第31話『B級鉄板革命!ソースとマヨが織りなす涙腺破壊攻撃』
――六日目。
蒼麦の収穫に再び迷宮へ潜った。
麦の穂を刈り取るたびに、ぶわりと香ばしい風が吹き抜ける。
おまけに現れた殻虫どもも討伐し、肉も甲羅も回収完了。
「……これでまた粉にできるわね」フィリーネが息を吐く。
「ふふ、こねこね楽しい!」リリナはもう粉まみれだ。
「……素材確保は兵站の要だ」クロフィードが影で頷く。
「ワシは狩りの最中でも腹が減るのじゃ!」ドリスは文句を言いつつも上機嫌だった。
戦いの合間、俺は内心で囁いた。
「……蒼麦と米、この二つを揃えた今だからこそ、次なる一手に出られる」
そう、米から――酒を。
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――七日目。
米を蒸し、麹を仕込み、水と合わせる。
やがて発酵が始まり、ほのかに甘い香りが漂う。
まだ荒いが、口に含めば確かに日本酒に近い味わいだ。
「……酒まで作るなんて、アンタどこまでやるのよ」フィリーネは呆れ顔。
「にすけ、リリナも飲むー!」
「子供はダメだ」
「しょぼん……」
クロフィードは杯を受け取り、目を細めて呟く。
「……これはただの酒ではない。人心を和ませる“軍師の道具”だな」
ドリスはぐびぐび飲み干して、顔を真っ赤にした。
「ふぉぉぉ! にすけ酒、竜をも酔わせるか!」
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――八日目。
ついに鉄板の本領を発揮する時が来た。
屋台の上で焼かれるのは――お好み焼き。
蒼麦粉を溶き、キャベツに似た野菜を混ぜ、豚肉を重ねて焼き上げる。
じゅわじゅわと音を立てるその上に甘辛いソースを塗り、マヨをかけると……
「な、なんだこの暴力的な香りは……!」
「ソースとマヨの波状攻撃……! 涙腺に直撃だ!」
客たちは大騒ぎ、あちこちで涙を拭きながらお好み焼きを頬張っていた。
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――九日目。
さらに畳みかける。
鉄板の上でコロコロ転がる球体――たこ焼き。
それは八日目の仕込みを終えた朝のことだった。
まだ陽が完全に昇りきらぬ市場の路地を歩いていた時、俺はふと足を止めた。
木桶の中で蠢く奇妙な生物。
八本の足をくねらせ、丸い胴体を持ち、瞳をぎょろりと動かす。
――どう見ても、タコ。
「……おいおい。お前、もしかして……」
俺は無意識に天を仰ぎ、脳内の絶対領域へ問いかける。
――《対象:殻蛸》
――《生態:迷宮沿岸部に棲息。岩に擬態し、獲物を吸盤で捕らえる》
――《食用適正:良好。火を通すと柔らかくなり、旨味が凝縮》
――《推奨調理法:焼き物、揚げ物、小麦粉料理との相性◎》
「……っ! 来たな、運命の出会い!」
心臓がどくんと跳ね、俺の脳裏にあの円い鉄板の姿が浮かぶ。
小さな窪みに流し込む生地、転がされる丸い球体、じゅわじゅわと立ち昇るソースとマヨの香り――
「……たこ焼きだ……!」
思わず口元がにやりと歪む。
市場の喧噪など耳に入らない。
俺の脳内は、すでに鉄板の上で踊る黄金色の球体で埋め尽くされていた。
「よし……明日はこれで決まりだ」
俺は殻蛸の入った桶を迷わず買い上げ、抱えて市場を後にした。
胸の奥で、次なる屋台無双の鐘が高らかに鳴っていた。
黄金色の皮がぱちんと弾け、ソースとマヨ、青のりが踊る。
口に入れた瞬間、冒険者が絶叫する。
「熱っ! でも旨ぇ! 涙が止まらねぇ!」
たい焼きも登場。
甘く煮た豆餡を包んで焼き上げれば、子供たちが歓声を上げ、母親たちが泣いた。
