宝飾を!」と右往左往し、私の周囲を取り囲む。
ぐるぐる回され、引っ張られ、あっという間に姿を整えられていった。
純白のドレスを脱ぎ、纏ったのは深いサファイアブルーの舞踏会用ドレス。
肩から流れる布地は夜空をすくい取ったように濃く、裾には銀糸の刺繍が星屑のように散らされている。
腰のリボンには同色の宝石が留められ、胸元のネックレスとさりげなく響き合う。
ティアラも白銀からブルーサファイアを中心としたものへと替えられ、全体が夜の輝きを宿した姿へと変わった。
……もう、コルセットに文句を言う元気も残ってない。
さっきケーキをしっかり食べといて良かった……。
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