第1話「逃げ道のない王宮のサロンへ」②
「お茶会……?」
ただ一緒にお茶を飲むだけ、のはず。けれど王妃と二人きりなんて、心臓に悪すぎる。
「ねぇ、お茶会に来てって書いてあるんだけど」
内容を伝えると、侍女の顔がサッと青ざめ、それから真剣そのものに変わった。
「お嬢様!急いでご支度を!!」
え?え?
返事を待たず、私を布団から引っ張り出し、別の侍女は衣裳部屋へ猛ダッシュ。たちまち周囲は戦場に。
「お嬢様、こちらのお召し物を」
差し出されたのはアイボリーに淡いラベンダーをあしらったドレス。
ちょっと待って!正装じゃなくていいって書いてあったよね!?どこが軽やかなお召し物なの!?
「……本当に行かなきゃだめ?」
「王妃陛下直々のお招きでございます」
「……だよねぇ……」
結局、ぶつぶつ言いながらもドレスの中心へ。
内側のコルセットがきゅっと締められると、息苦しさと一緒に現実味が増す。
「うぅ……昨日のお菓子、まだお腹に残ってるのに……」
「大丈夫です、むしろ美しいラインが出ます」
「いや、そこまで美しくなくてもいいからぁ……」
髪も器用に整えられ、真珠の飾りが留まった瞬間、鏡に映ったのは……どう見ても清楚なお嬢様。
「お似合いでございます、お嬢様」
「……はぁ……確かに似合ってる。ありがと……」
尖らせた唇も、結局は従うしかない。
急すぎる招待、王妃とのお茶会。考えただけで憂鬱なはずなのに……鏡の中の私は立派な『公爵令嬢』になっていて、その事実が余計に足を重くしていた。
肩にかけられたマントの重さが、心の重さと重なってのしかかる。
歩を進めるたび、気分はどんどん沈んでいく。
玄関前に待つ馬車に乗り込んだ瞬間、まるでドナドナされる仔牛の気分だった。
窓の外を眺めると、王宮へ向かう石畳の道。婚約式の記憶が蘇る。
あの日は大勢の人が道に並び、笑顔と拍手で祝福してくれた。
小さな子どもたちが両手いっぱいの花を抱えて差し出してくれて……本当に可愛らしかった。
でも、今の私には王宮なんてちっとも魅力的じゃない!
市場でお菓子を見たり、近くの本屋を冷やかしたり、その方がどれだけ心弾むことか!
そんな強がりを胸に抱えたまま、馬車は中庭に到着した。
扉が開いた瞬間、冷たい風が容赦なく吹き込んでくる。
肩のマントをぎゅっと寄せる間もなく、侍女に手を取られて馬車を降りる。
ああ、ついに着いてしまった。ここが王宮。
荘厳な建物を見上げると、その巨大さに眩暈がしそうになる。
……っていうか、結婚したらここに住むの?広すぎて落ち着かないんだけど!
「クローバー公爵令嬢、アリエル様にございます」
名を告げられると同時に、玄関前に整列していた王宮の侍従たちが一斉に頭を垂れる。
慣れない威圧感に思わず背筋がぴんと張る。
マントを外された途端、アイボリーのドレス姿が露わになり、もう完全に逃げ道を断たれた気分になった。
「こちらへどうぞ」
従者に導かれ、煌びやかな広間を横目に廊下を進んでいく。
けれど、向かうのは奥へ奥へと続く通路。
どこをどう歩いたのか、すでに方向感覚はぐちゃぐちゃで、これ絶対一人じゃ帰れない!と確信する。
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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ
※本作には、この物語の前段階にあたるお話しがあります。
ご興味のある方はそちらもご覧いただけると嬉しいです。
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