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12話

 くっ。この魔族、隠密機動隊とかいうところのトップと言っていたし、間違いなく上位幹部級だ。足手まとい……クラスメイトを守りながら戦うのは厳しいぞ。


「案ずるな。誇りある上級魔族として、その他の有象無象に手を出す気はない……」


「襲撃をかけてきた者の言葉など信じられるか」


「ふ、貴様からすればそうだろうな。だが、貴様とニア・アザレア以外には殺す価値すらない……」


 僕には殺す価値があると? 敵ながらその洞察にはあっぱれだが、しかし嬉しくない……!


 それに、どうせこいつは僕たちのことを舐めているから、外野に手は出さないなどと言っているのだろう。クラスメイトを訓練場から逃すかどうかは、ひとまず一当てしてから考えるか。


 警戒はしつつ、まずは――。


「アザレア嬢。さっきあいつが使った【空間転移】……予兆は見えたか?」


「うん、大丈夫。これでも空間の操作には覚えがあるから」


 自慢かコイツ! 僕には使えないというのに……!


 ッいやいや、今はそんなことを考えている場合ではなかった。


「よし、それなら。急造で上手くいくか不安だが、僕たちであいつの相手をするしかない」


「わかってる。たぶん……私たちくらいしか、あいつの相手にならないから」


 よし。しかしあっさり従ってくるな。今のうちとはいえ、僕はアザレア嬢より席次が下だ。主導権を握られることにはらわたが煮えくり返らないのだろうか? 僕なら煮えくり返るぞ。


 まあ、言うこと聞いてくれる分には問題ないが。


「それで、ヒイラギさん。作戦はどうする? 連携するなら、お互いの役割とか決めておきたいんだけど……」


「そうだな……。僕たち二人ともがやつの動きを読めるなら、どちらかが足を止めさせて――」


「――相談の途中で悪いが。そろそろ、行かせてもらう」


 キールは僕たちの会話に割って入り、直後姿を消す。そして、次に現れたのは――


「ッアザレア嬢! 後ろだ!」


「わかってる、けど……!」


 けど間に合わない、と!? くそ、世話が焼ける。


 また無属性魔法の力場と、魔力の盾で――


「それは先ほども見たぞ……」


「なッ、盾を砕きながら!?」


 手刀で僕の盾を崩しながらアザレア嬢に迫っているだと? 圧縮した魔力の硬度は相当に高いというのに、なんて強度の身体強化だ!


 このままではアザレア嬢がと思ったその時だった。


 アザレア嬢は右腕に禍々しい魔力を集め、小さな魔法陣を腕に重ねる。そして唱えた。


「――第二魔法、【空間同化】!」


 直後。


 アザレア嬢の右腕から、その存在感が消失した。見た目は先ほどとそう変わらないが、しかし。


 その右腕が、僕の作った盾を食い破ろうとするキールの手刀に向かう。アザレア嬢の腕は盾に亀裂ひとつ入れることなく貫通した。そのままキールの手刀に向かって――


「く、これはッ……!」


 手を引いたな、キール。今のアザレア嬢の攻撃は、お前にとっても明確に脅威となるようだな!


 よし、今のうちに追撃を。


「第一魔法、【炎】と【雷】! 火山雷(ブレイズ)!」


 二種類の魔法陣から放たれた、炎と雷が混じりあった奔流。攻撃力の高い混合魔法だ。頑丈な魔族でも、直撃すればひとたまりもないはずだが。


 ……まあ、普通に身体強化で避けられるよな。相手は【空間転移】まで使える魔法士だからな。


 だが、しかし。光明は見えたぞ。


「アザレア嬢。基本的な戦術はいまやった通りだ。僕があいつの動きを止めるから、その間にアザレア嬢が有効打を狙ってくれ」


 どうもアザレア嬢の反射神経ではキールの【空間転移】に反応できなそうだからな。まったく、首席だというなら僕に負担をかけないようにしてほしいものだ。


 しかしそうであれば仕方がない。アザレア嬢か僕、どちらが攻撃されたとしても初撃は僕が防ごう。


 【空間転移】ほど高度な魔法はさすがにクールタイム無しで使用できないだろうから、僕が抑えている間にアザレア嬢が攻撃を入れられれば。


「ごめん……私が反応できないから。でも、攻撃なら私もヒイラギさんの役に立てるから……!」


「ああ、さっきの【空間同化】なら防御を貫通して攻撃できるはず」


 さっきはギリギリで避けられたが、そうでなければ勝負は決まっていた。


 【空間同化】――その名の通り、自身の身体をこの世界と同化させることで、すべての攻撃を透過することができる。


 しかも、アザレア嬢の場合はそれで終わらない。空間と同一化した自身の身体を相手と重ね、そこにあの特異な魔力を満たすことで、相手の肉体を内部から破壊しようとしていたのだ。