最後は焼きそば。
炒めた麺に濃厚ソースを絡めると、広場全体が一気に香りに支配された。
「酒にも合う……!」「いや、白米でもいける!」と、冒険者たちは口々に叫ぶ。
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こうして四日間――
蒼麦と米を基盤に、鉄板料理の四天王を異世界に叩き込んだ。
――《経験値+20000》
――《累計経験値58000》
――《売上:銀貨450枚》
――《累計売上:銀貨1290枚》
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「まったく……また泣かせて笑わせて、今度は酔わせるなんて……」フィリーネは呆れながらも耳を赤くしていた。
「にすけ! リリナ、今度はラーメンと焼きそば、どっちも食べたい!」
「……人の涙腺を弄ぶ策士め」クロフィードは苦笑した。
「ソースとマヨ……これぞ竜をも堕とす禁断の調味料じゃ!」ドリスは豪快に吠えた。
――その頃、遥か上空の天界にて女神アリュ・エインがそっと呟く。
「……ちょっと、また美味しそうなものばっかり作って……。神の私を差し置いて……ずるいわよ。
私だって、私だってにすけの料理食べたいのよぉおおお......」
――
――十日目の朝。
ギィン! ガン! と火花が散り、鉄を打つ音が迷宮都市の空気を震わせていた。
俺は仲間を連れて鍛冶場へ足を運ぶ。
熱気に包まれた火の間では、親方バルドランと八人の職人たちが、黙々と槌を振るっていた。
「おう、にすけ!」
振り向いたバルドランの額には汗が滲んでいる。
「約束どおり、進捗を見にきたのか」
俺は頷き、鍛冶台に並んだ剣や鎧に視線を走らせた。
鉄の輝きは均一で、刃も鎧もほとんど完成している。
「……九割方、出来ているぞ」
バルドランは自信を込めて告げた。
「あと一日あれば仕上げられる。約束どおり、申告に偽りなしだ」
「そうか……!」
俺は胸をなで下ろすと同時に、次の段取りを思い描いた。
「なら、完成した時に知らせてくれ。そのあと――新武具のお披露目を兼ねた和食ビュッフェパーティーをギルドと共同でやる」
鍛冶場に一瞬、沈黙が落ちた。
次の瞬間、職人たちの間からどっと笑いとざわめきが上がる。
「お披露目に……和食ビュッフェ!?」
「なんだそりゃ、最高じゃねぇか!」
「仕上げのやる気が倍増だな!」
親方バルドランも豪快に笑った。
「任せろ。最高の形で用意してやる!」
俺は満足げに頷き、火の粉の舞う鍛冶場を後にした。
仕込みの戦いは、いよいよ次の段階へと進む――。
鍛冶場から戻った俺は、屋台の机に献立の紙を広げた。
「よし……白米、味噌汁、肉じゃがに鉄板の三種。甘味はたい焼きに団子……。だが今回は鍛冶屋衆を唸らせる“大物”を入れるべきだな」
「大物?」フィリーネが怪訝そうに首を傾げる。
「肉料理ならもう十分あるじゃない」
俺は指を鳴らし、言葉を重ねた。
「例えば――唐揚げだ」
「……からあげ?」
四人の視線が一斉に集まる。
「雷鳥の肉を一口大に切り、醤油と酒と生姜に漬けて油で揚げる。外はカリッと、中は肉汁がじゅわっと溢れ、熱々を頬張れば笑いが止まらねぇ」
リリナが耳と尻尾をぴんと立てる。
「お肉を油で……カリッと!? なにそれ! リリナ、今すぐ食べたい!」
フィリーネは唇を尖らせつつ、わずかに興味を見せる。
「油で……肉を揚げる? 焦げるだけじゃないの?」
「焦がすんじゃねぇ。揚げるんだ。違いは食えば分かるさ」
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「そしてもう一つは “寿司”だ 」
