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『異世界迷宮は和食のあとで』―その男の料理、食えば無双―  作者: 二天堂 昔
第一章『迷宮攻略は和食のあとで』

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第27話『究極の鉄板焼きショー開幕!味と香りの暴力に屈する夜』



鉄板の上で、油が弾けた。

焦げる直前の甘い匂いと、醤油のタレが焼ける香ばしい匂いが夜の広場に広がる。


「まずは――串焼きからいくぞ」


俺は用意していた雷鳥の部位を、それぞれ串に刺して鉄板の上に並べた。

もも肉、胸肉、レバー、ぼんじり、皮。

間には瑞々しい迷宮産のネギを挟み込み、味噌と醤油を合わせた特製タレをたっぷりと塗る。


じゅわっ……とタレが焦げ、甘辛い煙が白く立ち上る。

夜風に乗り、広場全体がその香りに包まれた。


「……っ!」

フィリーネが耳をぴくんと震わせ、胸を張って鼻を高くする。

「くっ……なんなの、この香り……もう、食べる前から負けた気分じゃない!」

そう言いながらも、瞳は獲物を狙う狩人のそれ。


「す、すごい……すごいにおい!」

リリナは尻尾をばふんばふん揺らしながら、目をきらきらさせる。

「リリナ、もふもふ震えちゃう……! ねぇ、もう食べていい!?」


クロフィードは腕を組み、外套の奥で小さく喉を鳴らす。

「ふむ……これは“香りの暴力”だな。食欲を強制的に支配する攻撃魔法に等しい……」

だが結局、外套の下で腹が鳴る音をごまかせてはいない。


ドリスは両手をばたばたさせて、今にも串を奪い取りそうだ。

「ぬおぉぉっ! 竜肉よりも、何故かこっちが食べたくなるとは! ワシの矜持が……いや、矜持よりも今はこの目の前の焼き鳥じゃ!!」


俺は笑いながら、焼き上がった串を一本ずつ皿に並べていく。

タレがじゅっと鉄板に落ちる音が、食欲をさらに煽る。


「さあ――迷宮都市で最初の“究極の鉄板焼きショー”だ。召し上がれ」


四人の手が、同時に串へと伸びた。



フィリーネは、まず“もも肉”にかぶりついた。

外はこんがり、中は肉汁があふれ、タレの甘辛さが絡みつく。


「……っ、んんっ!? な、なにこれ……弓を引く時の腕まで力が漲る感じ……! こ、これはただの焼き鳥なんかではないわ!」


頬を赤くしながらもツンと顔をそむけ、だが耳の先は真っ赤だった。


リリナは“胸肉”をぱくり。

淡白なはずの胸肉がタレでしっとりと仕上がり、噛むたびに甘みが広がる。


「んん〜〜! リリナの胸までふくらんじゃう〜〜!」

両手で胸を押さえて大げさにのけぞり、尻尾がぴんっと立つ。


「……いや、気のせいかもしれないけど!」

フィリーネが即座に突っ込み、クロフィードがむせて咳き込んだ。


クロフィードが手に取ったのは“レバー”。

雷鳥の血肉を連想させるような濃厚な香りが、彼の鼻腔を直撃する。


「……ほう……これは鉄と炎の味……否。苦みと甘みが渾然一体となり、魂を濾過していくようだ」

外套の奥で目を細め、深いため息をついた。

「……くっ……これ以上は言葉にできん。まさに背徳の味......」


ドリスは“ぼんじり”をがぶり。

脂がじゅわっと溢れ、尻尾を振るたびに竜の鱗がかちゃりと鳴る。


「ひぃぃ……こ、これは反則だろうがっ! 噛むたびに舌を犯してくる! 背徳の脂じゃぁあああ!」

もはや涙目になりながらも、串を離そうとしない。


最後に“皮”が残った。

パリパリと音を立てながら焼けた皮は、タレの焦げが香ばしく、噛むと独特の弾力。

四人同時に口へ放り込み――


「「「「っっっ!!!」」」」


思わず全員が沈黙した。

