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転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!〜二つの王冠の子〜  作者: 木風


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第11話「リンゴに潜む毒と、未来の王妃の名」②

廊下に出て、最初の角を曲がった瞬間。

緊張の糸が切れたのか、汗が噴き出すように流れ、足が震え、膝をついてしまう。


なんっじゃありゃ!!!!

医者をやっていた時、やっかいな患者もいたし、表に出せないような患者も診たことはある。

でも、あんな人間……全然違う!怖さの質が桁違いだ!!


「リエル!!!」


聞き慣れた声。顔を上げると、駆け寄ってくるエドの姿。


「……エド?」

「何を考えてるんだ!!!」

「……っ、ごめん」

「リエルに何かあったらと思ったら……っ!」


力いっぱい抱きしめられる。

彼の温もりと匂いに包まれ、やっと息ができた気がした。

バクバクと暴れる心臓が少し落ち着きを取り戻す。

けれど、その腕の中で震えていたのは、むしろエドの方だった。

思わず背中に手を伸ばし、抱き締め返すと、そっと背中を撫でた。




結婚式の前日。クローバー公爵邸の応接間は、まるで戦場のような慌ただしさに包まれていた。

花嫁を送り出すための最終打ち合わせ。

王宮から派遣された役人と、公爵家の執事や侍女たちが几帳面に並び、机の上には式次第や座席表、贈答品の目録まで隙間なく積み上げられている。


「花嫁行列は予定通り、公爵邸を出立して王宮へと向かいます」

「馬車は四頭立てで、王都の大通りを練り歩く形に。沿道の警備も万全に手配しております」


きっちりとした声で読み上げられる段取りに、こくこくと頷くだけ。

正直、内容は半分くらい右から左に抜けている。

でも、ちゃんと聞かないと。これは私のためだけじゃなく、家族の名誉に関わることだから。


クローバー公爵夫妻に対して、私は深い愛情を持った娘ではない。

会ってから、まだたった8カ月。

日本で過労死した西村涼子は、両親に何一つ親孝行できなかった。

だからこそ今、この世界の『娘』として向き合うことが、せめてできる償いのように思えた。


「アリエル……」


ふいに母が私の名を呼ぶ。

振り返ると、柔らかな金の髪を結い上げた母の目が潤んでいた。


「一時はどうなることかと思ったけれど……無事にあなたを送り出す日が来るなんて」


普段は毅然としている人なのに、今日は声が震えている。

侍女たちの前で涙を見せることなど、ほとんどなかった母が。

娘を手放す日として心揺れているのだろう。


……ああ、この人は確かに、アリエルの母親なんだな。

じんわりと胸が熱くなり、思わず膝を進めて母の手を握った。


「大丈夫。だから心配しないで」


声に出してから気づく。

言葉に詰まる。あくまで私の親は日本にいるお父さんお母さんだと思ってる。

どうしてもこの父と母をなんて呼んでいいのかわからずに今日まで来てしまった……


「……お母様」


やっと絞り出したその一言に、母の目がさらに潤む。

次の瞬間、温かく抱きしめられた。

言葉にできない後悔が、少しずつ癒やされていく気がした。


父もまた、低く重々しい声で言った。


「お前がどんな選択をしても、クローバー家はお前の居場所だ」

「……ありがとうございます。お父様」


形式的な言葉に聞こえるかもしれない。

でも今の私には、十分すぎるほど温かく、心に響いた。


やがて机の上に、一枚の分厚い羊皮紙が置かれる。


「王宮にて、すでに殿下がご署名済みです」


目を落とすと、署名欄には『エドガー・ルクス・アストリア』の文字が輝いていた。

淡く光を放つ文字。これはおそらく、魔法によるものだろう。


震える指で紙面を追う。


1、契約当事者の明記

・新郎:エドガー・ルクス・アストリア(アストリア王国第一王子)

・新婦:アリエル・C・ラバー(ラバー公爵家令嬢)


2、婚姻の効力

・両者は神と国王のもと、婚姻の絆を結ぶ。

・この婚姻により、アリエルはアストリア王国の王太子妃となる。


3、持参財・領地に関する条項

・クローバー家から持参される財の記録。

・領地の帰属に関する取り決め。


4、相互の権利と義務

・王太子として妻を守護し、その権利を保障する旨。

・王太子妃として国を補佐する義務。


5、後継者に関する条項

・生まれる子はアストリア王家の正統な後継者とする。

・クローバー家との血縁を明記する。


羊皮紙に刻まれた言葉は、ただの契約文以上の重みを帯びていた。

これに署名した瞬間、私は本当に『王太子妃』になる。


胸の奥で静かに震える感覚を、深く息を吸って押さえ込んだ。


確か、日本でも資産家同士の結婚では契約書みたいなものが交わされるって聞いたことがある。

やっぱり金持ちは金持ちにしかわからない苦労があるんだな……。


ただ、私自身が持参する財なんて何があるんだろう?

エドからもらった宝飾関係くらいしか思いつかないんだけど。


「確認が済みましたら、こちらに血判を」

「えっ!?血判!?」


重っ!!激重っっ!!!実印じゃダメなの!?せめてサインとか拇印とかで……!


混乱している間に侍女が針を取り出し、私の指先を軽く刺す。

赤い滴が羊皮紙に落ちた瞬間、紙面全体がぱぁっと黄金色に輝き、クローバー家と王家の紋章が浮かび上がる。


「わぁ……綺麗☆」

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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