「すし?」今度はクロフィードが眉をひそめる。
「それは武具か?」
「違う。酢で風味をつけた米を握り、その上に具材をのせ形を整えながら魂を込めて握る料理だ。魚でも肉でも合うが……今回は飛竜肉を超薄切りにして酢飯と握り、軽く炙る“炙り飛竜肉寿司”だ」
フィリーネはぎょっと目を見開く。
「にぎる? 米を……握って料理にするの? おかずとご飯を混ぜるんじゃなくて、重ねるの?」
「そうだ」俺はにやりと笑う。
「一口で米と具が同時に舌に届く。その瞬間、旨味が爆ぜるんだ」
リリナがぱぁっと顔を輝かせる。
「お米とお肉を一緒に……! リリナ、絶対おいしいと思う!」
クロフィードは腕を組み、低く呟いた。
「……陣形の重ね合わせか。米が大地、肉が兵。なるほど、兵法に通じるものがある」
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そこへドリスが机にずいと顔を近づけた。
「ぬはは! 寿司とやらも美味そうじゃがアレを忘れとらんか? 熟成中の殻虫キングのカニ肉! ワシはあれを待っとるのじゃ!」
「もちろんだ」俺は頷く。
「酢飯に盛って“カニ寿司”、甲羅で炙って“甲羅焼き”、脚肉はそのまま焼いて“カニ塩焼き”。締めにはカニ味噌雑炊、思いつく限り全部出す」
ドリスは感極まって鼻を鳴らした。
「ふぉぉ……! ワシの焼きそばと勝負できる逸材よ!」
「……勝負になってんのか?」俺は苦笑する。
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机の紙には、次々に新しい文字が並んでいった。
・白米・味噌汁・漬物
・肉じゃが・豚の角煮・照り焼き
・雷鳥の唐揚げ(新)
・飛竜肉寿司(新)
・熟成カニ料理(新)
・お好み焼き・焼きそば・たこ焼き
・たい焼き・団子・果物シャーベット
「未知の料理ばかりで不安になるけど……」フィリーネは耳を赤らめてそっと言う。
「……でも、楽しみよ」
リリナは両手を広げてくるくる回った。
「わぁぁ! 唐揚げ! 寿司! カニ! リリナ、お腹がしあわせに爆発するー!」
クロフィードは深く頷き、低く言った。
「……宴は、戦よりも人を一つにする。これは勝利の布陣だ」
「宴の竜王はワシじゃ!」ドリスは拳を突き上げ、また机を揺らす。
俺はその光景を見て、にやりと笑った。
「よし……これで決まりだ。未知の概念を異世界に刻む“和食ビュッフェ”。泣かせてやるさ、鍛冶屋衆もまとめてな」
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鍛冶屋九人を迎える準備は、こうして整えられていった。
だが今回の宴は、ギルド主催の公式行事でもある。ならば、まずはギルドの頂点に話を通さねばならない。
ギルド本部――重厚な扉をくぐると、石壁に反響する低い声が出迎えた。
「ふむ……お前がにすけか」
玉座にも似た椅子に座っていたのは、筋骨隆々の壮年の男。
その瞳は鋭く、ただの料理人と侮る者を射抜くような迫力を放っていた。
ギルドマスター、グラディオン。
「聞いたぞ。新武具のお披露目を“ビュッフェ形式”でやると言うではないか」
声は重く、まるで試すかのようだ。
俺は一歩前に出て、静かに答えた。
「そうだ。白米も、肉じゃがも、唐揚げも、寿司も、鍛冶屋の汗に負けぬ魂を込めて並べる。人を泣かせ、人を笑わせる……それが和食の力だ」
「ふん、泣かせる? 料理ごときで冒険者を泣かせると言うか」
グラディオンの口元が僅かに歪む。
俺はまっすぐに言い返した。