鉄板の音だけが響く。


やがてフィリーネが呟く。

「……やっぱり……あんたの料理は……悔しいけど、最高ね」


リリナは涙目で笑い、尻尾をばふんと揺らした。

クロフィードは拳を震わせ、ドリスは床を転げ回る。


俺は鉄板に次の具材を並べながら、静かに笑った。

「まだ始まったばかりだ。鉄板焼きショーは、ここからが本番だぜ」




鉄板がじゅわじゅわと鳴き、次に並んだのは色とりどりの迷宮産野菜だった。

緑の葉菜は香草のように爽やかな香りを放ち、赤紫の根菜は焼くと蜜のような甘さが滲み出す。


「まずは口直しだ。野菜を制する者は肉を制する」

俺がひっくり返すたび、鉄板に当たる音が小気味よく響く。


フィリーネは紫根菜をかじり、瞳を大きく開いた。

「……あまっ……! 野菜がこんな甘いなんて......!?」


リリナは緑の葉をもぐもぐし、尻尾をぶんぶん揺らす。

「お肉じゃないのに……リリナ、なんだか元気が出てきた!」


クロフィードは外套を押さえながら一口。

「……これほど野菜が甘美だとは……この世の理すら歪む……」


ドリスは涙目で叫ぶ。

「肉を待ってたのに野菜で心折られるとは、どういうことじゃー!」


そして、真打ちが現れる。

厚切りにした飛竜肉。脂が溶け、鉄板に落ちると白い煙が舞い上がる。

俺はガーリックを刻んで一緒に炒め、香りを重ねた。


「これがA5級迷宮飛竜の本気――ステーキだ」

ナイフで切り分け、一人ひとりに皿を渡す。


フィリーネはごくりと唾を飲み込んでから口に運ぶ。

「(はぐっ、もぎゅっ……)...うそ……とろけ…た……!? なにこれ、竜肉って……こんなに……」


リリナは一口食べ、両目をうるませた。

「し、幸せすぎて……リリナ、尻尾が止まらないよぉ!」


クロフィードは黙って噛み締め、やがて低く呻いた。

「……まるで、勝利そのものを噛みしめているかのようだ」


ドリスは顔を真っ赤にし、皿を抱え込んで叫ぶ。

「ワシの竜生五百年、この味に出会えただけで悔いなしじゃあああ!」


さらに鉄板で炒めたガーリックチャーハンを大皿に盛り付ける。

黄金色に輝く米粒は一粒一粒が立ち、香ばしい香りが夜空へ舞った。


「……っ! こ、これは……」

フィリーネは両手で木匙を握りしめ、必死に涙をこらえる。

リリナは「おかわりー!」と叫び、クロフィードは外套を脱ぎかけ、ドリスは尻尾で床を叩き続けた。


スープは昆布・鰹・イカを合わせた三味一体の黄金出汁に、カニ殻を少しだけ加えた特製。

ひと口飲めば全身が温泉に浸かったかのようにほぐれていく。


そして、最後に出されたのは――シャーベット。

「冷凍機能を試してみた。果物を凍らせ、砕き、蜜を絡めただけだが……ほら、食ってみろ」

透き通る氷の粒に舌を触れると、火照った身体が一気に冷やされる。


「「「「あああああぁぁぁ……」」」」


四人同時に脱力し、焚き火の明かりに頬を赤らめた。


俺は鉄板を拭きながら、静かに呟いた。

「……究極の鉄板焼きショー、完結だ。

さて――ここからが本当の無双の夜だ」





―《フィリーネ視点》―

鉄板に並ぶ飛竜肉から立ち上る香りは、矢を放つ瞬間よりも胸を高鳴らせる。

……悔しい。


私は戦場で刃を振るうことしか知らなかった。強くあればそれでよかったはずなのに。

目の前の男は、刃じゃなく、食材と火と……そして心で人を動かしている。


「……ほんっと、ずるい……」

頬が熱くなるのをごまかしながら、私は一切れを噛み締めた。

美味しすぎる。……でも、それ以上に、この料理人が作る未来を、もっと見ていたいと思ってしまう自分がいる――。




―《リリナ視点》―

お肉! お野菜! お肉! きらきら光るご飯! スープ!