 まったく、なんと羨ましい魔法だ……。僕だって近いうちに習得できるはずだが、もうアザレア嬢に先を越された時点で腹立たしい。


 まだ彼女は腕一本くらいしか【空間同化】できないというのが救いか。必ずやアザレア嬢より早く、この僕が完全にマスターしてやろう。


 だが今はその前に――。


「――さあ来い、キール。お前を打ち倒す算段はすでについている……!」


「確かに、先ほどの攻撃には驚かされた。お前の混合魔法は大戦時でもそう見ないほどの練度であったし、ニア・アザレアに至っては第二魔法まで。だが、しかし」


 ――なんだ? キールが立つ地面にいくつも魔法陣が現れ、足元にいくつも折り重なっていく。


 そして、その魔法陣が眩く光った直後。


「今度は、また僕の後ろか!」


「いい反応だな……。だが」


「ッ!? 消え――」


 どういうことだ!? これほど間隔を空けずに連発するなんて――


「【空間転移】の連続使用ができないなど。――俺は、一言も口にしていない」


 今度は前だと!? くっ、盾の完成が間に合わない! 中途半端な状態で受けるしか……!


「ヒイラギさんッ……!」


「トールさまっ!!」


 アザレア嬢やクラスメイトの悲鳴が聞こえた次の瞬間。


 キールの手刀が半分ほど形成された盾を砕き、胸の前で交差した僕の腕に直撃する。


 なんて、力だッ……! 全力の身体強化でも受け止めきれない! ぐ、身体が浮いて――。


 あっと思った時には、僕の身体を宙を舞っていた。凄まじい勢いで視界が回転し、直後固い何かに背中からぶつかって止まる。


 一瞬息が止まったが、しかし。


「ごほっ……はぁ。なんとか、耐えたか」


 しかし訓練場の壁に思い切り衝突したぞ。身体強化が切れていたら普通に死んでいたくらいの衝撃だ。


 ただ、息をついている暇はないな。


「ヒイラギさん、そっちに魔族が!」


「ああ、分かっているさ。さっきは連続発動はないと思っていたから後れを取ったが……第一魔法【氷】、氷柱剣(アイシクル)


 氷の剣を構えて、再び虚空から現れたキールの手刀に合わせる。


「ぐ、重い……。力場もいるかッ」


「ふ、さすがに今のでレンドーアの二大巨頭を倒すことはできんか……」


 なんだ二大巨頭とは? 誰が名付けたか知らないが、いいセンスじゃないか!


 というかなぜキールがそこまで内部事情を知っている。誰かが情報を渡して手引きしたとしか思えん。やはり大賢者か!?


「――くそ、また転移か……。アザレア嬢、そっちに行ったから気をつけるんだ!」


「わかってるけど、やっぱり私の反応じゃ……!」


「防御は僕に任せて、なんとか攻撃を当てることだけ考えてくれ!」


 相手の攻撃を防ぐだけなら何とか間に合うが、こちらの攻撃を当てる前に逃げられる。【空間転移】が無法すぎるぞ!


 何か、相手の足を止める方法はないのか?


 僕はアザレア嬢に襲い掛かるキールに対処しながら呼びかける。


「相手は任意の二点の空間を入れ替えることで転移している。なら、同じ第二魔法でその空間操作を妨害できれば……。――アザレア嬢! 【空間同化】の他に使える第二魔法はないか!?」


「ごめん、まだ【空間同化】しか使えない……。ッ、また逃げられた……!」


「打つ手なし、か!」


 どうする? このままでは防戦一方だぞ。


 さっきからキールは、僕とアザレア嬢に攻撃を仕掛けては転移で逃げることを繰り返している。


 今はまだなんとか反応が間に合っているが、これは綱渡りのようなものだ。疲労や気のゆるみで、いつ相手の攻撃をまともに受けてもおかしくない。


「やはり、どこかで博打にでるしかないか?」


 ああ、いやだいやだ。なぜこの僕が自らの身を危険にさらさなければいけないんだ。僕より成績が上なら何とかしてくれ、アザレア嬢よ!


 ……なんて、言っていても仕方がないか。アザレア嬢は忌々しいが、別に死んでほしいとまで思っているわけではない。


 気は進まないが、僕がリスクを負ってでも打って出るしかないだろう。


 いまキールの攻撃に曲がりなりにも反応できているのは僕のみであるし、あいつに命を狙われているし。


 それに何より――




「みんなの前で、情けない姿を見せるわけにはいかないからな……!」


 ――僕の株が下がってしまうから!




