カスは目が眩む
組織は国と繋がっているイメージです
「着きましたよ。ここが、日本妖魔対策課の本部です」
そう言って、隠し通路らしき場所を通って、エレベーターを降りた先には大勢の人間が働いていた
大きな広場でパソコンが多く、あっちこっちで電話が鳴り響いている
「おい、千葉で6級の反応だ」「ああ、そちらは○○町の百貨店の前でお待ち下さい」「課長ぉー10番の応接室でお待ちです」「岩手で3級の反応だ!近くで行ける退魔師いるか!?」
働いたことのない俺はすげぇなくらいしか感想は出てこなかったが、実際ここの勤務体制はブラックもブラックだ
この業界はなり手が中々見つからないので万年、いや1000年人手不足だ
そうこうしているうちに、空いている応接室を確保したらしいおっさんが案内のため俺を呼んだ
「粕谷さん、こちらへどうぞ」
その言葉に従い、おっさんの後をついて行くと、9と書かれた部屋に入っていく
中は質実剛健というのが正しいのだろうか、対面ソファにテーブル、それに内線電話か、それしかない
そんな部屋で2人がけのソファの片面に座る
おっさんも座ったところで、あ!っと言った
「お茶とか飲みます?」
「あ、はい。2杯ください」
おっさんが2杯?と言ったところで、しまったと思ったが、素知らぬ顔でお茶が来るのを待つ
「おまたせしました。では早速本題ですが、粕谷さん、うちに所属しませんか?」
「はぁ」
「いえ、別に粕谷さんの行動を制限したいわけじゃないんですよ。ただ、うちに来てもらうとうちも粕谷さんも良い関係を築けると思うんですよ」
「良い関係、ですか?」
「はい。申し訳ありませんが、少し粕谷さんのことを調査させていただきました」
調査!?あれから調べる時間なんて十分もなかったぞ!?
どうやったらそんな時間で調査出来るのかと内心思っていると、それを察したのか笑顔で、おっさんは待ってましたとばかりに俺の疑問に答えてくれる
「日本妖魔対策課は国民の情報を簡単にある程度調査できる権利を国からもらっているのです」
な、なんてプライバシーの権利が意味をなさない組織なんだ…!
そんなの警察でも、下手したら世間から叩かれるぞ
「そんなプライバシーを勝手に暴いて、バレたとき世間が怖くありませんか?」
俺がそう言うと、おっさんは意味ありげに含み笑いをする
「はは、大丈夫ですよ」
「いや、でも」
「だから、大丈夫なんですよ」
圧が強い。これは言外に聞くなと言っているのか?それとも、全てを黙らせることが出来るくらい強い権力を持っているかか
これは多分両方だな
つまり、強い権力で世間には言えないようなことをしているのではないか
俺達がオークと急に遭遇したように、突然化け物に襲われる一般人もいるということなのではないだろうか
その場合、この日本妖魔対策課が裏で工作して、何らかの事故に遭ったとして対処する。なんて言ったって、実は化け物に会って殺されてしましたなんて言ったら、世間が混乱してしまう
1000年続いている組織だっていうし、そういう隠蔽は得意なのは確かだ
じゃないと、すでに一般人だった俺でも知っていることになるのだから
「ふぅ、わかりました。それで納得します」
おっさんの裏の言葉に気づけたという風でもあるのか、こちらを満足気に見てくる
ちょっとイラッとする
「それで、日本妖魔対策課に入らないかということでしたが、別に俺じゃなくてももっと優秀な人材はいるんじゃないですか?」
気分が悪いまま、少しムスッとした感じで聞くと丁寧におおっさんは答えてくれる
「そうですね。実際、勉強や運動能力など学校で必要だった項目は粕谷さんより優秀な方は多くいらっしゃると思います」
率直な評価に口元を引くつかせていると、おっさんは、ですがと続ける
「日本妖魔対策課では、それよりも大事、といよりもそれがなかったら始まらない要素が一つだけあります」
「要素?」
「はい、それは妖魔を倒せる源。我々は霊力と呼んでいますが、海外では魔力とも言われている力です」
あー、なるほど。それで俺に目をつけたってことか
