第4話「星のように並ぶドレスたち」①
昨日の疲れからか、昼前まで爆睡……からの着替えもせずに布団の中で読書タイム。
これだよこれ!!この生活を待ってたんだよ!!
で、なんでエド……。
なんでこいつは、さも当然のように私の隣に寝てるんだよ……。
もう顔パスで部屋に通されるのは慣れたけど、私の邪魔はするな。
暇なのか?暇なんだろ?暇なら帰れよ。
何か言ってやろうと顔を向けた瞬間……。
「やっとこちらを向いてくれた。この前は邪魔が入ったからね」
待ち構えたように、唇が重なる。
「ちょっ……まっ……」
お前、身体が大きいんだよ!!
手で押し返そうとしても全然ビクともしない。
だんだん思考が麻痺してくる、この感じ……なんなんだよ、もう……。
エドに好き放題されていると、ノックの音とともにコンラートの声がした。
「ゴホンッ……殿下、お時間です。お約束の方がお越しになられました」
「そうか、通してくれ」
やっと解放されたかと思ったら、なんだよお約束って。
「ちょっ……私に許可なく勝手に通すなよ!」
顔パスはお前だけで十分だってば!!
扉が開くと、複数人の女性が山のような荷物を抱えて次々と部屋に入ってくる。
何が起きているのかわからず混乱していると、エドがストールを肩に巻き、私の手を引いてベッドから降ろした。
「待ってって……何なの?」
「おや、歩くのが嫌ならお姫様抱っこで連れて行くけれど?」
「歩けるって!話を聞けって!!」
促されるままソファに移動する。
目の前のテーブルには大量の布地が広げられ、部屋にはどんどん布の山が運び込まれる。
「聖夜祭のドレスを仕立ててくれる、仕立て屋のマダム・フルールだ」
「アリエル殿下。お初にお目にかかります」
「あ、よろしくお願いします。え……聖夜祭の??」
マダム・フルールはテーブルいっぱいに布地を広げ、次々と紙束を差し出してくる。
「こちらの深紅は『燃えさかる薔薇の情熱』ドレス。こちらは『雪解けの純潔の涙』ガウン。
これは『黄金の朝焼け』、こちらは『湖畔に咲く夢想』。そして極めつけは……『殿下の心を射抜く純白の矢』!」
ちょっと待ってくれ!!
名前のクセが強すぎて、全然ドレスのイメージが頭に入ってこない!!
隣ではエドが当然のように紙束を覗き込み、真顔で頷いている。
「……矢、悪くないね」
「やめろ!!なんで伝わるんだよ!?即決すんな!!」
テーブルに広げられた生地を手に取る。
「ん、この色……生地がきれい。エドに似合うんじゃない?」
「では、その色で」
「かしこまりました」
え!?そんな即決でよいの?
まぁ……これで本当に終わりなら、別によいけど。
テーブルにずらりと並べられた色とりどりの生地に、そっと指先で触れてみる。
ラベンダー、アイスブルー、シルバーといった可愛らしい色合いから、濃い青や濃紺のような上品で落ち着いた色合いまで……。
同じ色でも、生地の質によって手触りも光沢もまるで違う。
ふと、鮮やかなオレンジ色に目が留まった。
昨年の聖夜祭……本来ならアリエルとルシアンが揃って着るはずだった色。
けれど結局その場に立ったのはアリエル一人。
豪奢なオレンジのドレスを、孤独に纏っていた彼女を思い出し、胸が少しだけ痛んだ。
「殿下、先ほどまででアリエル殿下がお手に取られた生地、十色ございますが、すべてお仕立てで問題ありませんか?」
「……あぁ、頼む」
エドの短い返答のたびに、マダム・フルールの手元でペンが走り続ける。
「待って!?お前、私に何回お色直しさせる気だよ!?」
「……まだまだ足りないよ」
「足りないのかよ!?」
えっ!?こんなに買ってまだ足りないの!?
友人の結婚式なんて、私は同じパーティードレスを三回は使い回してたのに!?
「あ、このデザイン可愛い」
なんて軽い気持ちで口にした瞬間……。
「素晴らしい審美眼ですわ!では色違いも含めて十型、すぐにご用意を!」
「待て待て待てーーッ!!」
思わずエドの腕を掴んでガクガク揺さぶる。
「ちょ、ちょっと待って!?エド!?これって王家持ちなの!?予算委員会とか通ってんの!?」
「大丈夫。誰にも文句は言わせないよ」
「本当!?お前罷免とかされない!?」
「私は生まれた時から王太子だからね」
エドは気楽そうに笑うけど、私は全然笑えない。
一着いくらだよこれ……桁が違うでしょ……。
「すべて、私の分も仕立ててもらおうか」
「え……?」
「当然だろう?私は君の婚約者だ」
何でかわからないけど、その言葉で少しだけ泣きそうになった。
昨年は置いてけぼりで孤独だった聖夜祭。
でも今年は……エドが同じ色を纏って、隣に立ってくれる。
その想いだけで、去年のアリエルが少し救われた気がした。
「まぁまぁまぁぁぁぁ!!」
マダム・フルールが天を仰ぎ、感極まったように手を打ち鳴らす。
「なんということでしょう!殿下とアリエル殿下のペアドレス……!
これはもう、『運命の双星』コーディネートと名付けさせていただきますわ!!」
「……運命の、双星か。悪くないね」
涙腺が緩んでいたのに、一気に笑いそうになって、慌てて口を押さえる。
「ぷっ!あははははっ!!何それ、二人して真面目な顔で言うから余計に合わなすぎでしょ!!」
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