 と、いうことで……腹は括った。


 僕は二つの魔法陣を浮かべると、それを一つに重ね合わせる。


「第一魔法、【光】――!」


 【炎】と【雷】を複合させた上位属性だ。かなり制御が辛いが、その分威力は折り紙付き。


 だが、この魔法を選んだもっとも重要な理由は威力ではない。


 僕はアザレア嬢の背後に、わずかな魔力、すなわち一瞬前に姿を消したキールが【空間転移】する予兆を感じ、片手を向けた。


 そして。


「――閃光(レイ)


 手のひらの先、黄金の魔法陣から光線が放たれた。真っすぐ突き進むそれは、もはや目で追うことすらできない。それがこの魔法を選択した理由――すなわち、転移直後に避けようのない速度だ。


 【空間転移】で現れたキールだが、この光速の置き技に対処できるはずが――


「む、ぐ……! これは……かの大賢者の十八番か!」


「な、に!? 体で光線を受け止めている!?」


 嘘だろう……身体強化があるとはいえ、どれだけ頑丈なんだ! いや、あれは身体強化の魔力を光線が当たる部分にだけ集中しているのか……!


 だが、明らかにダメージは入っている。そんな状態で高度な制御が必要な第二魔法は使えないだろうし、動いて逃げようにも身体強化が薄い部位に光線が当たれば大ダメージは必至。


 ならば。


「――アザレア嬢、いまだ! そいつに攻撃を!」


「ッ任せて!」


 よし! これでアザレア嬢の【空間同化】を当てれば僕たちの勝ちだ。


 光線を放ちながら、そう勝利を確信した瞬間だった。


 ――キールは光線の痛みに顔を歪めながら、素早く魔法を発動したのだ。


「第一魔法【闇】、暗幕(ブラインド)


 あれは……光を遮断する、暗黒の空間を生み出す魔法か! 完全ではないが、僕の光線が大幅に減衰されている!


 自由を取り戻したキールは、向かってきたアザレア嬢の腹に拳を叩き込みうずくまらせると、再び【空間転移】で――


「――今の魔法は、魔族を山の数ほど屠った大賢者が、大戦中に好んで使っていたものだ。大戦末期ごろにはその対策も魔族内で広く知れ渡った……」


 僕の背後に! だが、いま【光】を解除しても迎撃はもう間に合わん……! この魔法難しすぎて他の魔法と並列起動がほとんどできないんだ。


 くそ、【闇】なんて人間で使える者はほとんどいないんだぞッ。そんな対策、思考の中にあるものか!


「さきほどまで上手く防いでいたものだが。やっと、隙ができたな……」


「お前の方が一枚上手だったようだ。参ったよ……」


 こう言っておけば、攻撃を止めてくれないだろうか。周囲に手を出さず人質もとらない、謎に騎士道精神を持ち合わせているやつだし。


「ふ、よく言ったものだ。絶体絶命の状況で、微塵も諦めていないその目……」


 ダメだ、バレている。とりあえず身体強化はめいっぱい発動したが。


 行けるか……無理?


「敵ながらあっぱれだ。貴様のような強者と久々に立ち合えて、満ち足りた時間だった。せめて最後は苦しみがないよう……」


 何が満ち足りた時間だ。強いやつと戦いたいなら大賢者にでも挑んでおけば良かっただろうが! エセ騎士道め……!


 ああああ、強化強化強化……。絞り出せ魔力を……!


「では」


 とんでもない魔力を放ちながら、なにやら青い炎をまとった手刀を振りかぶるキール。


 見るからにヤバそうだが……まあ、死にはしないだろう。問題はこの一撃で大怪我を負った後、追撃をどうしのぐかだ。


 くそッ、だから嫌だったんだ! 大賢者が残って僕たちを護衛していればこんなことにはならなかったのに……!


 だがしかし、僕は天に愛された高貴なる男だ。なんやかんやと上手くいって……例えば大賢者がちょうど戻って来て助かったりしないだろうか……!


 などと。現実逃避をしながら、身体はしっかりキールの攻撃を防ごうと動いていた、その時だった。


 聞こえた声は――




「や、やめてえ! わたしのトールさまから、はなれてくださいッ!! 突風(ブラスト)ぉお!」




 この声と魔力……!


 ――リュー、だと!? バカな、せっかく見逃されているのに手を出すなど……!



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