「料理はただの腹を満たす手段じゃねぇ。飯一口で人は立ち上がる。笑いも、涙も、希望も生む。
――剣が命を守るなら、料理は心を守る。どちらが欠けても、生きる力は続かない」
一瞬、場に沈黙が落ちる。
フィリーネが「……また始まった」と小声で呟く横で、リリナがきらきらした目で尻尾を振っている。
ギルドマスターは腕を組み、俺をじっと見据えた。
やがて、腹の底から響くような笑い声を放った。
「ははははは! 面白い! なるほど、言葉だけでなく眼が揺らいでおらん。……いいだろう、にすけ。
ギルドマスター・グラディオン、この勝負――完敗だ」
職員たちが驚愕の声を上げる中、グラディオンは椅子から立ち上がり、俺に手を差し出した。
「宴はお前に任せる。存分にやってみせろ!」
俺はにやりと笑い、その手を握り返す。
「任せろ。鍛冶屋も冒険者も、アンタでさえ泣かせてみせるさ」
俺はにやりと口元を歪めた、その瞬間――
――《経験値+2000》
――《累計経験値 60000》
――《称号:言葉の料理人(仮)》
――《特殊影響:ギルドマスター・グラディオン》
“和食”という概念が深く刻まれ、宴の意義を理解。
以後、冒険者士気高揚のためににすけを全面支援する。
――《派生影響:ギルド全体》
ギルド職員の和食に対する評価が上昇。
「料理で泣かされるかもしれない」という噂が冒険者全体に拡散。
次なる宴への期待値が爆発的に高まった。
俺はにやりと笑い、肩をすくめる。
「剣も魔法もいらねぇ。……飯と、ほんの少しの言葉があればな―」
こうして、前代未聞の和食ビュッフェパーティーはギルド公認の大イベントとして動き出したのであった――。
次話へ続く!
〜あとがき〜
――フィリーネ
「ほんっと……アンタ、ギルドマスターまで言い負かすなんて。どんだけ調子に乗れば気が済むのよ……。でも、まぁ……変なところで説得力あって、それがもうほんとズルいのよね」
――リリナ
「ギルマスさん、にすけのお話しで完敗してた! リリナ、次はどんな料理で泣かされちゃうのか楽しみ!」
――クロフィード
「……権力も威圧も、料理人の前では無力か。心を揺さぶる力こそが真の武器。なるほど、納得だ」
――ドリス
「わっはっは! ギルマスを“完敗”させるとは! にすけ、やはり只者ではない! 宴はますます盛り上がるぞ!」
――にすけ
「いやいや、俺はただ俺の信じてる事を言っただけだって……。でもまぁ、泣かせ甲斐がある顔ぶれが揃ったってことだな」
――ギルドマスター・グラディオン
「ぐぬぬ……完敗を認めたのだ、もう何も言うまい。ただ……必ず食わせてもらうぞ、和食ビュッフェ!」
――ギルド職員
「まさか、マスターがあんな風に笑うなんて……。にすけさん、あなた、いったい何者なんですか!?」
⸻
そして――空の上から、恒例の声が降ってきた。
――女神アリュ・エイン
「ちょっと……またギルドマスターまで虜にしちゃって……。私だって、にすけの料理を一口でいいから食べたいのに……神だから直接食べられないのよ。ずるい……ほんと、ずるいわ」
彼女はふくれっ面を見せた後、くるりと笑顔に変えて読者にウィンクする。
「でもね、あなたがブックマークや評価で応援してくれるなら、もしかしたら奇跡で私にも味が届くかもしれないわ。だから……忘れずにお願いね? 女神のお願いよ」
そして、嫉妬混じりの声で次回を告げる。
「次回、第32話! いよいよ仕込み本番。雷鳥の唐揚げ、飛竜肉寿司、熟成カニ料理……異世界に炸裂する“和食の総攻撃”!
……ああもう、読者のみんなだけ食べられるなんて、ほんっとに羨ましいんだから!
あと出番があれば何も言うことないんだから!」
一同『やっぱりそこか!!』