「なるほど、オーk…ゔゔんあの妖魔を倒せた俺はその霊力を持っている。だから人手不足のこの組織にほしい。そういうことで間違いないですか」
「間違いないです」
「でも、その霊力?がある人ってそんなに少ないんですか?」
俺の質問におっさんはああ、と言ってから教えてくれる
「そうなんです。霊力を持つ者は日本では1000人ほどと言われています」
1000人!?と俺が驚いていると、おっさんは続ける
「少ないでしょう?でもこれでも昔と比べて増えたんですよ。今現在の霊力保有者のほとんどは名がある一族と、粕谷さんみたいに在野にたまに現れるくらいなもんです」
「在野っていうのは俺みたいなもんってのはわかりましたが、名のある一族っていうのはなんなんですか?」
俺は、何だその漫画的な設定の奴らはと思い聞いてみる
「名のある一族っていうのはですね、11000年前から続く妖魔との戦いで徐々に霊力があるもの同士で子どもを作り、多くの霊力保有者を輩出出来るようになった者たちの総称を言います」
マジで漫画的だった
「この者たちは必ず霊力保有者を生むということは出来ませんが、それでも多くの確率で霊力保有者を輩出しているので、この業界ではかなりの権力を持っています」
「基本的に名のある一族は一から十の字が苗字に入っているんです」
一から十だって?それじゃあおっさんは…
「あ、気づきました?お察しの通り私も名のある一族の出身です」
このニコニコしたおっさんが権力を持っている?その割に随分下手からでてくるけどな
「あ、名のある一族出身と言っても、私には霊力がありませんから、そんなに権力はありませんよ」
「私みたいな霊力を持たなかった名のある一族出身の者は、霊力保有者のサポートに回る仕事が主になるんです」
「ほら、先ほども忙しそうにしていた人たちがいたでしょう?あの人たちは名のある一族出身ですが、霊力を持たなかった者たちなんです」
なるほど、名のある一族に生まれようと、霊力がなければただの一般人と一緒ってことか
「他に聞きたいことは何かありませんか?」
「じゃあ、給料とか聞いてもいいですか?」
「はい、もちろんです」
そう言ったおっさんの顔はこれまで以上にニンマリしていた
「まず最初に説明しますと、退魔師には等級があります。等級は基本的に低い方から十級。高くなるにつれて一級となっていきます」
「これより上の者は特級と呼ばれますが、まぁ今はこれは気になさらなくても大丈夫です」
「十級の給料は固定給百万円にプラスで討伐数に応じた金額が振り込まれることになります」
「そして、等級が上がるにつれて、固定給が百万円ずつ比例して上がります。ちなみに等級が上がれば対処する妖魔の等級も上がるので、必然的に給料は倍どころではきかなくなってきます」
「退魔師は基本的自営業扱いになるので、そこは注意してください」
いや、そこは現代枠組みなのかよと思うが給料が破格すぎる
「こんなに給料が高いなら、いっそのこと一般人から応募かけるのはダメなんですか?」
その質問におっさんは、困ったように答える
「そうしたいのは山々なんですが、妖魔には銃火器などの武器は意味がありませんし、一般に流布して、霊力がある者が見つかっても社会が混乱してしまいますから、それは対策課も国も望んでいないんですよ」
まぁ、中には一般人も才能あるものは退魔師するべきだって強硬派も少数ながらいますがね
と、おっさんは怖いことを言う
「安心してください。そういう奴らはあまり権力を持っていませんから。対策課でも国でもね」
うわぁ、つまり政治家にも国民を徴兵しようとする奴がいるってことかよ
「なんか、国とも繋がっているって色々大変なんですね」
俺の言葉におっさんは乾いた声で笑うのだった
ーーーー
「話は戻りますが、給料は一般の方と比べるとだいぶ良いのは確かですね。ですが、これには危険給も含まれていますのでご注意ください。また、他にも、新幹線や飛行機、その他公共のものならば無料で乗り放題という福利厚生もついてきます」
「おお!」
なんて福利厚生なんだと思ったのも一瞬だった。俺はあることに気づいた
「あの、これって、要請があった場所に早く来いと暗に言っているんじゃないですか?」