お皿の上が宝物みたいで、心臓がわくわくして止まらないよう。


ひと口食べると、尻尾が勝手にぶんぶん揺れちゃう。

「……リリナ、もっともっと食べたい……」

涙が勝手に出る。


だって、こんなに幸せなご飯、しあわせ過ぎてうれし過ぎて......

にすけの料理を食べてると、怖いことも、暗い思い出もどっかいっちゃう。


――この人と一緒なら、大丈夫。

子どもの私でも、そう信じられるくらいに。





―《クロフィード視点》―

肉の焼ける音。

香ばしい匂い。

人間の宴など、これまで嘲笑の対象でしかなかった。


だが今、外套の下で震えているこの手は……なんだ。

「……この快楽を、料理ひとつで与えるとは……」


彼は剣を握るでもなく、玉座に座るでもなく、鉄板の前に立っている。


その姿は――私が何百年も求めて見つけられなかった“力”そのものだ。

……このまま観察するだけでいいのか?


否。

私は、弟子入りを願い出る日を、もはや先延ばしにできぬかもしれん。





―《ドリス視点》―

鉄板から立ち上がる煙に、心臓がごうごうと燃える。

竜としての誇りも、長命の矜持も、どうでもよくなる。


「……人の身で、これほどの宴を……!」

私は竜であり、王であり……そして今はただの少女の姿で肉を頬張っている。

だが、涙が止まらぬ。


舌に触れる味が、理性も誇りも溶かしていく。

――この男を“主”と呼ばずして、誰を呼ぶ。

己の魂の奥底から、そんな声が響いていた。




こうして四人はそれぞれ違う想いを抱えながら、鉄板焼きに舌鼓を打ち、にすけの背中を見つめていた。




――《経験値+6000》

――《累計経験値45000》


――《仲間に大きな感動を与え、絆を深めました》

――《新たな成長条件を満たしました》


――《和食無双バフがグレードアップ可能です》

・消費経験値40000

・バフ効果候補を3種類から選択可能

・バフ効果のオン/オフ切り替え機能を追加

・持続時間を12〜72時間から選択可能(短いほど効果増大)


 


「……な、なんだよこれ……」

俺は鉄板を拭きながら、光の文字を見上げて言葉を失った。


フィリーネは箸を置き、呆れた顔でため息をついた。

「……アンタのスキル、ほんともう笑うしかないんだけど……。オンオフ? 何それ、料理に電気スイッチでも付けるつもり?」


リリナは尻尾をぴーんと立ててぱちぱち瞬きを繰り返す。

「え、えっと……バフが選べるの!? え、え、え、リリナ、何選んだらいいかパニックだよぉ!」


クロフィードは肩を震わせ、外套の奥で口を押さえた。

「……ふ、ふはは……! 和食一つでここまで世界の理を改変するとは……。無双の名が伊達ではない……!」


ドリスは拳を握りしめ、顔を真っ赤にして叫んだ。

「なんでそんな便利すぎるものが“飯”に付随してくるんじゃあああ! おかしいじゃろ! もう笑うしかないじゃろ!」



俺は額を押さえ、苦笑いを浮かべた。

「……いや、俺が一番呆れてるんだがな。バフにオンオフって……俺は歩く電化製品かよ......」


そう言った瞬間、全員が同時に吹き出した。

焚き火の夜に、笑い声が響き渡る。


笑い疲れて火を見つめ直した時、俺は心の奥で静かに思った。

――これからの和食がまた一段階、とんでもない領域へ足を踏み入れちまったかもしれんな。




――《経験値を40000消費しました》

――《累計経験値5000》

――《和食無双バフ グレードアップ完了》

――《バフ効果候補を選択してください》


俺は光の文字を指でなぞるように見つめ、静かに息を整えた。

「……ここは癒し系だな」


――《癒しの和食無双バフ 選択》

――《効果発動:全員の疲労回復、心身活力上昇》


 


