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転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!〜二つの王冠の子〜  作者: 木風


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第6話「雪の聖夜に抱きしめられて」①

聖夜祭当日。


午後から始まった支度はすでに整い、部屋にはしんとした静けさが満ちていた。

深いネイビーのドレスは、エドと一緒に選んだもの。

ランプの光を受けて揺らめき、まるで夜空をそのまま切り取って縫い上げたかのように輝いている。

左手の薬指には、光の加減で紫から赤へと揺らめく宝石の婚約指輪。

首元には誕生日に贈られたネックレスがきらめいていた。

湖底に沈む月のような深い青。そこから滴る光を抱きとめるように、無数のダイヤが星座のように瞬いている。


約束の時間はもうすぐ。

それなのに時間が迫れば迫るほど、指先から感覚が遠のいていく。

胸の奥が押し潰されるように重く、息が詰まりそうになる。


……そんなに。身体が反応するほどのトラウマなのか。


アリエルの記憶でしか見ていない昨年の聖夜祭。

馬車に置き去りにされ。

やっと会場にたどり着けば、ドレスの色は合わせてもらえず。

ファーストダンスはリリアナに奪われ、極めつけは浮気の現場。

十六歳のアリエルが、どれほど傷付き、泣いたか。記憶を追体験するだけで胸が締め付けられる。


「お嬢様、雪が降ってきました」

「雪……?」

「聖夜祭に雪とは、なんともロマンチックですね」


窓の外に、白い粒がひとひら、またひとひらと舞い降りてくる。

エドが来ないはずがない。それは誰よりもわかっている。

それでも心はざわめき、待つ時間は永遠のように長い。


……不安なんだ。

普段は呼んでもいないのに押しかけてくるくせに。今日は、どうして早く来てくれないの。

早く迎えに来いよ……。


約束の刻限が迫っても、到着の報せはない。

エドが来ないはずはない。けれど、万が一の不安が頭をよぎる。

道中で事故にあったのでは……そんな最悪の想像が勝手に膨らんでいく。


侍女がマントを広げた、その瞬間。


「エドガー王太子殿下、ご到着にございます」


胸を締めつけていた何かが弾けた。

思わず玄関へと駆け出していた。


「なんとか時間に間に合ったか……」


早めに王宮を出たのに、予想以上の混雑に馬車は遅れた。

リエルはもう準備を終えているだろうか。

まだ見ぬ姿を思い浮かべただけで、自然と口元が緩んでしまう。


「エド!!」


扉が開いた瞬間、雪の中へ飛び出してきたリエルが視界に飛び込んできた。

マントも羽織らず、必死に走り寄ってくる。その表情は笑顔どころか、今にも泣き出しそうに歪んでいて……胸が詰まる。


「リエル……!」


駆け寄って受け止めた瞬間、細い腕がぎゅっと抱きついてきた。

こんなふうにすがりつくリエルを見るのは初めてだ。


「お嬢様!お風邪をひいてしまいます!!」


慌てて追いかけてきた侍女からマントを受け取る。


「ご苦労。寒いから、もう下がっていい」


リエルの肩にマントを羽織らせ、そのまま抱き上げる。


「……!?」

「寒いからね。じっとして」


驚いて一瞬身体を固くするが、すぐに力を抜いて再び抱きついてくる。

そのまま馬車に乗り込むと、扉が閉じ、外気の冷たさが遠のいていく。

ランプの柔らかな灯りと毛布の温もりが、震える身体を包み込む。


リエルの指先が俺の衣をぎゅっと掴み、離そうとしない。


彼女が涙を見せたことは過去に一度だけ。襲撃で本が傷んだとき、大粒の涙を零していた。

けれど今回は違う。

寒さでも、単なる甘えでもなく……怯えを押し隠すようにしがみついている。


膝に座らせ、背を撫でる。

もちろん心配はしている。だが同時に、こうして信頼されている事実が嬉しくて仕方ない。


思い当たる理由は一つ。

昨年の聖夜祭……リエルの婚約者だったルシアンとリリアナの件。

報告は早い段階で届いていた。けれど調べを進めるほど胸が痛んだ。

ファーストダンスを奪われたことも、浮気の現場を見せられたことも。

その後、冬季休暇中ずっとリエルが泣き暮らしていたと聞いた時は、拳を握り潰した。


婚約式の日。


『いくらでも……止められるタイミングはあったんじゃないのか……?』


リエルにそう言われた時、返す言葉がなかった。

婚約破棄に繋がればと安易に構えていた自分。

あの時もっと強引にでも動いていれば、リエルをあんなに傷付けずに済んだのに。

悔しさと後悔が、今も胸の奥で燻っている。


ゆっくり背を撫でていると、呼吸が少しずつ整い、身体が落ち着きを取り戻す。


「……ごめん。ちょっとパニックになって……そろそろ下ろして」

「そう?俺としては、このままずっと抱きしめていたいけど」

「じゃあ……もう少しだけ」


小さな声でそう呟き、再び身体を預けてくる。

いつもよりずっと素直で、愛らしい反応に胸が熱くなる。


……もしこの馬車が永遠に王宮へ着かなければ。

このまま時が止まってしまえば。

そんなあり得ない願いを抱きながら、窓の外に流れる雪景色を眺め続けた。

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よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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