そのツッコミにおっさんは悪びれもせずに、でも普段でも乗り放題ですよとか言ってくる
はぁ、とため息をついて続きを促す
「他にも、スマホや車、家など多くの特典もついてきます」
要請するときの連絡用スマホに妖魔が出現したとき用の移動手段、退魔師の居場所を掴んでおくための住居か
半目でおっさんを見ながら聞いていく
「基本的に退魔師が要望することは、我々が出来る限りお応えも出来ます」
その言葉が耳に入った瞬間に俺は同意の意を示した
「退魔師になります」
「え?」
「だから、退魔師になります」
俺のいきなりの発言におっさんは驚いているが、関係ない
「えっと、本当によろしいんですか?」
「はい」
「じゃあ、書類を持ってくるのでお待ち下さい」
そう言って、おっさんは応接室を出ていった
「ふう」
「お疲れ様です小次郎様」
ずっと隣で黙っていたジュリアが俺を労った言葉を言ってくる
「ああ、長かったが、こちらとしても良いことずくめだからな。まぁ、どうせ監視されるんだったら、特典もらって高待遇の方がいいからな」
そう、無職の俺に出来る仕事で、なおかつ能力が活かせるんだったらこれ以上ないくらいの業種だろう
それから、ジュリアと話しているとおっさんが戻ってきた
「お待たせ致しました。こちらをご確認の上ご記入お願いします」
渡された書類には必要事項と同意書など特におかしなところはない
実は見えない字が書かれているとか、小さい文字で理不尽な内容などもない
能力でも一応確かめたので大丈夫だろう
内容を確認した俺は、名前を書いて同意してその写しをもらった
「はい、ありがとうございます。これで粕谷さんは日本妖魔対策課の委託退魔師となります」
そう、書類にも書いていた通り俺は所属は日本妖魔対策課だが、委託退魔師となることで断る権利を持つようにしてもらったのだ
「それでは、後日連絡用のスマートフォンなど必要な物を送付させてもらいます。他にも住居など要望されるものは1週間後以降に仰ってください。仕事の方も1週間後からとなります。以上となりますが、他に何かございませんか?」
「はい、あります。こいつの戸籍とか諸々のことお願いしたいんですけど」
そこで俺はジュリアの透明化を解いて、おっさんに見えるようにする
「うわっびっくりした。もしかしてずっと一緒にいたんですか?」
「ええ、無礼かもと思ったんですが、まだ信用が出来ませんでしたので」
俺がそう言うとおっさんは、あははと笑って
「ということは我々はある程度の信用を得たと言ってもいいんですね?」
「そう思っていただいても大丈夫です」
「それは良かったです。ところで彼女の戸籍と仰っていましたが、彼女はいったい?」
「彼女もいわゆる霊力を持っているといことになるんでしょうが、いかんせん戸籍がありませんので対応をお願いしたいんです」
「な、なるほど。退魔師の要望を聞くのも我々の仕事のうちですから構いませんが、よろしければ彼女も日本妖魔対策課に入りませんか?もちろん粕谷さんと同じ扱いで」
やっぱりこのおっさんは話が早い
「はい、それでお願いします。ジュリアもそれでいいな?」
「はい、大丈夫です」
事前にジュリアとは話し合っていたので、決めていた展開になったことで了承の意を示した
「つかぬことをお聞きしますが、彼女、ええとジュリアさんでしたか、ジュリアさんの出自などは?」
来ると思っていた質問が来たので、決めていた言葉を返す
「そこは聞かないでください」
これだけだ。あとは何も聞くなというのが伝わるだろう
「あーはい。わかりました、詮索はしませんよ」
ほら、話が早いおっさんは言葉の裏をよく汲み取ってくれる
「戸籍を作る上で何か要望はありますか?」
「あ、じゃあ俺と結婚しているということにしてください。住所も今住んでいる場所で大丈夫です。まぁそのうち家を用意してもらうかもしれませんが」
「え!?」
何やら横で驚いた声が聞こえるが無視する
チラとおっさんがジュリアを見るが、横で真っ赤な顔をしてジュリアが頷くのを見て、笑顔でわかりましたと言った
結婚は良いものだと思う人ー?