次の瞬間、フィリーネが驚きの声を漏らした。

「……体が……軽い!? この旅の疲れが全部……消えたみたい――!」


リリナは尻尾をふわふわさせながら、跳ねるように回転した。

「リリナ、ぜんぜん眠くない! なんか……すっごく元気になってる!」


クロフィードは目を細め、拳を握りしめる。

「……これは……戦の常識を覆す力。和食は人を癒し、蘇らせる……まさに奇跡だ」


ドリスは天を仰ぎ、胸を張った。

「ず、ずるい! こんなの、竜の加護すら霞むわ! お前、本当に人間なのか!?」


 


さて、と。

ここからが本番の鉄板焼き無双だ。


俺はまだ熱の残る鉄板に再度、雷鳥ねぎま串と飛竜ステーキ、ガーリックチャーハンを調理し始めた。



すると次の瞬間――

「なんだ!?」

「すげえ匂いがするぞ!」

「ギルドの訓練所で何が始まってんだ!?」

「やっと匂いの出どころを見つけたぞ!」


ガタガタと扉が開き、ギルド職員、冒険者、商人、そして通りがかりの一般人までが、ぞろぞろと広場になだれ込んできた。


鉄板の上で串焼き、飛竜肉、ガーリックチャーハンがじゅうじゅう音を立てるその香りに、皆の目が釘付けになる。



その暴力的とも言える香りに人々が予想外の反応を見せる。


「今日の肉体労働の疲労がなくなったかも...?」

「な、なんか腰の痛みがなくなった気がする...?」

「うぉおおお、なんかやる気が漲ってきたぁあああ!」


その瞬間、俺の脳裏に冷や汗が流れた。

「……しまった、一般人に匂いだけで軽くバフを効かせちまった……!」


俺は慌てて脳内に叫んだ。

「バフ、オフだ! 今すぐ切れ!」


――《和食無双バフ:OFF》 


光がふっと消え、群衆が「?」と首をかしげる中、俺は鉄板を前ににやりと笑った。

「……悪いな、バフはお預けだ。だが――鉄板焼きは別だぜ」


炎がぱちりと弾け、飛竜肉の脂が香ばしく焼け上がる。

こうして「鉄板焼き無双ショー」の第二幕が、街の人々を巻き込んで始まったのだった。




次話へ続く――。



〜あとがき〜




フィリーネ「……ちょっと! アンタ! あの“癒しバフ”ってやつ、街中の人まで巻き込むとか想定外すぎでしょ!」


にすけ「いや、俺だって焦ったんだよ! まさか焼いてる匂い嗅いだだけで腰痛が治っただの、やる気がみなぎっただの……俺は整体師じゃねぇっての!」


リリナ「でもでも! みんな笑顔になってた! リリナ、すごーく嬉しかった!」

(尻尾ふわふわ大回転)


クロフィード「ふ……民草が癒える姿は悪くない。だが、和食一つで世界の均衡が揺らぐ……やはりこの男、規格外……!」

(外套の奥でニヤニヤ)


ドリス「ぬぬぬ……! ずるい! 街の者まで魅了するなど……ワシも負けておれん! もっと飯を寄越せぇぇぇ!」


モブ冒険者「おーい! 次は鉄板焼きおかわり頼む!」

商人「私にもその“やる気バフ”をもう一度……」

ギルド職員「……ダメです! 混乱しますからオフにしてください!」


にすけ「はいはい、もう切ってるっての! だから落ち着け!」


そこへ――


女神「ふふふ……な、なんなのよ! 私の加護よりも、鉄板焼き一つで癒されるなんて……嫉妬で焼け焦げそうなんですけどっ!」


一同「おまえかよ!?」


女神「でも……まあ、次回も見逃しちゃダメよ。どうせまたとんでもない“飯テロ”やらかすんだから!」


次回、『腕利き鍛冶屋登場!新たな武具との邂逅』

お楽しみに!

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